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71  全身全霊を持ってへし折った!

 





 まるで木偶人形を切り刻む勢いで、何度も何度も、何度も、何度も、カミュはウゴに穂先を刺しながら話しかける。


〜ショーゴは◯◯!〜

ー…ぐー

〜ショーゴの◯◯◯◯◯◯◯!〜

ー……ぐぎー

〜ショーゴは◯◯◯◯に◯◯◯◯のに◯◯◯◯◯ヘタレ!〜

ー…ぅ……ぬぬー

〜ショーゴが◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯のは◯◯◯◯◯◯と◯◯◯したからっ〜

ー…っ……っぁうぅっー

〜ショーゴは◯◯◯◯◯◯◯◯っ!〜

ー………そ、それはっー

〜ショーゴの◯◯◯は◯◯で◯◯ですっ〜

ーっ?!……ひぃー


(心を抉りとる可能性があるため、伏字とさせていただきます・・・)



 カミュはアーガスが日記に書けなかった!ほど、情けなくて、恥ずかしくて、穴があったら死ぬまで入っていたい!ウゴの黒歴史を心に届くように、しっかりと大声で怒鳴った。

 一刺しごとに、しっかりと心を抉って、へし折るだけの気合をこめる。

 一刺しごとに、身体にもしっかり風穴をあける。

 身も心も徹底的に逃れようなく痛めつける!


 ショーゴ戻ってこい!

 情けなくて泣き虫で甘え下手なショーゴ!!と。

 カミュは全身全霊を込めて、ウゴをへし折ろうとした。


 気のせいか、カミュを手伝っている4柱の視線が、ものすごくウゴに同情的になってきている。

 異世界の勇者って、こんなに可哀想な目にあっていたんだーという想いまで、じんわり伝わってくる。


 カミュはひたすらに、ウゴの心と身体を抉りまくっていった。

 手を抜かず、決して油断せず。






『………っカ』


 カミュは、先ほどまでウゴが見せていた嗤いが、やっと消えたのを感じた。


『カ、カミュ、痛いっ、頼む、お願いっ、やめてくれぇぇぇええっ』


 ウゴに触れそうな距離で止まったカミュは、真っ赤になって、今にも涙腺が決壊寸前なウゴの顔をまじまじと見て、ようやく槍の穂先を下げた。

 どうやら、勇者時代の黒歴史を垂れ流して、ウゴのなけなしの自尊心を引き裂きまくった甲斐があったようだ。


 神殺しの槍で数十回も串刺しにされたウゴの腹は、ずたずたになっている。

 内蔵がこぼれ出てくる事はないけれど、切り裂かれた黄みがかった肌より、黒い中身が多く見えていた。

 これで死なないのか?と聞いてみたくなるような光景だ。


 ウゴはカミュに笑みを向けた。

 完全に泣き顔のままで。

 恥ずかしすぎて死にたい気持ちのまま。

 泣きじゃくった後の、子供の表情で。

 内心はぐっしゃぐしゃでぼろぼろで、今すぐ穴を掘って入りたい、もしくは消え去ってしまいたいと思っていたが。

 人間だった頃の劣等感、低すぎる自己評価、自分への嫌悪を切り捨ててはいても、羞恥心!が捨て忘れて残っていたのだ。


『カミュ、ひぐ、た、助かった、あでぃがどう』


 青年姿のウゴの瞳から、ぼたぼたと涙がこぼれた。

 ありがとうじゃないけど、ありがとうなのだ。


 今までのウゴなら、一年くらい立ち直れなかったに違いない。

 家に引きこもっていたかもしれない。


 ところが、今のウゴは心をへし折った張本人であるカミュに、礼を言う余裕がある!


 完璧にラリッた勢いだけで、人であった頃の名残を捨ててしまったせいで、自分の性格や考え方が、変わっている!とウゴ自身にさえ分かった。

 …自分の意思で捨てたので、取り戻せそうにない。

 それが、神として存在していくのに良いのか悪いのか。

 冷静になってみれば、さっきまでの言動がおかしいと分かるが、カミュがいなければ、あのままポメトラム大森林に跳んでいたかもしれない。


 しばらく羞恥にのたうち回りながら泣いて、ウゴは袖で顔を拭った。

 神なのに顔中ぐしゃぐしゃで目元が赤くなっているし、鼻水が…。


『えー、と』


 ウゴはカミュを助けてくれたらしい、トイプーとタワシとネオンと金魚?にもお礼を…と思って、名前が分からないのでチラ見して困っていると、トイプーがため息をついた。


ーわたしはすでに名乗っておるぞ。

 ハヨツワライルスコだー

()が名はチノウズラモムルー

ーソホォヨオソノロゥドというー

うぬ()はキュリュレシュフィシェー


 なんでこの世界は神様の名前長いんだろうか、とウゴはとりあえず頭の中で数回繰り返す。

 トイプーがハヨ、タワシがチノ、金魚がソホ、ネオンがキュー。

 トイプーがハヨ、タワシがチノ、金魚がソホ、ネオンがキュー。

 トイプーがハヨ、タワシがチノ、金魚がソホ、ネオンがキュー。


『ありがとうハヨ、チノ、ソホ、キュー』

ー何だその呼び方は!

 神の名を略すでないぞっー

ーチノ!!、その呼び名良きかなっ!ー

ーチノウズラモムル!そなたは何を言うておるのだ!ー

()はチノが(イタ)く快いー

ー…………ソホ?……ソホー

ーキュー、キュー、キュリュレシュフィシェはキューー

ー気に入ったとかいう問題ではないのだぞっー

()が許諾する也、チノと呼べー

ーソホ、ソホ?、ソホー

ーキュー♪ー



 いきなりぐっだぐだのすれ違った会話を始める4柱に、ウゴは苦笑を向けてから、ものすっごく痛い身体をさすった。

 胸元から下腹部までぐずぐずだ。

 自分の腹なのに見たくない、とウゴは顔をひきつらせる。


 さすが、カミュ。

 そして神殺し「神貫」だ。

 胴体に穴をあけられるだけでなく、もしも手足を切り落とされていたら、神気をどれだけ注ぎ込んでも欠損は簡単に治らないと…今は分かっている。

 カミュが今後を考えて、ウゴの手足を切り落とす暴挙にでなかったのは、考えるまでもない。


 神殺しの槍は、本当に神を殺せる槍だ。

 過去に体感はしていたけれど、本当に。

 もしもバラバラに切り裂かれていたら、存在ごと死んでいただろうな、とウゴは歯を食いしばった。

 カミュに、ひどい役をさせてしまった、と。


 神気を暴走させたことで、新しく得たのはウゴの中で眠っていた一ノ神と二ノ神の知識。

 ウゴの性格なのか、元異世界人だからなのか、記憶は得られなかった。



 下位神4柱+上位戦精霊のカミュ+神殺しという過剰戦力で、ウゴの腹に空けられた大量の風穴は、とうぶん塞がらないだろう。

 とりあえず着替えて隠さないと、ホルーゴ父さんに怒られる、とウゴは言い争っている犬とタワシを見ながら思った。


 鎖と縄でグルグル巻きの団子になっているフェブレベギュエラをどうするかは、一旦ホルーゴ父さんと、「世界」に聞いてからにしよう、とウゴは苦笑した。

 助けて、と世界に頼まれたから、ここで他の神に任せてしまう訳にはいかない。


 困った事に、生来の重たい自己嫌悪感情を丸ごと()()()しまったので、頭を抱えたい気持ちはあっても、繰り返さなければ良いだろう、くらいにしか思えなくなっていた。

 ウゴは、前向き思考に生まれ変わった!

 NEWウゴは、羞恥に悶えて反省はすれども、何日も落ち込まないのだ!




 ずたぼろの服を着替えてから、ウゴは垂れ流していた神パワーを、完全に抑える。

 未熟ながらも世界1つを動かしていた力は、枯渇の気配すらない。


「…カミュ、帰ろう。

 ()()()の世界に」

〜仕方ないですねぇ。

 貸し1つですよ、流麗な容姿で遊び慣れた女性を紹介して下さい〜


 そんな知り合いいないぞ、と思いつつ、マーキンの、今世の容姿だけなら完璧か?とウゴは思いつく。

 そもそもその前に。


「……カミュ、半透明で、触れないだろ?」

〜!……そ、そうでした、なんたる屈辱!

 この先において小生は、咲乱れる美姫の花顔を愛でてはならないというのですかっ!?

 おのれぇ!神ぃ許すまじぃっ!!〜


 カミュは魔王に殺されて、執念で精霊になったが。

 自分の生き死によりも、女性と楽しめない方が、許せなかった。

 もはや男の鑑?


「な、なんか考えるから、落ち着けって」

〜絶対ですよショーゴ!

 絶対に!再び麗しき花と(シトネ)を共にせんことには、この滾りが治まりませんからっ!!〜

「はい、こわいし、って、はいっ!!約束します!!」


 やっぱりカミュは虚空の中に閉じ込めておくべきだな、とウゴは決めた。

 しかし、上位戦精霊になったカミュは、自分で虚空を抜け出す方法を編み出してしまうのだが、この時のウゴはカミュの女性に対する執念を甘く見ていた。



 ウゴは、4柱を振り返る。


「自分たちで帰れるか?」

ー肯定す。

 世話になった[名も無き神]ー

ー名も無き神よ、どうかこのまま、世界に愛される神でいておくれー

「ああ、心がけるよ、じゃあな」

ーうぬからも、礼をー

ー…助けを感謝するー

「オレの方が助けられた気がするけどな」


 キュー(ネオン)ソホ(金魚)にも声をかけて、恥ずかしいのをごまかすように笑うと、ウゴは「神貫」に手をかける。


〜では、まずは報告ですな〜

「ああ、落ち着くまで、待っててくれよな」


 カミュを虚空に放り込むと、ウゴは「世界」へ跳んだ。

 振り返らずとも、緑と紫に彩られていた未熟な世界が、神気を根こそぎ奪われて、ゆっくりと崩れていくのが、分かった。


 ウゴは、この歪な世界を維持しない。

 したくない。

 創りかけのこの世界には、意志が産まれていないと知ったので、自壊するにまかせることにした。

 神の知識で、世界は粉々に崩れた後で他の世界の間を漂い、少しずつ他の世界に吸収されていく、と知っている。


 生き物1つ産まれなかった世界に、ウゴは手をあわせた。

 他の世界の一部として受け入れられるようにと、ただ崩壊して塵へ消えてしまわない事を願った。











 ウゴはふわりと甘いような香りに包まれ、安心した。

 そして、そのまま…べちゃりと潰れるようにその場に倒れた。


 異世界にいる間は気にならなかったのに、こちらの世界に戻ってくるなり、傷が痛くて、ものすっごく痛くて、しかも動けないくらい疲れている事に気がついたのだ。

 つまり、気がついた時には、もう動けなかった。


 神パワーは枯渇していないのに、動けないってなんでだよ!?とウゴ本人が一番慌てているが、やっぱり動けない。

 枯渇とは違うのに、体が重い。


「ショーゴくん!」

「ウゴさん!?」

「え、何っ!ちょっと、兄さん?!」


 上から呼ばれる声は聞こえるのに、動けない。

 相変わらず死にそう!とは感じないが、動けない。


 …これ、「神貫」からの傷を負いすぎたせいか?

 ウゴはなんとか立ち上がろうと思うのだが、指先も満足に動かせなくなっていた。


「ちょっと、に、……兄さん見せて」


 うつ伏せに倒れている、ウゴの体を動かそうとしたメイナリーゼが、突然何かに気がついたように目を細めて、ウゴの着替えた無傷のシャツをひっぱって剥いた。


「メイ何して、って何これっ!!キモイ!」

「に、兄さんっ!どこで何してきたのよっ!!」


 どうやら亜美とタノクラの2人に、一面穴だらけで、ズタボロの背中を見られているらしい。

 キモイってのはひどい。

 そりゃあ、穴だらけなんだからシャツの上からでも触れば分かるか、とウゴは自分の考えの甘さを知るが、NEW!前向きウゴなので落ち込んだりしない。

 でも、2人に答えようにも声も出せなかった。



 

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