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52  えーと?過剰防衛……?

 





「な、な、な、な、なんなんなんだぁぁああっっっっ!!!??」


 勇者(仮)マーヌは、目の前の光景に叫ぶ事しか出来なかった。

 どう見ても自分より弱そうで、チビで、ヒョロそうなローブのガキが、勇者の必殺技をお玉で凌いだのだ。

 相手が歴戦の戦士なら、まだ分かる。

 マーヌは未熟な勇者で、これからどんどん強くなれる!と自覚している。

 それでも、お玉?

 チビでローブの料理人?

 情報をくれた辺境伯と、ケツなんちゃらのオッサン!

 騙しやがったな!?


 膨れ上がる怒りに、マーヌが魔剣を握りしめ、こうなったら勇者への造反罪で、店内をメチャクチャにぶっ壊してやる!と思ったそのとき。


「このドグサレのクズがぁっ!!」


 ゴキン、ひゅーずべぐしゃー!ドンガラガッシャンゴシャーン!!


 不意の一撃で殴り飛ばされ、ふっ飛んで頭からテーブルに突っ込んで、テーブルと椅子を壊して、その残骸に上半身を突っ込んだままぴくぴくしている勇者(仮)マーヌの足。

 それを怒り心頭の無表情で見下ろすマーキン。


「我が主様に刃を向けるとは、身の程知らずの愚か者がぁ。

 細切れに引き裂いて畑の肥やしにでもしてくれるわぁっっ!!!」

 勇者にぶちかました8本弦の楽器(殴打武具?)「ジャビン」がびょよ〜んと微妙な反響音を残していた。


 マジで怖いよ、マーキン。

 ウゴがちらりとペッツィを見ると、ローブの裾と膝がプルプルと震えていた。

 …止めよう、今すぐ。


 ペッツィが本気でマーキンを怖がっているので、ウゴは早々に事態の収拾を図ることにした。

「====やめろ。

 オレなら気にしてない、お玉だって傷ついてない」


 気にするのソコなの!?とハーレム6人衆がウゴを見る。

 勇者様がテーブルやら椅子やら巻き込んで、現在進行形でエラい事になってますけど!?と。


「ですが、主様っ」

「オレの代わりに怒ってくれたんだろ、ありがとな。

 でも、本当に気にしてないから、やりすぎないでくれ」


 ウゴの言葉に、ボヒュッと音をたてて真っ赤になるマーキン。

 …そんなマーキンを見て、情緒不安定か?とよりいっそう心配になるウゴ。


「わ、わかりましたわ」

 もじもじとジャビンの調弦をするマーキン。

 なんだよ、さっきまでと豹変しすぎだよ!?とハーレム6人衆は思いつつ、ぴくぴくしている勇者(仮)を……見限る事にした。

 なんかもう、ついていっても出世しなさそうだな、と。


「「「「「「ご迷惑をおかけ致しました〜」」」」」」


 軽やかに告げて、さっさと逃げを打ったハーレム衆に、ウゴは「女怖いっ」と思いつつ、自分は女性に嫌われっぱなしで、全然こんな経験もないんだよなーと遠い目になった。

 机と椅子に突っ込んだままでぴくぴくしている、ぼっち勇者(仮)マーヌをどうしようか?とウゴが困っていると。




「おはようさん」

 ナイスなタイミングで団長が現れた。

 まだ開店前なのに。


「団長、勇者に店の事教えたか?」

「ん?……………んん!?いや、いやいやいやいや」


 胡散臭い。

 絶対に教えたな、どうとっちめるか、とウゴが考えるのと同時に、上位風精霊達が現れて団長を囲み、普段とは違う様子でぐるんぐるんと回り始める。

 いつもなら【飯屋】内に現れると叱る事にしているのだが。


「いて、いたい!、ちょ、やめっ、いてえっ!」

 …ウゴの機嫌を読み取った精霊達が、団長にお仕置き?をしているらしい。

 せっかくなので、しばらく静観してみた。






「ちょお、やめっ本当、ごめんなさい、ごめんなさいっっ!!」

 精霊達にちくちくされた団長はあっさりと謝って、口を割った。


 昨晩、ウゴ達が帰った後、勇者(仮)一行は非常に機嫌が悪く。

「もてなしを受けにきたのに、満足に飯も食えなかった。

 今晩食べられる筈だった美味い飯は、どこで喰える?」

 と辺境伯に詰め寄ったらしい。


 明らかに殴り込みにいく口調だったため、モズ団長は止めた。

 辺境伯も止めてくれた。

 団長が晩餐会前に「今回の依頼をウゴ( ・ )が受けてくれたのは偶然で、これ以上面倒を持ち込むと、町から出ていくかも」と告げてあったため、辺境伯は本気で勇者(仮)を止めてくれたらしい。


 しかし、勇者(仮)があまりにしつこかったため。

「店に迷惑をかけない」

「料理人に迷惑をかけない」

 の二点を約束して、お忍びで店を訪れるという話しだったのだが。

 見事に二点とも守る気はなかった、ようだ。


 実際、モズ団長は心配して、開店前にも関わらず【飯屋】に来たのだから、勇者(仮)の短慮さは見抜かれていたとも言える。

 勇者(仮)をしばって衛兵につき出しても、辺境伯が困るだけだな、とウゴはしばし考える。

 なにしろ低レベルながら、本物の「勇者見習い」だ。

 ベンスルの町も潮時かもしれない。




「====、どうする?」

「…申し訳ございません、主様」


 ウゴの言葉にしょぼくれるマーキン。

 ウゴに刃が向けられるのを見て、頭がおかしくなりそうなほどの怒りを覚えてしまった。

 それにつられて動くなんて、使徒失格だわ、と落ち込む。 

 しかし、どこまでも落ち込んでいきそうなマーキンを、ペッツィが止めた。


「コイツを更生させれば良いんだろ?

 それならコイツ、ここで働かせれば良い」


 ペッツィの考えもしなかった方向からの意見に、ウゴもさすがにギョッとした顔でペッツィを見る。

 しかしペッツィは変な事言ったか?という雰囲気で肩をすくめて続ける。

 「魔人族は全員が、産まれつき素晴らしい種族なので、曲がった性根は叩いて直せます」が当たり前だったので、何を驚かれているかが分かっていない。


「テーブルや椅子の弁償させるのに、皿洗いくらいできるだろ?」

「なるほど」

 ウゴもマーキンも、ペッツィの思いやり…というか強かさ?に感心するばかりだった。

 これは是非とも使徒に欲しいタフさだ。


 とりあえずペッツィの提案に乗ってみる事にした。

 ベンスルでの楽しい生活を、ウゴ自身が簡単に諦めたくなかった。

 でも、これって明らかにやり過ぎじゃないのか?と思ったが、真剣で切り掛かった事実は変わらないので、衛兵には言わずにおく。






 ようやく気がついた勇者(仮)マーヌは、衛兵に引っ立てられていった。

「ふざけんな!離せ!俺様は勇者だぞ!!」

 ジャビンで殴られた顔が、腫れ上がって変形していたが、元気に怒鳴りながら引きずられていった。


 辺境伯は頭が痛くなるに違いないが、条件をつけてみることにした。

 ウゴが勇者本人からの「弁償」または「労働力」で被害を相殺してもらえれば、大事にする気はないと告げると、衛兵達はあからさまに安堵した様子だった。


 「勇者」だからな。

 いくら器物破損、暴行(の上で過剰防衛された)の現行犯逮捕でも、それが「勇者」となってくると、帝都に報告を上げない訳にいかないのだろう。

 穏便に済ませられるなら、辺境伯がそれに乗らない理由がない。


 余計な仕事を増やさないでくれ、と言いたげな表情で、わめき続ける勇者(仮)を見た衛兵達は、ウゴに敬礼をして「ご配慮感謝致します!」とまで言って戻っていった。

 さて、どうなるかな、とウゴは拘束されても暴れている、暴言吐きまくりの勇者(仮)と、勇者うざい!と苛立っている衛兵達を見送った。


 早くしないと開店時間になってしまう。











 翌日の昼過ぎ、衛兵2人に引き連れられ、げっそりした表情の、勇者(仮)マーヌが【飯屋】へやってきた。

 ちょうど昼の客が途切れた所で、今日に限ってマーキンもペッツィも別の依頼を受けていて、不在にしている。

 マーキンがやりすぎて変形していた顔は、治療を受けたのか元通りになっていた。


「…………もう終わりだ、僕に勇者なんて最初から無理だって思ってたんだよ、勇者なんてどうせ負け犬で駄目な奴なんだ」

 何があったのか知らないが、勇者(仮)マーヌは打ちひしがれて、ぶつぶつとつぶやいている。

 一日しか経っていないのに目が死んでいる。

 ボク、俺様、僕?一人称が毎回違うのは何故だ?



「…何があったんだ?」

 ウゴの言葉に、衛兵2人が口々に答えてくれた。


 勇者を捕らえて、詳しい話を詰め所で聞いている間に、勇者の仲間の女性達が、全財産を持って宿屋から消えた。

 宿代さえ勇者が払うから、と払っていかなかった。

 仲間に預けてあった金銭や予備の装備、魔道具なども全て持ち逃げされ、今現在の装備品以外に何も残っていない。

 【飯屋】への弁償費どころか、滞在費さえ1ハブも持ってない、らしい。

 財布なんて自分で持ちますよね?と右の衛兵が呆れたように言う。


 ウゴは話を聞いて「女って怖い」と、中途半端なハーレム作りの恐怖を知った。


「…そう言う訳なので、我々も困っておりまして」

 衛兵達は辺境伯?上司?にかなり絞られたらしい。




「ちょっといいか?」

 衛兵’Sに声をかけ了承を取り付けてから、ウゴは目が死んでいる勇者(仮)にピンポイント『威光』をちょっとだけ向ける。


 神気を食べて格の上がった上位精霊達は、何度も!『圧迫』して踏んで叩き落として、しつけをしたお陰か、【飯屋】内には出てこなくなった。

 もの凄くそわそわしている気配を、【飯屋】の外から感じるが、入ると踏まれると学んだらしい。



 ビクンッと電気ショックを受けたように目を見開いた勇者(仮)に、ウゴは冷たい口調で言った。

「よお、昨日ぶり。

 一度しか聞かないからハイか、イイエで答えろ」

「な、なに言って」

「ハイ、かイイエだ」

 じわり、と『威光』の圧を上げると、勇者(仮)はがくがくぶるぶると、産まれたての子馬のように震え出してしまう。

 うん、神パワーの微調整が効くようになってきたな、とウゴは一人で頷く。


「このままだと、数年?は牢屋で過ごす事になるが、それで良いのか?」

「い、い、いいえっ」

「お前のした、してしまった自慰行為の後始末を、肩代わりしてやってもいいが、言う通りにするか?」

「い?!…………はい」


 勇者(仮)が涙目で真っ青になっているが、ウゴは脅してるつもりはない。

 全部『威光』のせいだろう。


「良いだろう。

 マーヌ、お前をオレ([名も無き神])の勇者にしてやる。

 初めての事だぞ、喜べ」

「????…はい」


 勇者(仮)マーヌは理解できないままの泣きそうな顔で、ウゴに向かってかくかくと頷いた。

 気のせいではなく、『威光』をかけていない、衛兵2人の表情もひきつっていた。



 

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