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48  欲にかられたモズ団長

 





 果樹用の穴堀り依頼で思った以上にハッスルしてしまった後、ウゴの所にやけに開墾関係の依頼が個人指名で入るようになっていた。

 飲食関係以外で「二つ名はいらない」と言っても、それでも良いから!と言い募ってくる。


 さらにウゴが基本的に飯屋から出ないので、わざわざ団員の誰かが声をかけにくるのだ。

 ほとんどはペッツィだが。

 なんなんだよ、一体。

 料理人に開墾を頼られてもなぁ、と思いつつも依頼をこなしながら、日々を過ごした。



 【飯屋】も変わらず繁盛している。

 むしろ営業時間を決めたせいで、いつでもという訳にいかなくなり、昼食時、夕食時に客が集中するようになった。

 一人では忙しすぎる。

 頼んだ覚えはないが、いつの間にかペッツィが給仕?をしていた。


 なぜ?と聞いてみたら「ルシェの姐さんの代わりだ」と答えた。

 …(アネ)さん?

 一度、マーキンとペッツィの間に何があったのか、きちんと聞くべきだと記憶に刻んだ。




 数回、ペッツィと共に依頼をこなして分かったことがある。

 ペッツィは口は悪いが、人を思いやる気持ちが、とても強いということだ。


 『検索』をしなくても…おそらく使徒に向いている。

 神パワーを無駄なく使えるようになってきているので、使徒が増えて困る事もない。

 それでも、ペッツィが抱えている問題は…まだその時ではないと思う。


 [名も無き神]としての矜持は、助けを求めてくる相手を助けるべきだと考えている。

 見返りに、使徒としての助力を頼むべきだ、と。

 ただの自己満足だが。


 ペッツィが給仕をしてくれると助かるので、そのままずるずると続けてもらっていた。

 店名が【無愛想ローブ’Sの飯屋】にならなければいいな、と作者不明の看板を見た。




 周囲の店舗にあわせて「日の出開店、夜9つの鐘閉店」と決めたとはいえ、夜中にお腹を空かせている「客商売」のお姉様方は受け入れている。

 ウゴは店に住んで?いるので、拒否する理由がない。


 【無愛想ローブの飯屋】は、用心棒がいないのに治安が良い、と褒められた。

 更にウゴが少年の形なので脅威を感じず、仕事中はあまり話さない所も高評価らしい。




 …そういえば、気がついたら精霊が全属性6種族、ウゴの「眷族」扱いになっていた。

 火、水、風、土、聖?光?、闇?邪?調べたくないので調べていないが…本気でいらない。


 「世界」を受け入れてしまったせいなのか?とウゴとしては複雑なのだが、眷族を解消する方法が分からない。

 神パワーをゼロにして使わなければ、何日経っても寄ってこないので、「御主人様」と言いつつ、「食べ物」扱いされている可能性が高い。










「ウゴ様ー、5人分で4つ大盛り」

「あいよ」

 モズ団長は週に2、3回は【飯屋】で食事をしていく。

 始めはウゴ殿( ・ )とか茶化して言っていたのに、いつのまにかウゴ( ・ )になっていた。


 ウゴはただ「団長」とだけ呼んでいる。

 本名であるモズウ(精霊の)ルグ(愛し子)の名前の由来を教わってから、名前で呼ばない方がいいんだろうな…と微妙に気を使っていた。


 カウンターで団長の愚痴を聞いているうちに「精霊のせいで結婚できない」だの「精霊のせいで友達ができない」だの、「精霊のせいで定住できない」だの言い出す程度には鬱憤がたまっていた。


 愛し子じゃないのかよ?

 オイ精霊(アホ)共、もう加護外してやれ、と団長の周りを飛び回る上位精霊を睨んだが、ふよふよと逃げられた。

 眷族のくせに、何一つ言う事をきかないのは、竜よりタチが悪い。


 竜達は少なくとも世界の歴史をまとめるだけの知能がある。

 脳筋のくせに。




 現在時刻は遅すぎる昼食時。

 誰かが魔具時計を店内に設置したので、分かるようになった。

 今日の団長は、やけに身なりの良い同行者と【飯屋】に来ている。


 呪いがとけたウゴは一般人に『検索』をかけたりしないのだが、どこかの貴族様だろうなーと、ぼんやり思った。

 成金の金持ちにしては、所作が上品すぎた。


 触らぬ神に祟りなし、というか、神はウゴの方なのだが。

 そう思っていたのに。




「ウゴ様ー、名指しで依頼うけてくれねえか?」

「…ついに見切りをつけて冒協職員になったのか」

「うお、そういう事言うなって…」


 ウゴは大盛りのオブゥメンチカツ、豚汁風つき定食をカウンターに置きながら、なんとなく不穏な雰囲気で話しかけてきた団長に、軽く返す。

 団長は本気で痛そうに胸をさする。


「おお、今日もうまそう…じゃなくて。

 頼むよ、イカレ野郎のケツ蹴り団の信用度が、お前のこの、ほっそい双肩にかかっているんだ」


 ほっそいは余計だ。

 むしろ神パワー使ってないのに、力が強すぎて困ってる、とウゴは団長を見つめる。

 すいと視線を逸らす団長。

 胡散臭すぎる。


 今日もペッツィが、給仕として有能さを発揮していた。

 貴族らしい客は、ローブ姿のペッツィに身構えていたが、ペッツィはぺこりと頭を下げて、足早に下がった。



「…断る」

「そ、そんな、頼むよ。

 よし団長命令でさ、いや、お願いします、精霊連れてっていいから」


 他にも団員がいる中で団長がウゴ(一番の新入り)にぺこぺこしてたら、示しがつかないだろうが、とウゴは苦い顔になる。

 きっとそれも考えの内なのだが。


 ウゴが頼まれると弱い、とこれまでのいろいろから団長は見抜いていた。

 普通じゃないのは理解している上に、この際[神]でも何でも良いか、と開き直っている。

 [神]ちょろいな!と思いつつも、この手のタイプは怒らせると怖いので、同じ手は二度使えないな、とも考えていた。


 知る筈もないが、実際過去に「勇者タナカ」を本気でブチ切れさせ、錯乱させた「クソな神」は、喰われて消滅しているので、あながち間違ってはいない。



 ウゴとしては、断ってベンスルを出て行くのは容易い。

 色々動いてくれて、今も助けてくれているマーキンには申し訳ないが。


 ただ、ウゴはこの町での生活を楽しいと思っている。

 もう一度マーキンを巻き込んで、他の町で一から同じ事をやりたいと思えなかった。

 一人でこれほど上手く立ち回る自信もない。

 面倒くさいよりも、やりたくない、の方が強かった。




「…詳細は?」

 次はしない、と思いながらウゴは妥協した。

 人の世で生きるしがらみというものを、経験しておくのも悪くない、と。

 人だった頃には、しがらみどころか顔を見られただけで、襲われる日々だったのだから。


「あー、これ」

 団長がおそるおそる差し出してきたのは…貴族からの指名依頼書だった。

 つまり冒険者協同組合を通ってない依頼だ。

 何かあっても、当事者同士でなんとかしてね、という類いの、ある意味失敗したら手に負えない依頼だった。


 始めはそんな事を知らないウゴだったが、依頼書を隅から隅まで読んで、団長にわからない単語の意味を聞いたら、理解してしまった。


「…断る」

 やっぱり胡散臭かった。


「ちょお待てって!

 せめて少しでも悩んでくれ」

「悩むも何も、無理だ」

「頼むよー!御領主様なんだよー!恩があるんだよー!」


 焦って慌てすぎて小さな子供みたいになってるぞ、と団長をジトッと見て、落ち着けと『威光』を僅かに向けてみる。

 団長は『威光』に圧倒されて、びくりと身体を震わせてから、突然現れて周囲を舞い踊る、大量の光を見つめた。

 …血の気が引く音が聞こえそうな勢いで、真っ青になった。



 『威光』の残滓を食べに、精霊達が集ってきたのだ。

 くるくると飛び回りながら、神パワーの残滓を齧ろうとしている上位精霊達を、『圧迫』と平手で叩き落とし、「人前に出てくるな」と踏みつけて軽くしつけておく。

 それからウゴは、フードに手をかけて少しだけ顔を見せる。

 1年以上の付き合いなのに、団長に顔を見せるのは始めてだ。


「見ろ」

「…何を?」

「オレを」

「……なんだ、顔立ちは普通ってか、むしろ地味だな…神って言うから美形だと…って別に、目も黒いだけで………あ、れ?

 髪も黒って、んで肌の色は魔人族じゃねえし、この前の勇者と一緒か?

 っつうか、なんで、…なんでだ?」

「顔を隠す理由が、分かったか?」


 壊れたようにかくかくと頷く団長。

 店内は薄暗いので不安だったが、違和感に気がついてくれて良かった、とウゴは嘆息した。

 さすがにここでフードを取るわけにはいかない、注目されてからの現状では『障壁』の効果も薄い。



 フードを元通り深くかぶって、ウゴは団長に言う。

「領主の館で晩餐会の料理を作れ、とか言われてもな。

 そもそも、領主の屋敷に検査なしで入れないだろ?」

「…無理だな」

「な?」


 そんなあ!!?と頭をかかえてカウンターにガンガンぶつける団長。

 ウゴの方もどうしようもないな、と団長を見ていた。

 ケツ蹴り団長のくせに、ヌケすぎだ。


 なんでウゴが真夏でもフードをとらないのか、そこを考えてから、動けと言いたい。




「これを断って問題になるなら、町を出て行く」

 それなら問題にならないだろ?と問われて、団長は全身に冷や汗がふきだすのを感じた。


 ウゴは、自分が町の人々に受け入れられて愛されていると、気がついていない。

 団長はそれを「神おもしれー」と思いつつ、何も言わずにいた。

 言わない方が上手く回っていく!という、根拠のない確信があった。


 【無愛想ローブの飯屋】は、町一番の飯処。

 めちゃ美味いのに、値段は普通、営業時間も融通がきいて、食材持ち込みもできれば、量もメニューも臨機応変に変えてくれる。

 家族でもデートでも女子会でも受け入れてくれる。

 酒だけは置く気がないらしいが、ベンスルで常連扱いされたい飲食店、ナンバー1だった。


 つまり団長は今後、領主か町の大多数住民の、どちらかを敵に回す可能性が高い、ということだ。

 あまりに軽率だった。

 考えただけで再び青くなる。



「信用度9になれそうだったのに…」

「…ローブでフードあり、検査ナシは譲らんぞ」


 そこで譲歩してしまうウゴも、大概甘い。

 そんな甘さもまた、町の人々に少年程度の体躯と、照れ屋?な態度とあいまって、微笑ましく思われているのだが。


「頑張ります!!」

 とりあえず団長は、己の心の平穏と命を守るために努力する事を決めた。






 団長が一番隅の席で、御領主様と一生懸命話し合っている。

 頑張るらしいので、ウゴは大人しく待つことにした。


 食後にペッツィが黒茶とガレットもどきを持っていった時だけ、ちらりとウゴの方を伺う素振りを見せる御領主様ご一行。

 男性3人に、女性が1人。

 さあ、誰が本命か。


 食事を終え、手にトレーを各自持った全員がカウンターへやってきたので、ウゴは驚いた。

 お貴族様なのだから、トレーなど人にやらせるか放置して帰ると思っていたのだ。



 

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