43 呪いをごぼう抜きっ!!
チノカは微笑んだ。
心配しなくても、この子達は攻撃でもしない限り、絶対に向かってこないから大丈夫☆と。
「もう、ショーゴくんったら、僕との語らいの一時を楽しみにしてくれてるなら、もっと会いにきてよ」
「…………」
ウゴがわざとらしく無視していると、チノカはぷくっと膨らんでから、イチノセ達へ向きあう。
「もー、つれないなぁ」
イチノセ達に歩み寄るチノカの背に、ウゴの声がかけられた。
「何する気だ?」
明らかに何かする事を疑っている声音で。
「僕が勇者くんを呼んだのは、理由があるから。
勇者くんとそこの子、君達二人は間違いなく僕の弟妹神のお手つきだから、今後ショーゴくんを害するかもしれません」
「「えっ!?」」
突然の指名にイチノセとスズキが慌てる。
ウゴはチノカの言葉に………チノカの知っている事を神が知ラナイ事が、気に喰ワナイー
ー…イヤ、チノカの記憶ト知識を喰えばイイ、力をツケテ、全テを、すべて?ー
……っ!、ウゴは何度か目を瞬く。
…今、何を考えていた?
「嫌かな?
ショーゴくんを傷つけたくない?」
「もちろんだ!」
「当たり前だろ!」
即答されたイチノセとスズキの言葉に、チノカは口角を持ち上げる。
イチノセとスズキはちょっと怯えた顔をした。
「それが聞きたかったんだよ。
僕に神の力はないけど、ちょっとだけ手助けしてあげたいな、と思って。
君達を助けたら、ショーゴくんへ僕の愛を示せるしねっ☆」
「いらん」
せっかくキメ顔をしたのに即答したウゴに、チノカは「そういう素っ気ない所も良いんだよ〜」と腰をふりふり近づいて行く。
本気で避けようとするウゴ。
そんなウゴに、手をワキワキ動かしてからからかうように笑いかけて、チノカは伝えた。
イチノセ達には聞こえないように、と声量をしぼって。
「異世界の女の子二人からは、弟妹神以外の神気を感じるから、巻き込まれたみたいだね。
他の神に強要したのかな?
…誰か分からないけど」
チノカに分からない事がウゴに分かる訳がない。
それでも、少なくとも二柱の神が、今回の異世界勇者召喚に関わっていると判明した。
これまで情報をほとんど開示してこなかったのに、なぜ突然?とチノカの狙いがよく分からない。
ウゴはチノカの努力を、ホルーゴ経由で知っているが、手放しで近づきたくない。
なにより気持ち悪いから。
チノカはイチノセとスズキの元へ戻る。
「はーい、動かないでください」
短い両腕を伸ばし、細い指で宙に円を描く。
イチノセとスズキの頭に軽く触れるように、そっと手を添えると、びくりと怯えたように震える二人。
「遍くこの世の命の内において、汝等は共に在りてこそ響きあわん
ただ出会えた喜びにその身、打ち震えさせるがいい
地人族固有の贈り物として「共鳴」を付与する」
………………………………………………。
…………………………………………………………………。
………………………………………………………………………………。
「…………え?」
イチノセとスズキは困っていた。
チノカの言葉と共に、何も起きなかったからだ。
光らないし、音もしないし、何もなかった。
失敗した?!とその場で困っていると、チノカがポンと手を打った。
「はい、おしまい。
次はショーゴくん、呪いだよー」
ご飯だよーみたいに呼ぶな、と贈り物授与が終わるのを見ていたウゴが肩をすくめた。
贈り物の授与で何も起きない事を知っているウゴは、当たり前のように見ていたが、他のメンバーは不発?失敗?とドキドキしていた。
呪われる前のウゴなら気づいただろうが、呪われて自分の苛立ちに振り回されているので、気がつかなかった。
「ショーゴくーん、ここですよー」
呪い解いてあげるから、早くしなさい、と言われたウゴは相当イヤそうな顔をしたまま、チノカの前に立った。
見上げたギョニソは、ひくひくと鼻をうごめかして、不満そうに手をちょいちょいと動かした。
「座って」
椅子もないのに、とウゴは仕方なく正座をする。
なぜ胡座ではなく正座にしたかというと、胡座でしっかり座り込んでしまうより、楽に立ち上がる事が出来るからだ。
もしなんかあっても逃げられるように、本音は片膝立て座りが良かった。
それだと、頭を下げたらチノカに忠誠を誓う騎士のように見えるよな、と思った。
チノカにその常識が通じるとは思わないが、イヤだ。
「魔神の呪いはー、えーとね」
「……」
「目を閉じて、動かないで、あ、絶対に途中で動かないでよ。
失敗したら二度目は…無理だと思う」
珍しくも真面目なチノカの声音に、ウゴは目を閉じてから分かったと頷いた。
ウゴの頰に暖かくて細い指が触れる、片手で頭を押さえられ。
口元……。
ずぼっ!
「…………っっっ?!?!」
「に…いさっ」
「「「「…うぁ!!!!」」」」
暴れたくてもチノカの言葉を思い出して、目を閉じたまま動けないウゴ。
必死で動かない!と自分に言いきかせていた。
ウゴとチノカを交互に見て、顔色を刻々と変えながら後ずさるイチノセ一行。
チノカにも本当に余裕がない。
ものすごい集中をして、今もウゴの中に根をはろうとする魔神の呪いを探り、知識を総動員して接触している一カ所に呪いを集めて、ウゴから引っこ抜こうとした。
ウゴとは違う、記憶、知識両方にあるのと同じ弟妹神の神気を、うすく魔力でコーティングして、集めて、圧縮、してっ!
本来なら神気を魔力でコーティングなどできない。
はずなのだが、チノカにはその方法が分かった。
簡単に言えば「人」という制限の多い殻に包まれた種族の中で、極まれに「神殺し」が造られてしまうのと、同じ原理だ。
知識はあっても記憶がないのだから、もしもやり方が間違っていたら、チノカが呪われかねない。
ウゴはビクビク震えているが、問題なさそうだ。
「……………………………うりゃっ!!」
じゅるずぼっっ!
チノカはウゴから離れた後、思いっきり叫んだ。
「僕の右手がぁぁぁっっ!!!」
痛い痛い痛いっ!!とウゴの神気を吸収しまくって、すくすく育った呪いを集めた黒い玉を、右手からボトリと落とす。
玉は弾力がなく、ぼてぼてと転がって止まった。
うねうねうねうねと痛みに悶えて、チノカは喰われた時の朧げな記憶を思い出した。
こんなに痛かったっけー?!と。
魔力越しとはいえ、呪いに直接触った右手は、大事な爪が砕けて真っ黒に染まっている。
痛いのに手の感覚がない。
これ治るのかな?と不安になった。
チノカがウゴから強引に引っこ抜いた玉は、人の拳程もあった。
知識の中では豆くらいの大きさなので、さすがショーゴくん、神気量すっごーい、と思いながらそのまま座り込むチノカ。
魔力を使い切って動けなくなっていた。
ちょっと無理しすぎたぁ、と軽く言おうとして…。
硬直したまま両手足をついて、燃え尽きているウゴに気がついた。
「……………んでオレばかりこんなめにあうんだなんでオレってこんなせかいでカミサマとかわけのわかんないことになってんだオレがなにしたっていうんだ……」
ウゴは聞き取れないくらい小さな声で、なにかブツブツつぶやいている。
何故か魔力を使い果たしたチノカより、ただ座っていたウゴの方が重傷に見える。
レベル100超えのイチノセ達が、そんなウゴの様子に本気で怯えて、どうしたらいいのか分からないらしく、おろおろとその場で様子を見ている。
あれ?
何かいけなかったのかな?
体内から直接呪いを引き抜くのに、口から手を肘くらいまで突っ込むのが、一番簡単な方法だったんだけどなー?と座ったままウネッと首を傾げるチノカ。
結局、ウゴが元に戻るまでに数時間かかった。
「これ、ホルーゴに持っていってね」
神気で汚染された手をウゴに『修復』で治してもらったものの、まだ疲れた様子のチノカから、透明な鉱石の中に入った黒い玉を受け取るウゴ。
絶対にチノカに触れたくないと身体が勝手に逃げていく。
「他に、やり方なかったのかよ?」
ぼそりとつぶやくウゴに、チノカは至極真面目に答えた。
魔力を使い果たした反動で、ウゴに軽い冗談を言う元気がない。
「うーん、思いつかないな、直接引っこ抜くのが一番だよ。
…もっと他のやり方が良かった?」
直に口づけで吸い出しても良かったけど、呪いをもらってしまう可能性高いし、口腔以外だと、呪詛の集積能力のある魔道具を、直に体内に突っ込まないと無理かも?と考察を始めたチノカに、ウゴは一気にやつれた様子で手をふった。
「もう、いい」
メイナリーゼがウゴの後ろで「これは事故よ、兄さん大丈夫!」と必死で慰めているが、ウゴは思い出してしまったのか、口元を押さえて泣きそうになっていた。
ここで崩れ落ちてしまったら、自分で認める事になる。
巨大ギョニソに襲われた!と。
いや、実際口から腕を突っ込まれて、中身引きずり出されたんだが。
突っ込まれても枯れ枝みたいに細い腕だし、神であるせいなのか?そんなに痛くはなかったんだが、そもそもいきなり人の口の中に手じゃなく、腕まで突っ込むってどうなんだよ、とか考えてから。
いや、神だからなのか?むしろ吐き気とか感じないのが怖かったけど…と関係ない事まで考え始めてしまう。
それでも変なもんをどこかに突っ込まれたり、キスされるよりはマシだったのか?
どれを選んでも、多大な精神ダメージを受けている未来しか想像できない。
「それじゃ、な」
なんとか復帰したものの、目が死んだ魚状態のウゴは、ふらふらしながら姿を消した。




