表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/80

41  ギョニソ登場、モキュッ!

 





 服屋を数店舗まわるうちに、黒髪と黒瞳さえ隠せれば、ウゴにはこだわりがない、とマーキンは気がついた。

 つまり、帽子とゴーグルを装備して、下着一枚(パン一)でもイケるかも?!と思っていた。


 ウゴ本人の意見は「ごく普通の服装」なので、嫌がるだろうけれど。


 現在のウゴの体格は、この世界で鍛えられる前の15歳時点(帰宅部)なので、普通の華奢な少年でしかない。

 幼い頃から働くこの世界においては、少女?と見間違えられる体格。

 身長も伸びる前なので、150程度。


 顔立ちも、この世界でも元の世界でも美形からは遠い、あっさりのっぺり平凡醤油顔なので、どんな格好をした所で「キャー素敵ー!」とならないが、マーキンには関係ない!!


 そもそも「キャー素敵ー!」とか言われた時点で、ウゴは本気で逃げだす。

 相手は未知の魔物(女性)だ。


 歓待後に毒殺とか、上げて下とすどころか、上空に飛ばされてから埋められるような経験を経て、ウゴはこの世界の女性が、決して自分の外見目当てに寄ってこない事を知っている。

 平安美人と現代美人くらい価値基準が変われば、モテるかもしれないが、約800年の間でそこまで極端な美的感覚の変化は見られていない。




 今日一日は、夢のようです。


 とマーキンはこれまでに選んで、ウゴがぎりぎり許容してくれた服を思い出す。

 …地味だ。

 マーキン基準では地味すぎる。

 もっと、神様らしさを前面に出せるような、後光が射してみえる服をっ!!

 と、絶対ウゴが着たがらない装飾過多の服を妄想していた。


 ウゴは、すでに帰りたかった。

 思い出すだけで、えー、8着?は買った。

 マーキンが値切りまくって、交渉にがっつり時間をかけて、8着。

 多いのか少ないのかは知らないが、2着もあれば事足りるので、すでに多すぎた。


 無地白シャツと刺繍白シャツ、灰色シャツと、無地焦げ茶シャツ、ズボンが無地苔緑と銀刺繍の濃いネズミ色。

 ローブが2つ、濃いネズミで白の刺繍と、濃い青で銀の刺繍。


 …全体的に派手な刺繍がいらない。

 むしろローブだけで良い。

 下に着る服は、神パワーでごまかすから。


 さらにはもっとこう、地面と同化しそうな色が良い。

 むしろ、そこにいないと思われるくらい同化したい。

 目立つのイヤだ、良くも悪くも!


 まったく、伝わってないんだろうな、と息巻いて店員と話しているマーキンをぼんやりと見つめた。

 使徒も竜も忠誠心が重すぎる。




 結局、9着目はマントを買った。

 オブゥのなめし革に圧縮したフェルトを縫い付けた濃い柿色で、金の刺繍が施された一級品、らしい。

 色の選択は、夜闇に紛れて目立たない色なのだが、刺繍…いらないんだよなーと、ウゴはマントを見た。


 町の外で行動するのにマントは必需だが、ウゴは【偏屈ローブの飯屋】が出来てから、一歩も町の外に出ていない。

 というか、ウゴはベンスルに着た時もマーキンを基点に跳んできているので、町の外がどうなっているのか知らない。


 ウゴにとって、マントは不必要な買い物の極地だった。

 マーキンが幸せそうなので、使徒孝行になったのだろうか、と考えないでおく事にした。











 そんな風に、忙しくも代わり映えのない日々を過ごしていたが、フーガから『通信』が入った。

 店を始めてから、マーキン曰く半年経っているそうだ。

 そんなにか、としかウゴは思わなかったが。


 『通信』で詳しく聞いて、フーガが疲れ果ててはいけないので、ウゴは店を休みにして、『検索』で見つけたモズに「しばらく留守にする」と告げるなり、さっさと跳んだ。


 モズは突然目の前に現れて、再び消えたウゴに、腰を抜かさんばかりに驚いて。

 「え?あれ?マジで神なのかよ?」と慌てふためいた。






 ハンバ王国のグラナガン卿の部屋に跳ぶと、フーガが平伏してウゴを出迎えた。


「何があった?」


 ここしばらくはウゴを見ると「出てこないで下さい」と泣きそうになっていたにもかかわらず、フーガはモフモフの毛皮の下で顔色を悪くしていた。

 この表情は、ウゴに迷惑をかけて申し訳ない、という顔か?

 500年もつきあっていると、なんとなく分かる。


「勇者様一向からの連絡が途絶えました」


 フーガは手に持っていた通信用魔道具を、ぐっと握りしめた。

 ウゴの知らないうちに、イチノセ達と定期連絡の約束でもしていたらしい。

 さすがはフーガ!気が利くな、と思いながら、ウゴは疑問の言葉を口にした。


「…オレには何も……っ!」


 加護の腕輪は反応していない、と考えて、ウゴは一番の懸念を思い出した。


「ついに出てきたか?

 フーガ、何かあったらまかせる」

「謹んで拝命承ります!」


 にたりと笑ったウゴの命令に、フーガもまた歓喜の表情を浮かべた。

 それは完ぺきな狂信者の笑みだ。


 主人の喜びは従僕の喜びだ。

 ウゴがついに念願の「邪神」を見つけたとすれば、使徒であるフーガが喜ばないはずがない。

 「神」との戦いでウゴが傷つくとしても。

 その時はフーガの持てる全てを使って、命さえ燃やして「神」に一矢報いるつもりだ。

 使徒として、伊達と酔狂で500年を仕えた訳ではない。




 ウゴはフーガを横目に『検索』をかけて、イチノセ一行を捜した。

 場所が…よく分からない。

 何かの結界の中か?


 結界に阻まれているせいなのか、イチノセ達の周囲には、神の気配も魔王の存在も感じない。

 また、罠か?

 勇者時代にカミュと王女が楽しそうに、お互いの策を話し合う姿を見たが、「神」もそんな感じでウゴを嵌めようとしているのだろうか?

 そうだとしても、駆け引きは無理だとウゴは跳んだ。






 暗闇。

 完璧な。


 ウゴの跳んだ先には、暗闇だけがそこにあり、温かいような涼しいような、湿度も適度な快適な空間に満ちている。

 むせ返るような土の匂いに包まれていた。

 ウゴは自分がどこにいるのかを、濃い土の匂いと、複数の敵意で察知した。


「……ぅぇー、最悪だ」


 ウゴはフンと鼻を鳴らして、目の前に音もなく迫っていた刃を、指先ではさんで止めた。

 ウゴにとって戦いでなければ、コレくらいの芸当は朝飯前だ。


 真っ暗闇なので何も見えていないが、分かるのだ。

 当たった所で、痛っ!ちょっと刺さった!くらいなのだが、痛いのはやっぱりいやだ。


 邪神を期待していただけに、今のがっかりがひどかった…。


「…チノカ、に、ショーゴ、が、来た、と、伝えろ」


 ひとつずつゆっくりと言葉を区切りながら話すと、ゆっくり10は数えられる無音の後で、耳のすぐ側でくぐもった声がゆっくりと響いた。


「…デキヌ話ダ」

「み…いや、チノカに追放されても知らないぞ?」

「…ッ、シバシ待テ」


 軽く答えながら『威光』を振りまいてみると、ざわめきと共に、周囲を囲んでいた複数の気配が消えるのを感じた。

 慌てふためいて逃げていくのを感じる。


 しかし、ウゴは内心でため息をついていた。

 油断していたとはいえ、もう少しで『皆殺しにしてやろうか?』と言いそうになった。


 なんだよソレ、オレはそんなキャラじゃない、と自分にツッコミたくなる。

 久々にイライラする。

 この精神状態でヤツに会いたくないなー、と帰る事も考えるが、イチノセ達を放っておくのはマズいよな、と気持ちを切り替える事に意識を向けた。




「ヤァ、[名も無き神]久しぶり、待ってたんだよぉっ」

「あ、そ」

「久しぶりなのに、ひどいなぁ、愛しているよチノカ☆って言ってくれないのかい?」

「………」


 たった一人で伴も連れずに、暗闇の中をよちよちと二足歩行で現れたのは、ほのかに桃色がかった肌を持つ巨大魚肉ソーセージだった。

 全高2メートルくらい。

 見上げるウゴの目からは、そう見える。


 手足は細く短い、さらに胴長の上、全裸なので、どう控えめに見ても魚肉ソーセージだ。

 見上げるほどデカイ、ということを除けば。


 周囲は闇なので本来は見えないのだが、今のウゴには光があってもなくても関係ない。

 見ようとすれば見える。


 チノカの丸みを帯びた頭の両側についた小さな目は濁り、実際ほとんど見えていないのだが、くるくると面白そうに動いている。

 見えない目の代わりに、鼻は常にスンスンと匂いをかぎ続け、小さな耳も人には聞こえない音を拾う事ができる、という。

 少し突き出た口元には巨大な門歯が一対あり、話すたびにカチカチと音をたてる。

 正直に言うと不気味だ。




 ここは地人族の住処にして地底要塞、他の種族からは存在を知られる事もない、ただ一種のみで地底深くに生きる民の領土だ。

 チノカは地人族の族長、父親であり王を長きに渡り務めている。

 疑うまでもなく実力はある。

 だが問題は!チノカの最大の問題は!性格だ。


 元創造神の内の一柱にして「一ノ神」(イチノカミ)、チノカはもっきゅっきゅっ♪と笑いながら、するすると歩み寄ってくる。

 一ノ神からとってチノカって、名前が適当すぎる。

 チノカのやる事なす事、全てが適当に見えるのに、垣間見える神時代の知識や洞察力、明らかな作為がそうではないと言っている。

 この際、見た目のキモさはほっといても良い!


 ただ苦手だ。

 ウゴはチノカが苦手なのだ。



 イチノセ達を捜して、この地底要塞に到着するという事は、失踪にはチノカが関係している。

 この地人族自慢の要塞は、全体を強固な結界で覆われている。

 ウゴは通り抜けられるが。


 勇者であっても、地人族の存在を知らないイチノセ達が、迷い込めるはずがない。


「勇者に何の用だ?

 オレの加護に気づいただろうが」


 久々に見てもやっぱりウザイ、とイラッとしながらウゴが言うと、チノカは顔をモキュッと歪めた。

 可愛くない。

 いや、キモ可愛い?


「心外だな〜、理由があるんだよ?」


 傷ついたような素振りをしていても、楽しんでいるようにしか見えない。

 目を細めて、裂けたような口角をぐいっと持ち上げた、モキュッという効果音つきの表情のせいだろうか?


「どんな理由だよ、勇者を喰って神に戻ろうってか?」

「勇者が美味しいんなら、考えてあげてもいいよっ☆」


 なぜそこでノッてくる?


 チノカがうねうねと腰を振りながら近づいてくると、どこから見ても皺のある魚肉ソーセージにしか見えない。

 ウゴは普通に後ずさる。

 近寄りたくない。


 チノカの細い指には爪が備わっているが、これは土を掘るためのもので、武器としての性能は期待できない。

 強度はあれども、長さがない。


 しかし地底数百メートルで土を掘り起こせる力は、侮る事ができない。

 過去のウゴが抱きつかれ、焦って神パワーを使うのを忘れる程度には、拘束力がある。


「そう逃げられると、本当に傷つくんだけど…」

「お前が悪い、オレは同性愛者じゃない」

「?……僕も違うよ?」


 チノカは本気で分からないという口調だ。

 しかし、過去にセクハラまがいの行為をされたウゴにとっては、否定すんな!と言いたい。

 言った所で、まったく改善しないので、耐える。


 温かくて産毛の生えた魚肉ソーセージに抱きつかれ、耳元でもきゅもきゅと囁かれながら、腰を振られるのは恐怖体験だ。

 そう思っても、口にすると喜びそうなので、言わない。


「もう良いから、さっさと案内してくれ」

「はーい、こっちだよ」




 チノカに促されて、ウゴは暗闇の中を進んで行く。

 魔法、スキル、固有能力、なんでもいいが暗視能力がないと地底では暮らせない。

 ウゴは神パワーでごり押ししているが。


 歩いて行く途中で、チノカに許可を得てから、弱々しい光の玉を飛ばしておく。

 蛍が飛ぶようにゆらゆらと漂う淡黄色光。

 地人族は光に弱いので、せいぜい豆球程度の灯りだが、暗闇の中で周囲を認識するには十分だろう。


 迷路のように分岐した要塞内をしばらく進むと、大広間と言える規模の空間に、数人の人影がへたり込んでいた。

 その周囲を地人族が遠巻きで囲んでいる。


 ……ギョニソ多すぎだ。


 囲まれているイチノセ達は、見たところ怪我もなく全員揃っていた。

 ウゴはホッとして、弱光玉をいくつか素手で掴むと、そちらに向かって歩き出した。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ