表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/80

40  「偏屈ローブの飯屋」開店!?

 





 翌日、ケツ蹴り団が拠点にしているという場所へ、モズ団長がウゴを連れてきたのだが。


「………」


 ウゴの無言の反応に、モズは居心地が悪そうに喉を鳴らした。


「ゴホン、あー、そのな、あんまり使ってないんだよな。

 なんかあると酒場を借りるから」


 案内されたのは、ベンスルの町民居住区から少し離れた、商店区に近い倉庫。

 元々どこかの商店が倉庫に使っていたのだろう、と考えられる。


 扉を開けると、中はがらんどうだった。

 藁を詰めたマットや、毛布が数枚置いてあるだけ。

 椅子もテーブルもない。

 床には分厚い埃が積もっている。

 どう見ても拠点じゃないよな、と言いたげなウゴに見上げられて、モズは乾いた笑いをこぼす。



 普段、ケツ蹴り団の団員達は、数人で組んで依頼を受ける。

 総勢24人で受ける依頼など、そうは転がっていないからだが、モズが厳しく平等に仕事を受けさせようとしないのも原因だった。

 平等にする理由もないが。


 やる気が無いヤツに、仕事をさせるのは大変だ。

 あまりにもさぼり続けるとクビにするけれど、モズはその辺りの考え方がユルい。


 モズは団員達の交流の少なさも、信用度頭打ちの原因ではないか、と考えている。

 そのための料理人雇用のつもりだった。

 拠点を整備して、団員達の交流と士気高揚の場を作れば…と考えていたのに、冷静になってみれば、こんなキワモノな料理人を雇っていた…。


 自称[神]だぞ…。

 あの時は飯の美味さと、ルシェの話に呑まれたんだよ!と自分に言い訳をしておくモズだった。






「金」

「へ?」

「金」

「……あ、ああ」


 いつでも飯が喰える場所にしてほしいなら金くれ、というウゴの言葉に、モズは50000ハブを渡す。

 (1ハブ=10円くらい)


「これじゃ足らないと思うが…」


 モズは申し訳なさそうに言ってくるが、ウゴは別に良いと手を振って答えた。

 もっと出せと言った所で、懐具合に余裕がないだろうことは、考えなくても分かる。

 モズ自身が金を稼ぐ事に対して執着していると、思えない。

 あれだけ自由気侭な、風の精霊の加護を受ける人物が、勤勉で生真面目な人柄の訳がない。


 まぁ、とりあえず神パワー初期投入して、団員から一食あたりで徴収して、食材に還元だな。

 と適当に算段をつけておいて、溜息をついたモズを見上げる。


「………」


 何か言いたそうなので、ウゴは無言で待つ。


「……ハァ、ウゴ様、とりあえずよろしく」

「こちらこそ、よろしく」


 やる事はきっちりやるぞ、とウゴは少しだけ肩をすくめて見せた。






 ウゴはモズに呼び出させた団員達(ヒマジン)を、手足のようにこき使って、マーキンにも程々に手伝ってもらって、倉庫の改修や物品購入、搬入を済ませた。

 金銭的に大工を雇う余裕がなかったので、倉庫の奥3分の1のさらに8割を、神パワーでカウンターと厨房に改装。

 残りの2割は壁を作って、ウゴのハンモックと安楽椅子置き場(昼寝用)にした。

 当分ここで過ごす事になるのだから、居場所が必要だ。


 改装自体はとてもスムーズに進んだ。

 倉庫の壁を数カ所ぶち抜いて、謎素材の巨大な窓をはめごろしておく。

 思いたって、倉庫の強度補強のついでにランプ追加しておいた。

 暗いのは嫌いだ。

 気が滅入る。


 昼寝スペースは、元の世界基準の鍵を扉につけて、マジックミラーを使ってサンルーム化しておく、壊せない、開けられない基準で作っているので、謎素材による照明も完備。


 厨房には神パワー制作のかまど、汎用性の高い炉も用意。

 広い作業台と、換気機能も設置。

 水汲みが面倒くさいので神パワーで水脈検索、地盤補強後、厨房内に井戸を掘って水場も作る。


 汲み上げポンプは、文明度からマズいかもしれないので保留。

 厨房内はウゴがいなくても使えるように、見られても困らないようにしておく。


 ただ、排水の濾過設備だけは神パワーで強引に作った。

 未だこの世界の生活排水は垂れ流しなのだが、異世界だからと環境を汚したくないため(「世界」に悪いので)、自前で濾過設備を準備した。


 設備の中身は、ウゴにもよくわからない。

 これが知識がある人だったら、活性炭を利用した〜だの微生物によるなんちゃら〜、だの分かるのだろうが。


 神パワーの、謎の利便性に首を傾げたくなるのはこういう時だ。

 詳細な知識を持たないものでも、なんとなく、で作れてしまう。


 食器類や食材は本物をマーキンに購入してもらい、テーブルや椅子は、団員達に集めさせた。

 ウゴが使わない所は適当で良い。

 団員達が不便だと思えば、勝手に揃えるだろう、と放置しておく。



 ある意味当然なのだが、ウゴは倉庫から一歩も出ないで良くなった。


 海の家に帰ると、時間の感覚が欠如しているため、数日〜数ヶ月行方不明になってしまう。

 食材購入などは、マーキンが無表情で嬉々として行うため、口出しできない。

 同伴すると言えば喜ぶのだが、なぜか荷物を持たせてもらえないので、マーキンをこき使っている感じになって、側にいづらくなった。


 手元にある材料で作る、というのは元の世界からの常だったので、苦労しない。




 元倉庫の溜まり場が完成して、いざ料理を始めると、朝から晩まで団員が入り浸り始めた。

 モズとしては、思った以上にうまくいった!と喜ばしかったのだが。


 いつのまにか団員の知人、団員の知人の知人、知人の知人の知人…もうお前等赤の他人だろ!!

 になっていく。


 ウゴも、これはただの食堂じゃないのか?と困惑している。

 これまでまったく活用されていなかった拠点だというのに、今は常に騒がしい。

 酒も置いてないのに、なぜ?


 朝食つくって、寝坊したヤツの遅い朝食、昼食、遅い昼食、夕食、遅い夕食…って気がつけば一日中食事を作っていた。

 飯作るとき以外は、ハンモックでゴロゴロしている、もしくは安楽椅子。




 ある日、気がついたら倉庫の外に看板がかかっていた。

 外観を倉庫のままでいじっていないので、知人の知人の知人あたりにも分かるように、という配慮が透けて見える。


 ……【偏屈ローブの飯屋】?


 そもそも飯屋じゃないし、誰が偏屈ローブだ!!!

 と思ったが……どう見ても違和感満載の姿はさらせないし、ほとんど誰とも会話してない。

 これじゃ偏屈と思われても仕方ないのか、とウゴは軽く落ち込んだ。


 実際は会話したくないのではなく、何を話したら良いか分からないのだが。

 だって、この世界の話題、知らないんだもん!

 とか、茶化して思ってみた所で、会話の引き出しが増える事もない。


「なんか、思ってたのと違う……」


 ウゴのつぶやきは誰にも拾われる事は無かった。

 忙しすぎて、イライラしている暇がないため、ウゴの目的は果たされていた?






「一食100ハブ(1000円)、大盛り120(1200円)」

「じゃあ大盛り3つ!」


 満面の笑みの男に、ウゴはお前ダレだよ?と思いながら、日替わり定食を用意する。


 鶏のような味の鳥、ベンサが今日のメインだ。

 翼の色は雄雉を思わせる緑と青で、一抱えもあるサイズなのだが、魔物ではなく普通の動物だ。

 ちなみにこの町の名前「ベンスル」の起源でもあるらしい。

 起源なのは聞いたが、理由は知らない。


 「ベンサの照り焼き風定食」が今日の日替わりだ。

 照り焼きって何だ?という意見は今の所ない。

 美味ければ何でもあり!と思われているらしい。


 「定食」自体も、何だろう?と思われているのだが、とりあえず。

 パン←炭水化物

 メイン←タンパク質

 汁もの←ビタミン、ミネラル

 副菜←ビタミン、ミネラル追加

 の大抵は4品で定食にしていたので、客側は「いろいろ食えるのがテイショク」と考えていた。

 というか、「定食」とかいっている時点で「店」扱いになっていると、ウゴ本人だけが気がついていない。



 ウゴがケツ蹴り団拠点で店?を始めてから、食材の持ち込みが増えた。

 これまでは外に出る仕事で、偶然獲物を仕留めても、直接肉屋に売るくらいしか無かったのだが、ウゴが食材持ち込みで食事代をタダにしたため、持ち込みが増えていた。


 肉屋に売った方が儲かるのだが、その場で食事と交換というのが、欠食児童の団員達にウケたらしい。

 団員以外にまで。


 もちろん持ち込んだ獲物にムダな傷がなく、血抜きがしてある事が前提だが。

 神パワーを使わずに過ごすと、地味にいろいろと面倒くさい。




 いつのまにやら、ウゴ本人が知らないうちに【偏屈ローブの飯屋】は町一番のお食事処になっていた。

 団員以外が入り浸っていても、ウゴがそれを「金払えば良し、騒がなければ良し」と見逃していたせいで、「店」扱いになっているのだが…まだ、気がついていない。


 ウゴだけで、30人は入れる店を切り盛りできる事もおかしいのだが、客側は気がついていない振りをしていた。

 おかしくね?と指摘したら「偏屈」だから店をやめちゃうかも!?と思ったのだ。

 こんなに美味いのに!

 【偏屈ローブの飯屋】は、すでにマーキンの支持する「頰が落ちて、腰が砕けて、足が震える料理」を提供する場になっていたのだ。

 それだけこの世界の料理事情が貧しいともいえる。


 ウゴには異世界で育った味覚がある。

 生活は豊かではなかったが、祖母が亡くなるまでは、スーパー売りのパック入りケーキなども食べられた。



 売り上げから「ケツ蹴り団」に還元しろと言われるかと思ったのだが、モズは「稼いだ分はお前の取り分」と言ってきた。

 食材に回しても、持ち込みが多いせいで金が余る。

 ベンスルの町には、[弱者の神]教の神殿もないので、寄付もできない。


 ウゴ自身の衣食住は金が不用。

 趣味もないし、酒も、博打も、噛みタバコとか無理、女を買うとか興味もないし、で金が余っていた。

 貯金?

 とりあえず神パワー使った分を考えて、ずっと着たきりだったローブの他に、服を買う事にした。











「こちらがよろしいと思いますわ」


 マーキンの言葉に、ほぼ燃え尽きているウゴは、こくこくと頭を上下動する。

 洋服屋行脚は、すでに3店舗目だ。


 ウゴは古着でも良かったのだが、マーキンに「服を買う」相談をした所、一日、休む事になってしまった。

 モズにも「なんで休まないんだ?」と聞かれたので、休むのに反論はない。

 だが、これって、休んでないよな?

 少なくとも精神的には、食堂扱いの日々が楽だ。


「まぁ、これも素敵」


 こくこく。


「こちらも似合うのではないでしょうか?」


 こくこく


「…このスケスケはいかがでしょう?」


 こくこく


「ごくり、…このアミアミでほとんど布地の無いこれは?」


 こくこ…びくっ!?


「いや、それは無理だろ!」

「……なんで、そこで正気づかれるのです?

 本当に残念」


 最後の一言は聞こえないように小さくつぶやかれたのだが、ウゴの耳には届いていた。


「残念じゃねえ!!

 誰がそんな変態装備するか!!」

「………申し訳ありません」

「え?!え、おい、泣くなって」


 普通に怒ってしまい、マーキンがはらはらと涙を流す姿に遭遇したウゴは、神らしくない慌てっぷりを披露した。

 ちなみにマーキンは「着てくれないなんて、ショック〜!」と泣いている。

 だが、ウゴは「怒って泣かせてしまった!」と慌てていた。


 マーキンは慌てふためくウゴの姿にうっとりしつつ、「やっぱりこの姿(ルシェ・ベラル)ならイケるんじゃね?」と内心で拳を握りしめていた。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ