33 隠れ変態?
マーキンの知人として、しばらく過ごしたい。
一人だと悪目立ちしそうだからな、とウゴが言うと、マーキンは無表情でしばらく止まっていた。
「……つまり、冒険者になりたい、ということですか?」
「冒険者でなくてもいい、が、人の世で仕事を得やすいんだろ?」
マーキンは無表情の裏側で「主様と二人っきり?!ウハウハ?あひひひっ」とおかしくなっていた。
当然、ウゴはそんな事を知る訳がない。
ウゴの中では、ソバンの行動を除けば、使徒、見習い達は至極まっとうだ。
救済のフーガ ←大人
義勇のマーキン ←マトモ
見習い、忠誠のソバン ←行動ウザイけど、カリスマ?
見習い、信義のツィーレ ←癒し
それぞれが、元から持っていた強い想いを「命」として魂に刻み込んである。
刻まれた名前と命が、経験と記憶を得て、魂を強化していく。
つまり、いろんな人生を経ている分、引きこもりのウゴよりも単純に経験値が多い、はず。
人並み以上に苦労しているので、懐も深い、はずなのだ。
ウゴの知る、この世界を作った神(の内元一柱)が、かなりおかしいので、一概にそうともいいきれないが。
ウゴの人助け云々は、元は破壊神かよ?!の時の罪滅ぼしで始めたことだが、神になっても、独りでできる事は限られている。
大抵の事は神パワーでできるが、目や耳は増えない。
人々の助けを求める声を拾う、センサー的なモノを世界中に作るには、神パワーが足らなかった。
そのために、「人を救いたい」という望みを抱える魂を捜した。
使徒として動いてくれそうな魂を、時間をかけ精査した。
ウゴが自分の力を分け与え、譲渡するのだから、信じられないと困る。
マーキンに至っては、魂に刻まれた「義勇」のせいなのか、「勇者」仲間の経験まである。
そのせいか、マーキンは使徒一の武闘派だ。
今は美女の吟遊詩人でも。
「まぁ、いろいろあってな」
冒険者になりたい!わけじゃない、と返しておく。
近頃のイライラして落ち着かない状況を教えても良いのだが、ソバンのようにうざくなったら困るのでごまかした。
マーキンはごまかされる気がないので、あとでフーガに聞いてみよう、と無表情で頷いた。
今世のマーキンとほとんど接してこなかったため、ウゴはちょっと戸惑っていた。
なんで、こんなにグイグイ寄ってくるんだ?と。
つい先ほどまでルムスに抱き枕化されていたせいで、引いてしまっていた。
好き嫌いではなく、経験不足によるヘタレ化だ。
嬉しい前に、何か裏があるだろ?!と勇者時代の記憶が叫んでいる。
謀殺狙ってるだろ!?って。
どんどんダメ神化しているな、と自覚を持ってウゴは肩を落とした。
200年くらい前、4代前の人生のマーキンが「勇者」の仲間の一人となった。
たしか男で、イケメンの武闘家だった。
長身逆三で黒光りマッチョだったのは覚えている。
…たしか、格闘家とは違う?
当て、殴り、蹴り、投げ、絡め、組み、関節などさまざまな格闘を自己流で修めていた、と思う。
適正のないウゴには、マーキンの動きが川の流れのようだったとしか、分からない。
ウゴはその時、初めて自分以外の「勇者」を見た。
いかにも「勇者様!」だった。
この世界産のイケメンで、背が高くて、逆三角で、笑顔が爽やかで、仲間に頼りにされていた。
適正も剣術、槍術、格闘から、後家殺し、美人局?まで、魔法職もほぼ網羅していた。
あらゆる才能を持っている、勇者の中の勇者だった。
さらに勇者一行は、ムダに美男美女揃いだった。
ウゴは言いようのない空しい気持ちを覚えて、勇者本人には見つからないようにしていた。
マーキンだけと時折連絡を取り、神にも勇者にも見つからないように異界で過ごす。
時々はすぐ側で、子供のフリをしていた事もあった。
「勇者タナカ」を食い物にしようとした神の残党が、新たな「勇者」を襲いにくるか?
その時を隠れて待った。
答えは「来なかったが、背後にいる」だ。
使徒が神の「御使い」として勇者の元に現れた。
そして、「勇者タナカ」にしたように、「勇者」そして仲間であるマーキン達を連れ去ろうとした。
「神」が、辛く苦しかった魔王討伐の終わりを労ってくださるとか、わざとらしい理屈つきで。
様子をうかがっていたウゴは、勇者にバレないように使徒を捕らえた。
『緊縛』された使徒は、神の怒りを知るが言いとか叫んでいたので、口にも縄を巻いた。
残念ながら、「神」本柱は出てこなかった。
神はウゴの存在に気づいていたのかもしれない。
この頃のウゴはまだ、加護を与えて遠くで待機するような、力の使い方に精通していなかったので、直接動いていたのがまずかったのかもしれない。
いろいろあって「勇者」達もマーキンも生き延び、寿命でこの世を去る事になった。
捕らえた使徒は、多くを知らされていなかった。
魂から必要な情報を頂いた後、解放したが、その後、どうなったかは知らない。
その旅の途中から、マーキンは無表情を纏いだした。
当初マーキンは、仲間の勇者達にバレないように、ウゴに対しあからさまな好意を向けないようにと、気をつけていただけだったが。
だんだんソレは、違う方向へ暴走し始めていた。
側にいる事でマーキンが神に傾倒していき、劣情を抱えたまま、欲情を隠して、いつもハァハァ状態だったなどと、ウゴは知る由もない。
マーキンも狂信者への道を、着実に歩み続けていたのだ。
人の頭を片手で握りつぶす、黒光りマッチョイケメンに、「あぁ愛おしい神様っ!」とバリトンボイスと共に抱きしめられるのは、ウゴへの新たなトラウマにしかならなかったはずで。
マーキンはその点、良い判断をしたといえる。
内面の考えをまるごと無表情で隠して、現在のマーキンは浮かれっぱなしだった。
「支部で登録していただけば、すぐにでもご一緒できますわ」
色気を過分に含んだ流し目をされても、ウゴは戸惑うばかりだ。
なんなんだ?と。
「いつなら登録できる?」
「本日はもう遅うございます。
朝は新人の依頼受付で混みますので、夕方頃がよろしいかと」
「そうか……じゃ明日な」
頷いて席を立とうとするウゴを、マーキンが止めた。
「どこに行かれるのです?」
「野宿。
金がないし、帰ると明日来れる自信がない」
ウゴの「自信がない」発言に、マーキンは再び無表情が崩れるのを感じた。
今日の主様は、保護欲をかきたてられて、感じすぎちゃいますっ!
次に変な事を言われたら…本気でマズいですわぁ!と、思わず片手で下腹部を押さえた。
ジンジンと痛い。
「わたしくと同じ宿で、お泊まりくださいませ。
これくらいは、お願いさせてください」
主様の野宿してる姿もきっと、キュンキュンするに違いない。
むしろ、襲いたい、とマーキンは荒くなる呼吸を必死で抑える。
でも、使徒をやめさせられたら…いや、魂ごと消滅させられたらイヤなので、我慢。
ウゴはマーキンの下らなすぎる葛藤も、情欲まみれの内面にも気づかずに、ちょっと笑う。
やっぱり使徒達は頼りになるな、と。
「助かる、ありがとなマーキン。
?!、ど、どうした?」
礼を言うと同時に、マーキンががくがくと震えたので、ウゴは本気で焦る。
無表情で痙攣する美人の姿は、かなり怖い。
「だ、大丈夫です、っ。
ご心配には及びませんわ」
マーキンはとりつくろった無表情のまま、ハフハフ呼吸を荒げて頰を染めていたが、席を立った。
なんかよろよろと変な歩き方をしている。
どこかで足でも痛めたのか?とウゴはマーキンに声をかけた。
「…本当か?」
「は、はい、もちろんでございますわ」
マーキンは今にもくだけそうな腰を両手で押さえた。
大洪水だ。
どこが!とは言えないが。
そのままウゴは、マーキンの泊まる宿泊料高めの宿に、(借金して)泊まった。
「金は絶対返すから」と譲らないウゴに、マーキンが「主様が、普通の男の子みたいに、可愛いプライド誇示してますぅっ!!」と再び昇天しかけた事は、言うまでもない。
翌朝、夜明けと共に、ばっちり装備を決めたマーキンがノックをすると、中から返事があった。
返事がなかったら、寝顔(?)が見れたのに!とがっかりしながらマーキンは入室する。
「(?!)…おはようございます、主様」
そこにいるのは何故かハンモックに転がるウゴ。
…室内にどうやって吊ったのだろう?という考えはしまっておく。
主様は神だから、なんでもできるのだ。
どうやって、などと聞くのは不遜になってしまうし、聞いた所で真似ができる事でもないだろうし。
この宿はベッドに力を入れているのに、もったいない、と思っても言わない。
「おはよう、マーキン。
夕方じゃなかったか?
まぁ、いいか、冒険者になって…具体的に何をしたらいい?」
ウゴは神パワーを使えば、たいていのことはできる。
しかしそれは力押しもいい所で、炊きだしの時も神官長のソバンがいなければ、誰かが追求してきたはずだ。
材料や道具の出所は、明らかにおかしかったのだから。
人前で神パワーを行使し続ける事は、ウゴが周囲から浮く事に直結する。
故に、神パワーなしで生活していきたいのだが…いかんせん…。
神になる前が「大外れ」で役立たず「勇者」だ。
できる事が少ない。
その辺の村人の方が、地に足の着いた生活をしている。
ウゴは勇者行軍のせいで、この世界の常識に疎いし、ほとんどの場所で認められずに流浪していた為、文化や禁忌なども知らない。
戦闘職適正皆無では、傭兵業もできない。
冒険者は何でも屋というが。
徹夜で考えてみたけれど、ウゴには自分にできる事がある、と思えなかった。
「料理は、いかがでしょう?」
「……………料理?」
マーキンはウゴが神パワーなしでも、料理ができる事を知っている。
使徒になるきっかけが、餓死寸前の人生を助けられたから。
ウゴとしては、料理は嫌いではないが必要に迫られて覚えただけで…プロ顔負けというほどでもない。
料理の勉強もしたことはない。
元々ただの中学生だったのだから。
始めが働き詰めの祖母と、幼い妹のため、この世界に来てからは仲間達のため。
他にできる事がなかったので覚えただけで、特技として自慢できることではない。
「主様の料理は世界一でございますから」
「…料理か」
料理?とウゴは悩む。
冒険者の何でも屋な定義をフーガから聞いても、勇者時代が特殊だったと、知っているからこそ。
本当に料理が必要とされるのか?と考えてしまう。
マーキンはスキルを駆使して、ニマニマと緩みそうな頰を、無表情に維持した。
主様と二人っきり!
しかも、しばらくお供をする!
お手伝い中につまずいて主様に抱きついたり、手が滑って頰にキスしてしまったり…グフフ。
あぁ、楽園ここにあらわれり!!
と、妄想だけで鼻血が出そうになっていた。
貞操の危機にウゴは気づいていない。
生きていない?ので、反応するかは不明だが。
ウゴが悩んでいるので、昼は偵察をかねて食堂で食べてみることになった。
やっぱりマーキンへの借金で。
出てきたのは、豚に似た食感の肉と豆をとろりとするまで塩味で煮込んだものと、無発酵のパン。
水と塩だけで作ったのか、ペッタンコの粉っぽい味がするパンだ。
季節的なのか野菜は高くて少ないらしい。
「美味いな」
「はい、そうなのです。
ですが、主様の御料理の方がもっと美味しゅうございますわ、魂にまで届く味です!」
ウゴの記憶の中での手作りの食事は、勇者時代が最後だ。
その頃は、仲間が狩った獣肉や、森人族の知識でホールスが食べられると判断した、草や木の芽、蕾や若葉を食べていた。
ほとんどの場所で認められずに流浪していた為!だ。
現在泊まっている宿は、マーキンが定宿にするだけあり、高めの宿だ。
周辺の町と比べてみても設備、食堂ともに上等の部類なのだが、マーキンは「主様の方が!」と譲らなかった。
この町は規模こそ大きくはないが、帝国からハンバ王国を繋ぐ、主要街道の中継地であるため、ほどほどに賑わっている。
町の名前は「ベンスル」。
何故かは知らないが、帝国周辺の地名は、日本語表記だとツッコミたくなるものが多い。
しかもムダに下ネタで。
タノクラなど大変だろうな、とウゴはぼんやりと思った。
なぜ料理をゴリ押ししてくるのかは分からないが、他にできそうな事も思いつかないので、ウゴは先達冒険者であるマーキンの意見に従う事にした。
夕方までは、ベンスル中央市場を覗いて調理器具を調べたり、食材の種類や鮮度を調べてみたりした。
皿やスプーン木製、ナイフは文字どおりのナイフで、食事用のナイフなど存在しないらしい。
フォークは見当たらなかった。
鍋釜は素材自体が不純物混ざりで、鍋底の厚みがまちまちでたわんでいる……。
食材はともかく、調理器具は神パワーだなとウゴは思う。
この世界は鉄製品の精度が低い。
高炉が存在しないので、仕方ないのだが。
一人と一柱は「冒険者協同組合」の支部へと向かう事にした。
きもち足取りが重いのは、ウゴの人混みはイヤだなという気持ちがあるから、だろう。




