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26  新装備に変更します

 





 ウゴの意識が戻った数日後、勇者一行は女王と謁見した。


 イチノセは女王の纏う威厳に背筋を伸ばした。

 明るい藁色の美しい被毛に覆われた長身は、きらびやかな衣に包まれ、すらりと通った鼻筋、縁取られた黄褐色の瞳に込められた厳しい光。

 全獣人の王の姿は、その座る玉座に相応しい美しく猛々しい獅子だ。


 下々の者を思い、己を律して、心強くあらんとする姿。

 勇者として、見本にしたいと思う威厳溢れる女王の姿を、イチノセは心に焼き付けた。


 サカグチは別の意味でうっとりとしているようだったが。


「うはー、女王様ツヤツヤでモフモフぅ、この国サイコー」


 とか、ぼそぼそ言っている間は大丈夫だろう。

 2メートル超えで二足歩行のライオンに、抱きつく蛮勇は起こさないと思う。



「ここにハージェルス教、パーシアン教による騒動を終決したと宣言する。

 数日のうちに、どこでも行かれるが良い」


 女王は鋭い牙を少しだけのぞかせ、イチノセ達にかすかな笑みを向けた。

 といっても、それをイチノセ達が笑顔だと分かるのは、フーガが教えたからだ。

 それまでは牙を見ただけで「喰われるっ!!」と怯えていた。


 女王の言によれば。

 ハージェルス教は既になく、他国上層部へのイチノセ達の売名も済んだ。

 ただでさえ黒髪、黒瞳は珍しい。

 一般人にも「魔人族と異なり、肌の青黒くない黒髪、黒瞳は「勇者」である」、と伝達が走り出している。


 つまり謁見は「魔王討伐済み〜と神託があり、手を出されにくくなったので、とっととハンバから出て行ってくれ」と伝えるものだった。


 これは厄介者扱いではない。

 勇者一行を獲物と見込んだ、商人や裏社会から守っている。

 ウゴ曰く「とっとと、全部魔王を倒せ」を女王が後押ししているのだ。


 元の世界に戻るかどうかは、イチノセが明確に返事をする時まで、保留になっている。

 が、おそらく帰ろうとはしないだろう、とウゴは考えている。

 帰りたいと言われても、今は異世界へ4人を連れていけるほど回復していないので、もう少し先の話になってしまう。

 ウゴ自身の体感では…半年くらい?


 ただ一つの懸念は、戻った後、いなかった時間をどうするのか?だ。

 時間の流れは変えられない。


 あと数万年くらい存在すれば、異世界の倫理に関与できるかもしれないが、今の所は無理だ。

 たまたまこの世界で時間を戻せたとしても、戻った先では時間が経過している…かもしれない。

 考えても答えがないので、らちもない。

 とりあえずウゴの神パワーが戻るまでは、今まで通りレベルを上げておいてくれ、と伝えてある。




 いつ、どこで魔王に遭遇するかは、相手の神次第で、ウゴにも予想がつかない。

 何体の魔王を用意しているのか、召喚された時の「5年」がまだ生きているのかも分からない。


 そもそも今回の魔王騒動は、用意周到に待ち構えていた感が強い。

 相手が狡猾で、策を弄するのを得手としているなら勝てない、と考えている。


 たとえそれが「神」の罠と知っても、罠の中に飛び込ませるだけの策を用意している時点で、後手に回るしかない。

 ウゴは早々に考えるのを放棄して、いざという時は力技でいくことにした。

 高校にも行ってないのに、神と奸計で争えるはずがない。

 考えるだけムダ、というのが、本心。






 王国を出て行く前に、とウゴは女王に頼んで、イチノセ達に武具を貸してもらう事にした。

 もし破損した場合は、責任をもって『修復』か『創造』する、と伝えた上で。


 始めから『創造』した武具をイチノセ達に渡してもいいのだが、「勇者に関わらないのでは?」と今更のようにフーガに言われたため、やめた。

 いろいろ手遅れな気がする。



 宝物庫では宝具管理人と警備兵4人、女王付き騎士4人、女王まで立ち会いの元で、武具選定が行われた。

 事前に伝えられていた為、鑑定スキル持ちの管理人が、これを!と、自信を持って差し出した武具を「違う」とウゴが切り捨てる。

 管理人が抗議の声を上げるのはスルー。


 ウゴはその場で、周囲をぐるりと見回した。

『検索:イチノセの魂と波長のあう武具』

『検索:スズキの魂と波長のあう武具』

『検索:サカグチの魂と波長のあう武具』

 …さすが国規模の宝物庫、けっこうあるな、と満足して頷いた。


 これまで女王とフーガ、少数の兵士以外は、ウゴの姿を見ていない。

 見られないように動いていた。

 そのせいで、そもそもお前は誰なんだ!と、ローブとフードで全身を隠すウゴを睨む管理人。

 これまでも多くの騎士や、貴族に武具を選定してきたのに、怪しい奴にばっさり切り捨てられ、大変にご立腹だった。


 だがウゴは管理人の選んだ武具を、正しいとは思えない。

 選ぶ基準が始めから違うせいだ。

 適正や、これまで使用していた傾向から選ぶのではなく、魂に添い、なおかつ適正に合う武具を選んだ。

 使いこなせるか、使いやすいかなど、知らない。


「ユウマは魔剣:トゥキワルルと、銘剣:雨降らしだな。

 聖剣には及ばないが」


 ウゴが適当な感じで、探しもせずに剣を指し示すと、管理人の顔色が変わった。

 宝物庫の中は整理されているが、それでも数万点に及ぶ、各種武具、防具が見渡す限り並んでいる。

 初見でなにがどこにあるか、が分かるはずがない。


 分かるはずないのに、なんで…分かる?


「聖剣は急ぐ事はない」

「…そうか」

「ああ、「禍祓い」は返してくれよ?」

「あ、はい」


 イチノセはホッとした。

 魔王を討った時は「禍祓い」が従ってくれたが、ウゴが目覚めるとすぐ、再び拒否します!な空気を醸し出していたのだ。

 どうにも、相性がよくないらしい。

 単純に聖剣がウゴを大好きな可能性もある。

 剣に意思があるかは不明だが、「神貫」に精霊が取り憑いているなら、聖剣にも何かいるのかもしれない。


 聖剣は幾本もある、と女王から聞くまで、ずっと憂鬱だったのは秘密だ。



「…これいいな」


 受け取ったトゥキワルルは、しっくりとイチノセの手に馴染んだ。

 柄が長く刃渡りと同じくらいで、剣と長刀の中間のようなサイズだった。

 長剣より刃は短いが、バランスがいいのか取り回しやすい。


 この世界に来てから感じられるようになった、魔力、を流し込んでみると、トゥキワルルの青緑刃が、ふわりと羽が生えたように伸びた。

 …その為の長い握りか、とイチノセは納得した。


 もう一振りの雨降らしは、どうみても凶悪な形をしていた。

 ノコギリかよ!!と言いたくなる。

 これはもう、血の雨降らしだよな、と。


「あー、オレ自身に戦闘適正がないから、合うか合わないかしか分からん。

 戦い方にそぐわない時は言ってくれ」


 ウゴはそう言ってから、スズキに顔を向けた。


「スズキの希望は?

 確か魔王を殴ってたよな?」


 戦士だったよな?と念を押されて、スズキは苦く笑う。

 格闘技も適正があるけれど、戦士適正の方が上だったので、戦士をしているのだ。


 むしろ、スズキは魔法職以外の戦闘職にほとんど適正があった。

 まさに、「唯一無二ってなに?なんでもやるよ、できますよ」だ。

 器用貧乏と言ってしまうと、身もふたもない。


 それだけに何が良いのか?と問われると、何でも良いとしか答えようがない。

 なんでも、ある程度までならできてしまう。


「メインを短槍、サブを片手斧か、幅広の小剣にしてはいかがでしょうか?」


 それまで黙っていた女王付き騎士の一人が、口を開いた。

 ずっと女王の命でスズキの修練につきあっていたからこそ、の進言だ。


「それなら、これとこれ、あと、クセが強いけどこれだな」


 槍を二振り、片手斧を二つ、最後に灰色の刃を持つ片手斧を選んだウゴに、管理人が顔色を変えた。


「それは…」

「銘は「(ナギ)」魔斧ってより妖斧、…振り回されるかもな」

「…見ただけでそこまでお分かりになるのですかっ!?」


 管理人の驚愕の言葉に、女王付き騎士達、兵士達の顔色が変わる。

 ウゴの顔を隠すような格好といい、緊張感がなくやる気のない話し方といい、ひどく胡散臭い。

 女王に対して無礼な態度を改めない事に、誰もが苛立っていたが、実は恐ろしい奴かもしれない、という空気になった。


 女王はウゴの正体を知っているので、(神とは底が見えぬな)とただ傍観していた。

 真面目な顔を維持しつつ、ぼへっと力を抜いていた。

 お昼寝したいのを、つきあっているのだから、少しくらいだらけても…。




 スズキは管理人から受け取った妖斧を振ってみる。

 …軽い。

 鉄の斧とは明らかに比重が違う。


 カーボンなんちゃら?っぽい。

 スズキは車好きの友人が「良いだろ、これ、高かったんだぞ」と自慢していた、軽量かつ高硬度の素材を思い出した。


「試してみて、からだな」


 軽くて振り回しやすいのはいいが、重量で対象を破壊する、圧し潰す戦い方には向かない。

 明らかに技量が必要な武具だ。

 だからこその「妖斧」なのかもしれない。


「タノクラと、アミはこれ使え」

 と、ウゴは虚空から青緑色のねじくれた木の棒を束で取りだした。

 その中の2本を適当に引き抜いて、1本ずつ手渡した。


「「これは?」」


 同時に問われて、魔力こめてみろよ、とウゴは手振りで示す。


「「これっ?!」」


 なにこれっ、スゴいっ!!と同時に声を上げた二人を、ウゴがちょっと心配そうに見ていたが…一つ頷くと告げた。


「神樹の枝から作った、聖杖だ。

 心配しなくても新品だ、量産品だからな」

「これにも、銘とかあるの?」


 タノクラがほわんと青緑色の光を放つ杖を見つめながら、ウゴに聞く。


「いや、タダの杖だ。

 ホルーゴ父さんのお手製特級品だから、モノは良いけどな」


 メイナリーゼの顔が、なんとも言えない表情に変わった。


「ホルーゴ、父さん?」

「あー、そうか、えっとな、こっちに来てから、オレがすごくお世話になった人だ。

 死なないように助けてもらった」


 へー?もうちょっと話して?と表情だけでプレッシャーをかけるメイナリーゼに、ウゴは話す気はない、と態度で示してから、タノクラの方を気にかける。

 ホルーゴが言っていたように、魂まで枯渇してないよな?とメイナリーゼとタノクラを伺っていた。


「タノクラもそれで良いか?

 普通の杖より魔力凝縮量が多い、らしい」


 今まで使ってきた魔法杖に錫杖も、決して安いものではなかった。

 それが霞むような武具を軽く渡してくる上に、束で持ってんの?!とタノクラとメイナリーゼは思ったけれど。


「…もう、いいよ」

「ツッコむ所が多すぎて、逆に何を言ったら良いか分からない…」


 疲れたようにつぶやく2人に、ウゴはなにが?と不思議そうな顔をした。



 

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