18 勇者(仮)一行保護作戦
「勇者様は、ハンバ王国で保護させていただきましょう」
「これまでの接点がないのに、どうやってかしら?」
深緑髪の美女マーキンの言葉に、フーガは口吻をふこふこさせる。
「これはもう、どこをどうしても無理がでるので、道理は引っ込ませます」
弱りきっているハージェルス教が、周辺国家にたより、権力でハンバ王国を圧迫する可能性が低いからの、強攻策だとフーガは言った。
そもそも[弱者の神]がハージェルス教の勇者を助けにくるとか、そこから意味不明なのだ。
いまさらごまかそうとしても、上手い言い訳など出てくるはずがない!と。
サカグチがうっとりと見ているのに、気づいているかフーガ?
「異世界より来られた勇者様方は、ご存じないでしょうが。
ハンバ王国は自由宗教国家であり、今の勇者様方は、宗教による害を受けている立場です。
宮廷魔法使いとして、勇者を抱きこむのは、悪くないでしょう?」
まずは、ハンバにも信者の多い[弱者の神]教の神官長であるソバンと、王国の利権を考える宮廷魔法使いフーガに、元から交遊があったという話にしておいて。
1、パスウェトの炊きだしに参加していた勇者が、危機的状況で助けを求めた。
2、炊きだしで「弱者を助けた勇者」へ[弱者の神]が応え、ソバンにその身を預けた。
3、ソバンに助力を求められたフーガが、それに応えたという形。
いろいろとかなり胡散臭いが。
元々接点がないモノを、どう繋げようと無理があるのは仕方ない。
とりあえず過程より、勇者を保護してしまえばいいのだ。
フーガもソバンも[弱者の神]教関係者だ、ごまかせる…はず。
ソバンに実際に会うのは初めてだが、使徒同士なので仲良くできるはずっ。
ハンバ王国は、大陸最大の肥沃な国土を有し、周辺国との友好関係も良好だ。
なにより王が絶対的権力者である。
各獣人種族、混合の国のトップに立つ王は、いろんな意味で最強だ。
竜と違うのは、戦闘狂ではないということだが。
ハージェルス教の手が出しにくい場所に、勇者を避難させるならば、ハンバ王国はうってつけだ。
国が自由宗教を認めている地で、「邪教徒!!」は言いにくい。
「ただ、問題が一つ」
ハンバ王国では、特定の宗教を勧めていないため、保護はしても勇者の後見にはなれない。
というか、勇者に明らかな形で「宗教」を背負わせるのが、最悪の手、とフーガは考えている。
そもそもハージェルス教側の了承なしでは、改宗ができない。
無宗教にはなれるが…、と悩む一同。
「ちょっと良い?」
全員の視線を受けて、タノクラは困惑したように続けた。
「なぜ改宗する必要があるの?」
「それは、神官としての力を扱うために」
「…じゃあ、メイが、ウゴさんを神って崇めるってこと?」
サカグチの疑問に、メイナリーゼは首をぶんぶん振る。
イヤそうな顔をしながら。
「えー、無理だよ!
兄さんは、兄さんでしょ?」
「一応、マジで神なんだけど、オレ」
「えー、無理かな」
「…………ぐすっ」
いじられまくって、へこんでいたウゴは、本気で泣き顔になってしまう。
もう、神様らしさの欠片も残っていない情けない姿に、イチノセとスズキは同情した。
使徒達も珍しいモノ見た〜って顔してないで、助けてやれよ!と思いつつ。
無意識で、妹の前だと勇者になる前の「将吾兄さん」に戻ってしまうらしい。
日記にも書かれている、とっても涙もろい、シスコンに。
「無宗教だと神官の力って使えないの?」
「「「「「「「「え?」」」」」」」」
めそめそしているウゴと発言したタノクラ以外が固まる。
今まで、無宗教の神官など、誰も考えた事がなかったのだ。
神官なのだから、特定の宗教の元にいる、というのが当たり前すぎて。
「…やってみたら、どうかしら?」
マーキンの言葉にソバンが動いた。
この手の儀式なら、やり手の神官長様にオ・マ・カ・セだ!
ちなみに現在まで影の薄いマーキンは、良い所取りをしている訳ではない。
全員の意見を取り入れて、随所で考えを述べている。
「やってみるかの、ではメイナリーゼ様、神殿へ」
「あ、はい、おねがいします」
メイナリーゼからハージェルス教の肩書きをなくし、無神の神官にするのは難しくない。
改宗の一番の問題点は、前の宗教が、信者の改宗を認めるか?なのだ。
ただ、信者やめます!なら、ギリギリOK。
本当にギリッギリだが。
全員が神殿に移動して、荘厳な雰囲気の中で儀式が行われた。
薄暗い中でロウソクの明かりを頼りに、ハージェルス教の神官衣から、何の意匠もない白い神官衣へ着替えたメイナリーゼが進んでいく。
ツィーレが驚くべき機転をきかせて用意してくれたのだ。
「メイナリーゼ・スアラ。
汝の魂に刻まれしハージェルスの神「唯一神」の加護を失う事、後悔はせぬか?」
「はい」
「では、我が魂に刻まれし「神官長」の力において、汝の魂を産まれた姿にかえし、無神の神官である事を認めよう」
ソバンは慣れた様子でメイナリーゼから、「ハージェルス教高位神官」の称号をとりのぞく。
「天におられる我等の創造神たる父なる母なる神の守護持ちて汝の魂を穢れなき赤子の姿へとかえさん。
この地における我が名において我が魂において汝の魂の穢れを拭いさり世界への帰属を宣言する」
メイナリーゼには、===さんはこれを無呼吸で、できちゃうから、普段から長文で話せるのかな?と思うほどの余裕があった。
真面目にやっているつもりだが、おばちゃん根性が邪魔をした。
ふわふわとした綿雪のような白い光が、ソバンの骨張った手を覆い、メイナリーゼへと漂っていく。
これは神官長のみの特技で、ウゴもハラハラしながら見守っていた。
神パワーで無理矢理はがす事もできるが、これ以上記憶やいろいろを、メイナリーゼから奪うわけにはいかない。
「汝に「無神の高位神官」の位を与え、認める」
「はい、ありがとうございます」
全員がジッとメイナリーゼを見つめている。
姿は何も変わらない、雰囲気も。
光ったり爆発したり、エフェクトなどは存在しなかった。
「…試してみるね…「聖光」」
メイナリーゼの指先にポッ、と魔物が嫌う聖なる光がともった。
「…使えた、よ」
「使えるようだな」
「何も、変わってないみたい」
結果、特定の宗教の信者でなくても、神官の力は使えました!!
いえーい!とVサインを決めるメイナリーゼ。
スゴい事をした後だったのに、そんな姿は、やっぱり残念なおばちゃんだった。
今まで悩んでいたのはなんだったんだ〜と、げんなりモードになったウゴに。
「いや、神にも分からない事があるさ」と慰めにきたイチノセ。
「神のくせに知らない事があるんだな?逆に安心したぞ」と、スズキはとどめを刺しにきた。
サカグチとタノクラはメイナリーゼと一緒に、全ての神官の力が使えるのかを、さっそく検証していた。
…そして、勇者の補佐として必要な神官魔法はすべて使えた。
その後の話し合いで、勇者(仮)一行は特定の神や宗教の加護を受けない「無教の勇者」として、一時ハンバ王国にて身柄預かりにしてもらう、と決まった。
…そしてこれからが肝心だ。
ハンバ王国の国王と、交渉をする。
まずそこかよ!だが、こればかりは、直接交渉するしかない。
何かあってフーガが殺されてしまうとマズいので、完ぺきに隠密行動が出来る(自称)ウゴが、自ら着いていく事になった。
「オレなら、簡単には死なないし」
妹にイイ所を見せたい兄なのである。
フーガが、「主様が動きすぎて怖い…」と震えて怯えているのを、マーキンやソバン、ツィーレが慰めていた。
「大丈夫、この後ぐうたらしてもらえば!」とか、「きっと、働くのに飽きるから大丈夫!」等の、失礼な言葉が聞こえていたが。
使徒にしか分からない悩みというのがあるらしい。
それを見ながら、ウゴがぶすっとしていたのも目新しかった。
自分の使徒に「主様が出歩くと、ろくな事がない!!」と怖がられている神様ってどうなの?とイチノセ達は、助けてもらったのに首を傾げるしかなかった。
一旦、竜に勇者(仮)一行を預けようと、ルムス…が泣いて嫌がったので、フェムトに無理を言って、トウガ領で預かってもらうことになった。
今回はレベリングはナシだ。
食事も数日分、ウゴ作の防腐加護弁当いろいろと、フリーズドライのスープやみそ汁だ。
弁当を受け取って、いつものように、イチノセが泣いて喜んでいる。
スズキはルムスと離れたのがショックなのか、がっくりとうなだれていた。
サカグチはいつもと変わらず。
タノクラは……フェムトはまだオジサマには若すぎるらしい。
美形だけど、マッチョだし。
メイナリーゼは、にこにことウゴを見送ってくれた。
とりあえず大人しくしておいてくれれば良いのだが…とウゴはフェムトを睨んでおく。
メイナリーゼとフェムト双方が大人しくしてくれよな、と。
「フェムト、アミに適当な事吹き込むなよ」
「は、ははは、もちろんでございます御主人様」
フェムトは勢いでなんでもかんでも暴露する所があるので、信用ならん、と黒歴史の多いウゴとしては思ってしまう。
だが、本当に心配すべきはフェムトではなく、フェムトに「教えて?」と言いそうなメイナリーゼの方なのだ。
しかし、ウゴにもメイナリーゼは止められない。
シスコン兄らしく、妹には甘いのだ。
半年以上もの間、世界中を跳び回り『退廃』を使い続け、メイナリーゼの魂を強引に解放しているので、ウゴはダルさを感じ始めていた。
フーガの言う通り「動きすぎ」かもな、と本格的にハンモックの導入を考えだしている。
ウゴはマーキンを連れ出してきた国へ送ってから、フーガと共にハンバ王国へ跳んだ。




