16 シスコン確定!!
「まず、改宗したいんだけど」
メイナリーゼはいろいろ思い出した結果、ハージェルス教に未練がないと言った。
記憶をもてあそばれ、操られていたと知れば、普通はそうなるだろう。
しかしイチノセ達の仲間として、今後も魔王討伐には参加すると言う。
ウゴも一応は止めたが、シスコンなのに、無理強いしていない。
元妹が死んでも良いのか?とイチノセが熱く言うと。
「アミはもう子供じゃないし、なんかあったら助ける」
とさっくり言い返された。
正論なのだが、ウゴの外見が15〜7歳くらいなので、ものすごく負けた気がしたイチノセは落ち込んだ。
ウゴの気持ちとしては、止めたいが。
止めた所で、メイナリーゼの居場所がない。
この世界の父母は、メイナリーゼをハージェルス教に売ったのか、さらわれたのか、手放している。
メイナリーゼの話では寒村の農民だというので、頼りにはならない。
そもそもこの世界で15歳はもう成年だ。
16歳のメイナリーゼを保護してくれ、は無理。
人ではなくなって、時間経過に疎すぎるウゴの側にいる利点もない。
竜に預けるのも、非常に不安。
使徒達は、使徒という事を隠しながらの個人行動が基本だ。
ゆえに勇者(仮)一行といるのが、現状一番安全で人らしい生き方になる。
という判断だ。
「とりあえずパスウェトで===に聞くか」
飢饉で炊きだしをしていた、エストウラ王国へ行こうというウゴへ、スズキが詰め寄る。
目を興奮に血走らせて、はぁはぁしながら。
「ルムスたんと一緒にでしょうか?」
「ハイ!おしまいおしまーい!!」
なぜか、サカグチとタノクラに強制連行されていった。
「…今日は御主人様がおられるので、お願い致します」
スズキの方を見ないのに、泣きそうなルムスの姿に、何故か既視感を覚えて…。
……勇者時代、王女ルーデウスに迫られていた時のフェムトに、そっくりだ。
と気づいたウゴは「歴史は繰りかえすなぁ」とつぶやいた。
いつの世も追う者と追われる者がいるらしい。
ウゴの感覚では、もう心配はいらなかったが、さらに数日メイナリーゼの様子を見ておく。
すでに「神」にかけられた「改ざん」は消えているし、感じていた違和感も解消されている。
許可を得て、魂に触れて調べたので、間違いない。
改ざんを記憶ごと削りとってしまったので、後々不都合が出てくる事は考えられる。
勇者(仮)一行は、竜長のボーアや幼竜指導係に最後の追い込みとして、魔王に関する知識を詰め込まれ、実戦訓練に追われていた。
タノクラは「竜長の加護」の腕輪まで受け取っている。
ボーアに(娘のように)気に入られたらしい。
銀の鱗で作られた腕輪にうっとりしているので、本人もまんざらではなさそうだ。
「俺にもルムスたんの愛の腕輪を」
とスズキが近寄るたびに、ルムスの鋭い一撃が入る。
気持ち悪い!と怖がって逃げるのはやめたらしいが、腰がひけている。
八大竜王の一位なのに、どんだけスズキが嫌なんだ?
今も、なかなかいいパンチが入った。
「ぐぼぇっ!る、ルム、ス、たんっ〜〜〜」
「ぅひい、来るな!来るなああぁぁぁ!!」
「ちょっと、おしまいおしまいっ!!」
「ほら、キモイって言われてますよー」
…いつの間にか、スズキは非常に打たれ強くなっていた。
スズキ相手に、何故ルムスが逃げ出すのか?
自分より弱いオスなのに。
なぜ仲間のサカグチ、タノクラにまで邪魔されるのか?
…ウゴは考えてみたが、よく分からなかった。
ただ、聞いてはいけない気がした。
パスウェトへ向かう日。
「おはよう」
ウゴは竜の里へ来るのに、いつも通り白いシャツにカーキのパンツ+茶色のローブ姿で現れた。
しかし、今日は靴を履いていた。
ごく普通の「かわのくつ」だ。
タノクラは目覚めたメイナリーゼが、ウゴに「靴くらいはいてよ!」と怒っていたのを思い出す。
基準は不明だが、はだしはダメらしい。
はだしにこだわっていたわけじゃない、とさっそく靴を履いてくるウゴを、本当にシスコンだな〜と、ぬるく見てしまった。
ちなみにルムスは、すでにメイナリーゼになついていた。
ルムス→メイナリーゼは可愛い妹。
という扱いなのだが、実際は中身おばちゃんのメイナリーゼに「モデルさんみたい〜♪」と逆にかわいがられていた。
ルムスは忍び寄るスズキを牽制しているので、ずっと側にいる訳ではないが。
とはいえ、出会いは最悪だった。
「御主人様に馴れ馴れしいですよっ!
殺すっ!!」
「…させるか!」
とウゴと談笑するメイナリーゼに飛びかかったルムスへ、ウゴが手加減ナシでデコピンを放った。
石床を数百メートル抉り、石の壁に半ばめり込み、ショックと衝撃で朦朧とした意識の中で、ルムスは「我の御主人様」に守られるメイナリーゼに、深い殺意を抱いた。
今までの竜生で、一番強い殺意だった。
天才と呼ばれた若い竜王から溢れでる、重く冷たいどす黒い殺気に、谷中の竜がどよめいた。
ウゴもルムスの態度に驚いた。
殺戮上等!状態のルムスに、隠しておけないと思ったのか。
ウゴは背後に庇ったメイナリーゼが、異世界での前世が妹だと教えた。
ルムスはそれを聞くなり殺気を霧散させ、「我をお(義)姉さんと呼んでくださいませ」と、ハァハァしながらメイナリーゼに告げたあげく、「ないっ!」と断言したウゴによるデコピンで、再び壁にめり込まされた。
ルムスにとってついていない事に、さらにメイナリーゼが、「お義姉さん?」と素の様子で首を傾げたあと。
「兄さんには、惚れた人がいると思うよ?」
と言って、その場をあたり一面、氷漬けにしていた。
ちなみに氷漬けの中には、ウゴも含まれている。
そこのところ我に詳しく〜!と泣きながらすがってくるルムスに、メイナリーゼも知らないので、答えようがなかった。
なんとなく、妹の勘!で、そう思うのだと言われたルムスは、「思い当たる相手がいないっ!!」と未だに悶えている。
本人であるウゴは、さっさと姿を消していた。
修羅場と好奇心は勘弁して、と。
メイナリーゼの言に関して、身に覚えがあるということもあり。
勇者(仮)一行は今、ウゴから渡されたペンダントと腕輪をはめている。
両方とも艶のない黒で、素材は不明。
「ハージェルスの神に見つからないように」
と、いつも通り、どういう構造や理屈なのかはすっ飛ばされた。
「たまには、神パワーは万能じゃない!って、言ってほしい」
タノクラのもうツッコむのイヤと、疲れた発言に。
「万能じゃないぞ」
とだけウゴは答えていた。
「腕輪は使いきりじゃないが、面倒だから、死にそうな時だけにしてくれ」
ムダ打ち禁止!と指差してくるウゴに、すかさずメイナリーゼが呟く。
「兄さんのご飯が食べたいのに…」
「と、時々作りにいくから」
「わー嬉しい、将吾兄さん大好き」
うん、やっぱり重度のシスコンだ。
と勇者(仮)一行によりウゴは「シスコン神」の称号を得た。
パスウェトの街の外れ、民家のない一角に5人+1柱は降りたった。
全員がフードを深くかぶったローブ姿で、怪しさ満載だが、顔をさらして騒ぎをおこすよりいい。
飢饉の終息より一年以上が経つのに、いまだ地脈に影響が残っているせいで、色とりどりの花が咲き乱れ、周囲に甘い香りを漂わせていた。
「…ハナミズキ?」
メイナリーゼの言葉に、サカグチがあれ?と首を傾げた。
「前にメイナリーゼが、スウォランの花だと教えてくれたよ?」
メイナリーゼは記憶改ざんの解除の影響で、記憶を少しなくしている。
ウゴがローブの下で顔をしかめた。
「スウォラン…スウォラン…うん!覚えた、ありがとエイコちゃん」
ちゃんと呼ばれたサカグチも、複雑な顔をした。
今のメイナリーゼの姿は16歳。
しかも150センチくらいで、細くてぺったんこで、よくて中学生。
これで、この世界だと成人しているんだよなーと、複雑な気持ちになる。
中身は、どうやらおばちゃんらしいが。
今までが外見相応の、大人しい追従タイプだったので、今のちゃきちゃきおばちゃんメイナリーゼに、戸惑っていた。
ウゴに対しても、あざといくらい妹ヅラをすることがある。
それでも、兄を大切に思っているらしい。
「いかような御用でしょうか?」
「カールマン・マルナ神官長か、エレクトロナ・H・スゴワ護衛神官に会いたい」
内心、名前あってるよな?と思いながら、ウゴは[弱者の神]神殿で受付をする。
受付してくれた神官は、少しだけウゴのフードの中を覗き込む仕草をした。
ウゴが言い終わるやいなや。
ずべしゃばだあああああああっっっ!!!
神官が、顔をひきつらせると同時に、スライディング五体投地を披露した。
「神様ぁああぁぁっっっっっっ!!!!」
げんなりモード、突入!となるところを耐えて、ウゴは神官に声をかける。
「早く、呼んでくれないか?」
「畏まりましたっ!」
とりあえずソバンには、神罰!と右手中指と親指に力をこめていると。
記憶が欠損しているメイナリーゼが、「兄さん、神様だったね」と、イタい人を見る目で、ウゴを見た。
「うぇ?!」
思わぬ所から甚大な精神ダメージを受け、ウゴはよろめきながら胸を押さえた。
オレは、悪くないっ!
と必死になって妹に言うのは、情けない気がして耐えた。
一応、兄としての尊厳はなくしたくないのだ。
戻ってきた神官にお茶と、菓子を出されて奥の部屋へ案内された。
「神官長様は現在お忙しくしておられまして、少しお待ち頂ければ」
と、涙やいろいろ溢れさせつつ、土下座されてしまったので、後で良いと言えなかった。
「これ、うまいな」
「ねぇウゴさん、これ何?
ナッツ?」
「知らん」
そんな会話をうだうだとしていると、バゴーーーンっと、扉が開かれた。
「はぁはぁ、か、神様っげほ、ごほっ、がはっっはぁはぁはぁげほごほぉげぼげほっ…ぜは、ぜえっ」
「はぁっ、はぁっ、神官長様っ、お水をっ!」
ソバンとツィーレが、砂埃にまみれた姿で現れた。
どこかから全力疾走をしてきたらしく、五体投地をしようとして、呼吸困難になるほどむせていた。
「ソレ、いらないからな」
目立つからイヤだ、と釘をさしておく。
ソバンはショックを受けたのか、それとも走り疲れたのか、一気に青ざめると膝から崩れ落ちていた。
がっくり、と擬音を背負いながら。
それをなぐさめるツィーレの言葉にも、「やりすぎ」とか「おおげさ」とか、毒が混ざっているので、かなり鬱陶しいと思っていたらしい。
部下の進言は聞いた方が良いぞーとウゴは見ているだけにした。