14 メイナリーゼ→前世◯◯
「メイナリーゼ・スアラ!この不届きものが!
邪神の言に惑わされるとは!」
(違います、話を聞いてください、神官長様)
ふと、誰かが優しく抱きしめてくれた、そんな気がしてメイナリーゼは、話を聞いてくれない神官長をジッと見つめた。
「不届きもの、不届きもの不届きも不届き」
まるで壊れたように、ひたすら同じ言葉を繰り返す神官長。
そもそもの始まりからおかしかった。
おぼろげな前世の記憶を持ってうまれ、この世界との違和感に怯えて、バレたくないと精一杯普通のふりをしていた。
なぜか怖くてたまらない。
全てが、怖い。
……に見つかるのはまずい、それだけは分かっていたから。
必死でメイは両親に縋った。
田舎の寒村の人族に産まれて、生活は楽ではなかったけれど、両親はメイナリーゼを愛してくれた。
愛して、くれた。
それなのに、見つかってしまった。
突然ハージェルス教の大教会に連れてこられて、勇者様のお供をするのが「運命」だと告げられた。
勇者様のお供をするのに家名がいると、神官輩出の名家スアラ家の、名前だけは養女となった。
名前をメイナリーゼ・スアラと変えられた。
神官になる修行は、とても大変だった。
神殿と、神官寮の往復の人生。
特命を持つメイナリーゼは、どこでもいじめの標的になった。
「選ばれたのが田舎者なんて、勇者様が哀れねぇ」と言われても、何も反論できなかった。
やめたい…ううん、やめるなんてとんでもない。
勇者様のためになら頑張れた。
他の神官はみんな友達で、応援してくれている。
高位神官になれて、とても誇らしい。
勇者様は守ってくれる。
優しくて格好よくて、強いから勇者様なのだ。
15歳でやっと出会えた勇者様は、思っていた以上に格好よくて、しかも転移者という、わたしの前世と同じ異世界の人だった。
とても優しくて頼りになるお方だった。
優しい声でわたしを呼んでくれる。
勇者様と一緒に、魔王を倒すのだ。
魔王を殺すのだ。
魔王を、殲滅するのだ。
…あれ?
なんで、そんなことするんだろう?
そう、勇者様のために!
わたしを守ってくれる勇者様のために!
前世では、だれも、守ってくれなかった。
……………も、愛してくれなかった。
あれ?
でも…。
ウゴとかいう変なやつに出会った。
異世界の料理を作っている、自称[神]とか言う、おかしなやつ。
神が料理?
そんな話聞いた事がない。
神は神託を下さる、私たち信徒を愛してくださる。
だから、わたしはウゴには会いたくない。
…すごく懐かしくて、悲しくなるから。
勇者様がすごく喜ぶので、わたしは何度もウゴに会いにいった。
会いたくない、顔も見たくない。
会う度に心がヤスリでこすられるような気がする。
何か言ってやりたいのに、うまく言葉が出てこない。
すごく嬉しい…いいえ、すごく腹が立つ。
==うご===、に会えて嬉しい…。
竜王とかいう赤い人にタナカ・ショウゴの話を聞いた。
大外れの勇者として、ありえない数の魔王と戦ったという。
なんてひどい目に…いいえ、なんて、バカな勇者。
わたしの勇者様は当たりだ。
だから神様の御神託通り、4、5体の魔王を殺せばいい。
勇者様はこの世界で、魔王を殺してくれる。
わたしはお供をする。
命を差し出すのだって、平気。
勇者様のサポートは大変だけど、勇者様のためなら、何でもできる。
…それなのに勇者様は、あの==うご===と仲がいい。
==うご===はわたしの、わたしだけの===なのに!
あれ?
何だったっけ?
そうだ!教会に戻ったら、報告しないと!
==うご===の事を。
神官長…じゃなくて「神様」に!
カミサマ?
==うご===は、わたしの===で、わたしをずっと助けてくれて、わたしのそばにいてくれて。
あれ?
なんだろう?
なんか、おかしい。
==うご===って誰?
わたしの、大切で大好きな……のは勇者様だよね?
(教えてください神官長様、どうして神はわたし達を助けてくださらないのでしょうか?)
「神に助けを求めるとは不届きものめ!」
([弱者の神]は人々に救いの手を差し伸べると聞きました)
「あのような邪教に、たぶらかされたというのか?!」
(違います、ただ、わたしは知りたいのです)
「メイナリーゼ・スアラ!この不届きものが!
邪神の言に惑わされるとは!」
(違います、話を聞いてください、神官長様)
「メイナリーゼ・スアラ!この不届きものが!
邪神の言に惑わされるとは!」
(違います、話を聞いてください、神官長様)
「メイナリーゼ・スアラ!この不届きものが!
邪神の言に惑わされるとは!」
(違います、話を聞いてください、神官長様)
「メイナリーゼ・スアラ!この不届きものが!
邪神の言に惑わされるとは!」
(違います、話を聞いてください、神官長様)
「メイナリーゼ・スアラ!この不届きものが!
邪神の言に惑わされるとは!」
(違います、話を聞いてください、神官長様)
……あれ?わたし、この会話を何度も繰り返している?
「アミ」
ふと振り返ると、==うご===が立っていた。
すごく懐かしい笑顔を浮かべて。
「やぁ、メイナリーゼ、いや、亜美。
自分の兄貴の顔を忘れたのか?」
………==うご===……しょうご兄さん……将吾兄さんっ!?
「まさか、お前まで連れてこられてるとは、な」
ちょっと困った顔をして、将吾兄さんは笑っている。
「えーっと、わたし…何してた?」
なんだか夢の中にいる気分だ。
兄さんは、わたしの頭をぽんぽんと、小さい時のようにしてくれた。
「たぶんだが、ハージェルス教の「神」がお前の霊と魂に細工をしていた。
そいつを外すのが難しくて、…ちょっと記憶が足らないかもしれない」
兄さんは、神パワーを完全には使いこなせなくて、と苦い顔をした。
元が異世界の存在だから、とかなんとかむにゃむにゃ言っている。
わたしの中の記憶を思い出してみる。
見つかりたくなかった、気持ちを思い出した。
誰に…見つかりたくなかったのか、は思い出せない。
メイナリーゼであった時は、ちょっと、誘導されてるというか、洗脳されているみたい。
思考誘導?
催眠術?
「…記憶…だと…兄さん…神なの?」
「まぁ、な、自慢して良いぞ」
「イタすぎない?」
「ぐあっ、イタいって言うな!
自分でも、神とか言うとイタいって分かってんだよ!!」
ちょっと涙目になる兄さん。
この顔、よく見てたな。
兄さんって泣き虫だったもん。
「くくっ、本当に兄さんだね」
「ああ、おかえり、亜美」
目を開けたとき、自分がどこにいるのか分からなかった。
「メ、メイナリーゼ!」
視線を動かすと、坂口栄子ちゃんが驚いた顔をしている。
すぐに騒がしくなって、一ノ瀬悠馬くん、鈴木大介くん、多野倉奈々ちゃんが駆け込んできた。
そして。
「おはよう、亜美」
わたしが夢で見たのと同じ、15歳くらい。
わたしが覚えている、失踪前の記憶と同じ将吾兄さんが笑顔で迎えてくれた。
「ただいま、将吾兄さん」
「「「「え?」」」」
ぽかんとしたみんなの顔を見て、ちょっといい気分だった。
兄さんは、わたしの自慢で大好きな将吾兄さんだった。
きっと、これからもずっと大好きで、大切でいられる。