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12  [名も無き神]戦う(演習)

 





「それで、この拷問部屋送りにはどんな意味があったのよ!?」


 やっぱり一番タフなタノクラが、食後一番にウゴに詰め寄ってきた。


「レベルアップと実戦経験だ。

 魔物はどこででも狩れるが、知恵を持つ人型の相手はそういない、戦い方も与えられるプレッシャーも違う。

 オレも昔、同じ事をやらされたから、効果は保証する」

「フンド氏の日記に書いてありました、でも、ここまでなんて…」


 デザートを食べて、気持ちが落ち着いたらしいメイナリーゼが、珍しく会話に入ってくる。

 溜息をついている横顔に、ちょっとだけ苛立ちが募った。

 オレの事を、知っている気になるな。


「オレはもっと弱くて、毎日死にかけていたよ。

 2ヶ月で30レベル上げさせられた」


 「「「「「はいッ?!」」」」」


 しまった、と思わずイタい過去を勢いで自慢したオッサンの気分になって、飲む必要のないお茶を飲んだ。

 ごまかせたか、とウゴが内心で溜息をつくと。


「今日は、いつもと服が違うね」


 弓術士サカグチが、寄ってきたと思ったら服装をじっくりと見てくる。

 じろじろ見られているのに、あまりイヤな感じではない。


「竜は、オレの眷族ってことになってるからな、一応よそ行きのつもりだ」

「その服も、えーと、神パワーってやつなの?」

「ああ」


 普段着ている服は、本物の布の服だ。

 今は服の上に神パワーを上乗せして、軍服っぽい格好になっているだけ。


 毎日の普段着に神パワーは使わない。

 外に出なければ着替える必要もないので、ローブ1つに、服2着しか持っていないし、デザインも色もほぼ同じ。

 神パワーが枯渇したら裸になった、では困る。

 元々、おしゃれも分からない。


「ふーん、便利でいいね。

 あ、ファッションショーとか、タダでできるよね!」

「…やらんぞ、面倒くさい」

「アハハハ、言うと思った。

 ウゴさんって、すぐ面倒って言うよね!」

「本気で、本当に面倒くさい」

「アハハハ、おっかしー」


 このノリはなんだ?と思っている事を知ってか知らずか、サカグチはほとんど高さの変わらないウゴの目をジッと見つめる。

 その黒い瞳は、きらきらと光を放つように美しい。

 どんな気持ちを抱いているかは、知りようがないが。


 神になってから面と向かって見つめられる機会など、ほとんどなくなったウゴは動揺した。

 外には出さないが。


「親切にしてくれてありがとう。

 これだけ言いたかったの、イヤだろうけど」


 じゃね、と軽く手を振って仲間の元へ戻るサカグチを、ウゴは拗ねたような表情で見送った。

 軽くあしらわれたような、そんな扱いを受けたことが…嫌ではなくて。






 食事をとった勇者(仮)一行が落ち着いたのを確認したのか、ハーバラが寄ってくる。


「御主人様、お手数をおかけして申し訳ないのですが、若い竜達に御尊顔を拝見させて頂けません?」

「戦わないぞ」

「そこはもちろん、ちゃんと言ってあります」


 言う事を聞くかどうかは分かりませんが、という含みを込めてハーバラは伺っている。

 それはウゴも理解している。

 竜族はイエスマンではない。


「ま、たまには眷族サービスでもするか」


 残業続きの父親のような事を言い、ウゴは集められた竜の谷、ホクガ領の124体の竜の前に歩み出た。


 ウオオオオオッッッッッッ!!!!!!


 耳が痛い歓声の中で、ウゴは無表情をうかべている。

 いっその事、普段はゼロ近くまで抑えている神の『威光』でも出してやろうかと思いながら。


「皆の者しずまれっ、本日はめでたき日である!

 400年と301日ぶりに我等の神、[名も無き神]が、訪れてくださった!!」


 ハーバラの煽りに、更に興奮する竜達。


 ウオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッ!!!!


 全然しずまってない。

 むしろ煽るなよ、とウゴはハーバラをジトッとした目で見る。


「本来であれば祝宴を執り行うが、御主人様は我等に負担をかけたくない、と考えてくださっている!!

 それ以上に我等を思ってくださり、心配りを頂いたっ!!」


 ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッッ!!!!!


 先ほど用意しておいた、限りなく生に近いレアのステーキの山に、竜の視線が集中している。

 牙をさらして舌なめずりするな、勇者(仮)一行が後ろで怯えているから。

 このままごまかして帰ろう、とウゴが歩き出そうとした時。


「待て神!我と戦え!!本物の神と証明しろ!!」


 やっぱりキターーと、げんなりモードになったウゴの前に、長剣を両手に持った若者が踊りでる。

 珍しい黒髪と、黄金瞳の姿。

 見た通りの若い竜らしく、筋肉は発達途中のようだが、しなやかな手足はすでに十分に育っている。


「ソーゴ、言ったはずですよ?」


 穏やかなほほえみを浮かべて、ハーバラがソーゴを遮る。


「…っ」


 目が笑っていないハーバラからにじみ出る威圧に、若いソーゴは両足を踏ん張って耐えた。

 ハーバラ的には、聞き分けのない若者へ言いきかせたいのではなく、お前に戦わせるくらいなら、我が戦うわ!!と思っているに違いない。


 一方のウゴはげんなりモードになってしまい、ただでさえやる気がないのに、今では哀愁を漂わせている。

 仕事疲れで寝ていたいのに、遊園地まで強引に連れ出されたお父さんみたいになっていた。

 やっぱり、いっつもこうなるんや…って、言いたそうな表情付きで。


「会った事もない神に平伏したりできるか!我は己の認めし強者にのみ付き従う!!」


 うーん、典型的な竜の考え方だ、とウゴは聞こえないフリをした。

 見たところ反抗期竜だし、相手してもしなくても面倒になるのは、考えなくても分かる。


「御主人様は、多忙の中わざわざ来てくださったのです。

 主に牙剥く愚かな若竜にはオシオキが必要ですわね」


 目を光らせて、舌なめずりしそうなハーバラの言葉に、ソーゴは青ざめて、それでもくじけずに両手の剣を下ろさない。


「ハ、ハルヴェンルバラ様がなんと言おうとも、我は納得しない!!」

「…ソルドベファーゴ」


 上位の者が若い竜の名を全て呼ぶ、という事は…。

 完璧にやりこめてやるという威嚇だ。


「ハーバラ、待て」

「御主人様?」


 いくら完全実力主義社会とはいえ、ちょっと大人げないぞ、とウゴはげんなりモードを解除した。

 ハーバラは長ではあるが、若竜育成には関わっていない。

 竜王一戦いに溺れやすいハーバラが、若い竜を鍛えるのに向いてないのは言うまでもない。


 一方的に殴って蹴って、投げて極めて終わる。

 心も体もへし折りながら。


 見せ物になってやってもいい、少しだけなら。


「1体だけ、相手してやる」

「御主人様っ」


 自分が戦いたい!ときらめくハーバラに、お前は里を壊す気か?とデコピンを見舞っておく。

 瞳を潤ませて、うっとりと震えるハーバラを無視して、ソーゴという名の若い竜の前で『威光』を出力1割で纏ってみせる。


 すぐに震えだす若竜の手と足。

 しかし、ソーゴは逃げない。

 黄金の瞳に、力を込めて。

 …先が楽しみな若竜だ。



「お前が代表か?」


 他にもうずうずしているのがいるのは、分かっている。

 反抗期なんだからな。


 案の定「待て!」と声がかかり、何体かの竜が歩み出てきた。

 全員が何も持っていない。

 剣を持っているソーゴの方が珍しい。

 竜はほとんどが無手で戦う、すなわち肉弾戦大好きっ子なのだ。


「早く決めろよ」


 これ以上候補が増えないように『威光』だけは纏ったまま、ウゴは安楽椅子へ腰掛けた。




 ………怒鳴り合うような議論が終わり、ウゴの前に若者が2人立った。

 昔のように殴り合って解決しないんだな、と驚いてから。

 1体って言ったぞ、と顔を上げると。

 ソーゴとともに漆黒の髪に黄金の瞳、ソーゴに良く似た…少女?が立っていた。


「御主人様、我はリョルノファーゴと申します。

 我が兄の無礼をお許し頂き、誠にありがとうございます」


 それだけ言いたかったらしく、深々とお辞儀をすると退いた。


「我が貴様の化けの皮、はいでくれる!!」


 フワハハハハハハとか言いそうな顔で、二本の長剣をぶんぶん振り回すソーゴ。

 そんなに気合をいれられても困る、とウゴは立ち上がった。






 幼竜修練場の岩舞台の上で、ウゴと、若い竜が向かい合って立つ。

 周囲を竜達が囲み、異様な熱気と沈黙が満ちている。


 老いた竜は「あいつバカだな」という顔で。

 若い竜は「あいつスゲー!」という顔で。

 しかし全ての竜の思いはただ一つ、強者の戦いを見たい!!というそれだけだ。


 ウゴには、まったく戦う気がないのに。


 勇者(仮)一行も、固唾をのんで見守っている。

 どうしたら良いか分からないという表情で。


「ハーバラ、勇者をまかせる」


 もし、興奮した竜達に巻き込まれたら、今の勇者(仮)一行では、死んでしまう。


「かしこまりました」


 …ハーバラにまかせて良いのか、一抹の不安が残る。

 しかも、門兵’Sまでこの場にいていいのか、仕事しろ。

 種族全員が戦闘狂って、どれだけ物騒な生物なんだよ。

 まぁ、弱小種族へ干渉してこないから、近寄らなければ一番安全な種族だが。




「余所見するな!!

 我ではまじめに相手する気にもならんと言いたいのか!」


 ぐぬぬぬぬ…と擬音入りで歯を食いしばるソーゴの両手、二本の長剣からはゆらゆらと陽炎が立ち上っている。

 黒い火を纏っているようにも見える。


 だが、これは火ではないな。

 若い竜であるのに、色々と戦い方を考えている事を感心した。

 普通ならまっすぐ殴り掛かってきて終わりなのに。


「…珍しいな、闇属性か」


 生まれつき水、風、土、などの自然属性と馴染みやすい竜には、闇、光の担い手が少ない。

 黒髪は珍しいと思っていたが、闇属性の担い手だったのか、と納得した。


「んなっ!?」


 何故分かった!と驚愕の表情を浮かべるソーゴに、『威光』の2割を纏ってみせると、一気に表情がひきつって腰がひけてしまう。

 しかし目の光は消えておらず、震える体を叱咤して、ソーゴはじりっと一歩前に進む。



「へぇ」


 これで逃げ出さないなら、やはり将来的に竜王か、長の器になりそうだ。

 先ほどの門兵といい、竜達は肉体だけでなく精神的にも研鑽を積んでいるらしい。

 もう少し頻繁に顔を出してもいいかもな、とウゴは少し楽しく思う。


 神を前にして、逃げ出さぬ胆力を持つ若い竜。

 …ちょっとだけ本気でいくか。

 手加減しすぎて傷を負わさずに勝てば、それこそプライドを引き裂きかねない。


「必殺闇刃斬身(アンジンザンシン)!」


 …オイ、感心したのを返してくれ。

 やっぱりタダのアホ竜だ。

 ひっさつ!とか、自分で言うな!


「必殺できねぇよ」


 炎を纏うように見える闇の刃が、ゆ〜っくり、と時間差で迫りくるのを、神パワーなしの手を振る風圧だけではじきとばし、手加減なしデコピンをお見舞いした。


「っぅがあぁぁっ!!?」


 スドゴシャバゴベキャドゴ……


 …やりすぎ、たか?

 ヤベッ!と思いつつ、とっさに無表情を貼りつけたウゴは、ソーゴが吹っ飛んで床を陥没させ、岩壁にめり込んだのを見て、様子を見にいく。


「うわ、ごめんな」


 思わず心から謝ってしまう。

 手と足は曲がったらダメな方向に曲がって、口から泡を吹いてピクピクしている。

 これ、再起できるか?と不安になるが、さっさと年嵩の2体の竜がソーゴを回収していった。


 ウオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッッッッッ!!!!!!


 異様な盛り上がりと興奮の歓声が周囲に響き渡った。




「なんで、いっつもデコピンなのよ!!」


 タノクラのツッコミには、誰も答えてくれなかった。

 ウゴは運ばれていったソーゴにぽつりと呟く。


「再起不能にならなきゃ良いが」

「大丈夫です、お優しい心遣いを伝えておきますから」

「…帰る。

 勇者を頼むぞ」


 あっという間に姿を消すウゴを、ハーバラはうっとりとした表情で見送った。

 

 

 

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