中編
3話予定が超えそうな予感
愛宕姫を正室に祝言した長慶だった。夫婦仲は極めて良好であり逆に家臣達が恥ずかしがる様子もあったという。(家臣談)
それはさておき、長慶は天文十年には名を利長から範長に改名して三好政長らと共に一庫城の塩川政年を攻めたり史実通りの展開をする。
(下克上をするのはまだまだだな。長逸はいるがまだ岩成友通や政康がいないしな)
そう思う長慶である。そして天文十一年、愛宕が長男(後の義興)を出産した。
「でかしたぞ愛宕!!」
「はい、ありがとうございます」
出産直後の愛宕に長慶は抱きつく。いつの間にか長慶は泣いていた。
「これが俺の子か……何とも可愛い顔だな」
スヤスヤ寝ていた赤子は急に機嫌が悪くなりふぇぇぇと泣き出す。
「おぉ、愛宕。どうしたら良い?」
「このように優しく抱くのが良いです」
慌てる長慶に愛宕は赤子を優しく抱く。
「おめでとうございます殿」
「真にめでたいです」
そこへ長逸と一人の男が現れる。
「長逸と久秀か。済まぬな」
久秀と呼ばれたのは史実では日本初の爆死をする松永弾正久秀である。
「よーし、息子のために頑張らねばな」
「その意気ですぞ殿」
そう意気込みを入れる長慶だった。そして細川晴元に反逆した木沢長政を同年に討死させた。そして天文十四年、長慶は長逸と久秀を伴い堺に出向いていた。
「これが種子島か」
「さようでございます」
長慶は購入した種子島――火縄銃の実射をしていた。火縄銃の轟音に長逸と久秀は驚いていた。
「何とも凄まじい音よ……」
「雷でござる……」
二人はそのような感想を洩らしていた。長慶は火縄銃のために大金を叩いて十二丁を購入していた。
「二人とも、これからは火縄銃の時代だ」
「ですが殿、火縄銃は作るのにカネが……」
「分かっておる。そのために鍛冶師を堺に派遣して火縄銃を大量生産出来るようにしなければならん」
「しかし……本当に火縄銃の時代になるのでしょうか?」
あまり信じられない様子の長逸である。
「まぁ確かに刀や槍、弓矢は使われるだろう。だが火縄銃の最大利点は農民達が直ぐに兵士となれる事だ」
「……成る程」
「何か分かったのか久秀?」
納得したように頷く久秀に長逸は問い掛ける。
「長逸殿、刀だと相手を斬る。槍は相手を突く、弓は相手に矢を放たなければなりませぬ。また、それに適した訓練をやらねばなりませぬ。しかし、火縄銃は弾と火薬を込めて相手に向けて引き金を引くだけで相手は殺傷出来るのです」
「むぅ、つまり簡単に兵が出来ると?」
「その通りです」
「まぁ火縄銃が万能かと言えばそうではない。弾を込めねばならぬし距離も短い。用は使い処だな。そこを上手く活用すれば火縄銃は化けるだろう」
「成る程……殿、この長逸、殿の推察に感服しましたぞ」
長逸は感動したように長慶にそう言う。それは兎も角、三好家にも火縄銃が導入されたのである。そして天文十六年、長慶は史実通りの戦いをしつつ次男が誕生した。
「生まれたか愛宕!!」
「さぁどうぞ。貴方の父ですよ」
長慶は愛宕から生まれたばかりの次男を抱く。
「おぅおぅ。可愛い顔だ、目や鼻は愛宕に似てるかもしれんな」
「まぁ、殿ったら」
長慶の言葉に笑う愛宕だった。
「お前は長男を支えてもらわねばな」
そう喜ぶ長慶である。後にこの次男――長義は戦に関しては不得意ではあったが内政が得意であり三好幕府を影から支える人物になる。それはさておき翌年の天文十七年、河内で細川氏綱らと対陣していたが和睦して越水城に帰城した。そして遊佐長教氏から使者が越水城に来訪した。
「ほぅ、長教殿の娘を側室にか?」
「はい、和睦の証としてです」
使者はそのように述べた。対外的に側室を迎えれば和睦したと思われるから長教は娘を長慶に差し出したのだ。
「……使者殿、一日待たれよ」
長慶は使者にそう言って愛宕のところに向かう。
「愛宕、側室に遊佐氏の娘を迎える事になるが仲良くしてくれるか?」
「はい。武家の娘に生まれたからにはそのような時が来ると分かっていますので」
「……済まない愛宕」
「その代わり、一つ御願いがあります。側室の方もちゃんと私同様に愛して下さい」
「それは勿論だ」
二人はクスクスと笑うのであった。長慶は使者に側室の件を承諾して長教から娘を側室に迎える事になる。そして長慶は名前を孫次郎範長から筑前守長慶と改名して久秀達を呼び出した。
「もうそろそろ良いと思う」
「では政長を討つので?」
長慶の言葉に長政はそう問い、長慶は頷いた。
「それと晴元も討つ」
「晴元もですか!?」
「あぁ。奴に天下統一など出来ん」
「ほぅ、殿なら出来ると?」
「あぁ。優秀なお前達がいるからな」
久秀の言葉に長慶は弟の実休や一存等を見渡す。
「それに三好の氏は元を辿れば源氏だ。三好が天下を統一して何が悪いんだ?」
「ハッハッハ。それは確かにですな」
「兄上には一本取られました」
実休達は長慶の言葉に苦笑する。
「よし、準備を怠るなよ?」
『御意』
そして長慶は動き出す。晴元に政長親子追討を願い出たが晴元は訴えを退けた。
「よし、晴元は退けたな。長教に使者を送れ。晴元に反旗を翻すとな」
十月二八日、長慶はかつての敵である細川氏綱、遊佐長教と手を結び細川晴元に反旗を翻した。
「おのれ孫次郎!! やはり裏切ったか!!」
細川晴元は怒りながらも兵を集めて長慶と戦を行った。しかし――
「放てェ!!」
「た、種子島だと!?」
三好は堺からの購入や鉄砲鍛冶を育成して生産した鉄砲五百丁を持っていた。これが側面から細川軍を奇襲したのだ。結局、江口の戦いも史実通りに長慶側が大勝して宿敵の政長を討ち取る事に成功した。
そして敗報を受け取った晴元らは摂津から逃亡して更には足利義晴、義輝父子らを連れて近江の坂本に逃れたのである。
長慶は氏綱を晴元に代わる主君として擁立しようとしたが氏綱自身はこれを固辞した。
「既に主君とした細川晴元を撃ち破っているのだからわざわざ主君を擁立する必要はあるまい」
氏綱はそう言って固辞をし逆に長慶の臣下とする事を望んだ。長慶も氏綱の意見に頷き、京一帯を守護するため山城淀城の城主とした。
「さて、これで晴元の政権は事実上崩壊した。とりあえずは朝廷に米千石、金一貫、銀二貫、麦二千石、麻四十反を献金する」
「成る程。僧侶達への対抗で朝廷に後ろ楯をしてもらうためですね」
長慶の言葉に弟の冬康は納得したように頷く。大和や摂津には興福寺や本願寺がいるので対策は必要であった。
「それと伊賀、紀伊を調略する」
「伊賀と紀伊……忍びと雑賀、根来ですな兄上」
長慶の言葉に実休はそう返す。
「伊賀と紀伊への調略の書状は既に記した。見てみろ」
長慶は実休達に書状を見せた。
「……これは……」
「宜しいのですか殿?」
「宜しいのだよ」
長逸の言葉に長慶は頷く。伊賀への書状は表向きは長慶が治めるが裏では伊賀の国人や忍び達に任せる。その代わり全ての忍びは三好の配下とし忍びの代表は長慶の直臣とする内容だった。
「よく聞け。これからの戦は情報が大事になってくる。それに敵の後方で撹乱してもらい、味方の被害を出来るだけ少なくする必要もある。それが忍びだ。忍びを軽々しくすれば手痛いしっぺ返しになるぞ」
長慶はそう長逸達に言い聞かせた。それは子ども達にもである。
なお、紀伊の雑賀と根来の書状も直臣として取り立てて鉄砲隊の指揮を預けるとしていた。
「兎に角、二国の調略は急げ」
長慶はそう急かせるのであった。そして自室に戻ると一人の女性がいた。
「待たせたかな?」
「いえ、そのような事はありませぬ」
女性は先日、長慶の側室となった遊佐長教の娘である青葉姫であった。
「膝を貸してくれ」
「はい、どうぞ」
青葉は正室の愛宕との仲は良好だった。愛宕は二人の子を生んだので青葉に三人目を譲っていた。長慶は青葉の膝に寝転がり目を瞑る。青葉から出る女の匂いは長慶の脳を擽る。
「青葉……」
「まだ昼ですよ」
「たまには良い」
そして暫くは長慶の自室からは青葉の喘ぎ声が聞こえるのであった。なお、苦労したのは家臣達である。
それは兎も角、長慶の書状は伊賀の忍びへ届けられた。
「……どう思う百地殿?」
伊賀上忍三家の一人である藤林長門守は百地丹波に問う。百地丹波は暫くは黙っていたがやがては口を開く。
「話だけは聞いてみるべきだと思う。我等上忍の二人で行き話を聞こう」
もう一人は服部氏であるが服部保長は義晴に仕えていたので此処にはいない。
「もし嘘であれば如何致すので?」
「その時は伊賀忍び全軍で長慶を討て」
若い忍びに百地丹波はそう告げ、二人は越水城で長慶と会談する事になる。
「伊賀の領地は我等に任せて下さると?」
「うむ。ただ、伊賀に尾張へ通じる街道を整備したい」
「街道を?」
「街道を整備すれば商人は行き来するだろう。伊賀にも落ちるカネが出てくるはずだ」
「成る程……(三好長慶、壮大な男かそれともただの阿呆か……)」
丹波は頷きながらも長慶をそう評価していた。
「あれなら、どちらかを直臣としどちらかを後に大名に取り立てても良い」
「し、忍びの者を大名にすると!?」
長慶の言葉に藤林の腰が思わず浮かび上がる。
「うむ。これからの戦、外交、商売には情報が大事になってくる。忍びの価値はより高いものだ。裏で活躍するのは仕方ないが俺はそこを評価している」
『(この男は其ほどまでにも忍びを評価しているのか……)』
長慶の言葉に二人は忍びの評価に感動していた。そして二人は頷き合うと長慶に頭を下げた。
「伊賀全忍びを貴殿に預けます」
「伊賀忍者の力、とくと御覧あれ」
伊賀の調略は上手くいった長慶だが紀伊は上手くいかなかった。根来衆の調略は出来たが雑賀孫一率いる雑賀衆は調略を拒否したのだ。
「ふむ……まぁ根来衆を調略出来ただけでも良しとするか」
長慶はそう呟き、久秀を呼び寄せた。
「久秀、大和を攻略してきてくれ」
「興福寺を押さえろと?」
「興福寺には朝廷から知行が出るよう工作している。それで手打ちだ」
「成る程。朝廷からの知行が出れば興福寺も納得しますな」
久秀は納得するように頷く。
「興福寺とは上手く協力して大和を平定してくれ。此方は河内平定を目指す」
「御意」
そして久秀は河内遠征に従軍しつつ長慶の命令で残党狩りを口実に大和へ入り滝山城から信貴山城を居城とするのであった。
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