前編
長慶の企画があったから思わず書いた。
後悔はしてない。
多分更新は遅い(白目
「千熊丸、急いで阿波へと戻りましょう。父は一向衆どもに……」
「分かりました。直ぐに出立の準備を致しましょう」
涙を流す母に千熊丸はそう言って自室へと向かい、襖を閉じる。
「……いや、憑依してから会った事ないからどうも出来んのだが……」
誰もいない部屋で千熊丸はそう呟く。
「目が覚めたら知らない天井で俺の名前は千熊丸……明らかに三好長慶じゃねーか」
思わずorz状態の千熊丸は気にしない。そしてこの千熊丸は憑依者のようである。
「まぁなってしまったのは仕方ない。早死にしないようにするだけだな。目標は天下統一!!」
ネガティブではなくポジティブ思考に切り換える千熊丸であった。その後千熊丸は千満丸(後の実休)、千々世(後の安宅冬康)、又四郎(後の十河一存)等らと共に阿波へと逼塞した。
しかし、時代の波は千熊丸に押し寄せる。細川晴元が千熊丸の父である三好元長を殺害するために借りた一向一揆の力は晴元でも抑えられなくなり享禄・天文の乱へと発展する。
「それで俺に御鉢が回ってくるのか……」
千熊丸は天文二年六月二十日に一向一揆と晴元の和睦を斡旋した。元長が戦死してから僅か一年ではあるが三好家は晴元と石山本願寺を和談させるくらいまでに回復していた。これは千熊丸が上手く家中を纏めた事であろう。
「父の死でくよくよしてはならん!! あの世で父に笑われるぞ!! 我等は何処の家か? 三好家であるぞ!!」
意気消沈している家臣達に千熊丸はそう発破をかけたのである。その後、千熊丸は元服をして名を孫次郎利長と名乗って伊賀守を称した。
(阿波守でも良かったけど……良からぬ奴等に色々言われそうだしな)
そう思う孫次郎だった。しかし、本願寺と分離していた一揆衆が講和に応じずになおも蜂起した。そのため長慶は兵を挙げて一揆衆と戦う事になる。
「孫次郎様、如何なる戦にしますか?」
孫次郎の傅役である篠原長政は馬上にてそう問う。
「軍は約九千だが兵を三つに分ける。一つは囮で残り二つは待ち伏せだ」
孫次郎はそう言って長政に前日に紙で書いた絵を見せた。
「ほぅ、中々の構図ですな。しかし、囮部隊の責任は重大ですな」
「うむ。だから囮部隊の将は俺がする。長政は待ち伏せ部隊を頼む」
「総大将御自らですか?」
「そうだ。そうでなければ一揆衆は食い付かん」
「……御意。ですが此処で孫次郎様が倒れては困ります」
「分かっているよ長政(ぶっちゃけ釣り野伏せなんだよねこれ)」
孫次郎はそう頷いて一揆衆との戦が始まる。
「奴等を殲滅しろ!!」
孫次郎が馬上からそう指示を出す。しかし、一揆衆の数が多すぎて対処しきれない。
「(……ここいらだな。てか数が多すぎるっての!!)全軍引け引けェ!!」
孫次郎の部隊が一目散に逃げ出す。その様を一揆衆は笑い飛ばして殲滅するべく追撃する。だがその追撃途中で突如複数の矢を受けた。
「奇襲だ!?」
「挟み撃ちだ!!」
慌てる一揆衆に長政は静かに手を降ろした。
『ウワアァァァァァァーーーッ!!』
両側から待ち伏せ部隊が一気に攻撃を仕掛ける。それを見た孫次郎らの囮部隊も反転して再度攻撃を開始する。
「掛かれェ!! 奴等を叩きのめせ!!」
奇襲され三方向から一気に攻められた一揆衆は慌てふためき逃げようとするが結局は力尽きて壊滅する。生き残りは僅か二桁だった。
「お見事です孫次郎様」
「うむ。このまま越水城を奪回する」
孫次郎の軍勢はそのまま摂津越水城の奪回に成功するのであった。そして孫次郎の評価は一揆衆を壊滅させた事に鰻登りである。
「元長殿の息子も大したものですな」
「左様。頼りになる」
人々はそう話すがそれに焦りを感じたのが細川晴元である。晴元は一揆衆をけしかけて孫次郎の父元長を自らの手を汚す事なく敗死させており孫次郎から見たら親の仇であった。
「今のうち孫次郎を始末する必要があるな……」
晴元はそう考えていた。一方の孫次郎も翌年天文三年に本願寺側に味方して八月十一日に晴元の軍勢と激突、十月には潮江庄で晴元側の三好政長と激突したが全て釣り野伏せで壊滅的打撃を与えたのであった。
「政長も負けるとは……こうなれば……」
晴元は河内守護代の木沢長政に仲介してもらい、孫次郎との間で和解が成立して孫次郎は晴元の下に帰参したのである。
「よろしいのですか若様?」
「当分の間は晴元の下で力を蓄えよう。二回の戦で三好の恐ろしさは知れただろう」
孫次郎の恐ろしさは晴元と政長は二回の戦で承知していた。しかし、和解の時に孫次郎は平身低頭していたので両者も元々は戦う気はないと理解して和解が出来たのである。その後は晴元の武将としてほぼ史実の展開をする孫次郎。(天文九年まで)
「波多野殿の娘を……ですか?」
「うむ。御主もそろそろ正室を持っても良いと思うてな」
波多野稙通の茶会に呼ばれた長慶は突然の事に目を丸くする。稙通は長慶の父元長と共に当時幕政の中心にいた細川高国を討って戦国大名に名乗りを上げたのだ。その実力を晴元にも認められ幕府の評定衆に列せられていた。
「これは晴元様も承認しておられる。悪い話ではないと思うが……」
「はぁ……」
「それに御主の父君元長殿に恩を返したいのじゃ。元長殿が加わってくれたおかげで高国を討ち取る事が出来たのだ」
「……分かりました。これは波多野殿の事を父と呼びたいと思います(まぁ嫁さん貰えるから良いか)」
「おぉ、ありがとう婿殿」
稙通はにこやかに笑い、長慶は波多野稙通の娘を正室に迎えたのである。正室の輿入れは十一月二五日に行われた。
「波多野稙通の娘、愛宕と申します」
「三好孫次郎利長です」
初めて出会う嫁に長慶は内心感動する。
(前世はオタクで彼女もいなかったけどまさか嫁が出来るとは……感無量だ)
(この人が三好孫次郎利長……)
白無垢を着る愛宕は隣にいる長慶にコッソリと視線を移す。
(優しそうな人かな?)
第一印象はそう思えた愛宕姫だった。そして祝言が終わった初夜、二人は一つの布団の前に正座していた。
「ぁ〜まぁその、なんだ。政略での祝言かもしれんが俺は君を一生懸命愛する(恥ずかしい……)」
似合わない言葉を吐いた長慶はポリポリと頭をかきながら横にそっぽ向く。その様子に愛宕はクスリと笑う。
「はい」
この人となら大丈夫。そう思う愛宕姫だった。
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