牛肉と白飯のハーモニー
村雨編
午後11時過ぎに人工肉と白飯のハーモ二ーを楽しんでいる女性がいたら、それは私のことだと思って貰って結構である。
しかもその女性が男に負けないほど筋肉があり、短髪だとしたらほぼ私だと思う。
ここで私の自己紹介をしておこう。
私は新国際連合軍に所属する戦闘機パイロットの村雨という。
私の父も戦闘機パイロットだったが数年前に戦死した。
その背中を追って母親の反対を押し切り、軍に入隊した。
母を心配させるのは胸が痛かったが、父の事が私の心に今も引っ掛かっているからである。
こんなこと言っている間に、若い店員が牛丼の大盛りを運んできた。
大好物である。
私は店員に向かって静かに会釈をした。
店員は伝票を置いて去って行った。
私の趣味は食事と格闘技だ。
この職種に就くとファッションなどは気にする必要が無くなる。
女友達も限られてくる。
よって趣味はこのような物に落ち着く。
これはよくある話だ。
私には食事をする前にTシャツ1枚になるという掟がある。
今日もその掟を守り上着を脱ぐ。
するとこちらを見た店員が驚いた表情をした。
私のこの習慣を見る人は大抵驚く。
Tシャツの間から見える筋肉は、戦闘機に乗るために相当鍛え込んだ物だ。
Gに耐えながら操縦桿を操作するために必要だからだ。
この職業は実力主義であるから、腕の無い者は切り捨てられていく。
生き残るには男に負けない実力が必要なのだ。
「いただきます。」
箸で人工肉と白飯を一気に持つ。
そしてそのままノンストップで口に運ぶ。
久しぶりの牛丼の味が口いっぱいに広がる。
普通の牛丼をこれ程美味そうに食べる奴は珍しいだろう。
その後私はかなりのスピードで牛丼を食べ終わった。
若い店員は私のその姿を見て多くのことを考えただろう。
東京の夏の夜は相変わらず暑い。
湿度が高いから簡易版のサウナの様だ。
普段は太平洋のど真ん中で生活している私にとっては、この湿気はなかなかハードだ。
今日から私は久しぶりの休暇を楽しむ。
休暇と言っても実家に帰って、母親に顔を見せる程度しかすることが無いが、この暢気な生活が一番休暇として良いのだと思う。
女友達が少ないからショッピングに行くこともない。
こんな世界によく飛び込んだ物だと今でも思う。
私は電車に乗り実家を目指す。
電車の中は殆ど人がいなかった。
まあ当然かとも思う。
時刻は日付変更線に近づいていた。
私は眠らない東京の夜景を楽しみながら、母親の顔を思い浮かべた。
母親の手料理が食べられると思うと嬉しくなり、思わずニヤついてしまった。