夏の日
長門編
今年の夏は特に暑いと汗を拭きながら思った。
今日の東京は40℃を越えるか越えないかの瀬戸際らしい。
太陽に照らされ高温になったコンクリートによって暖められた空気が体や顔にまとわりついて離れない。
周りを歩く人々からはだるさを感じることが出来る。
よりによってこんな日に私は東京に出張に来ているのである。
今回の出張の理由は、極秘に開発中の新戦力である空中戦艦についてである。
空中戦艦とは次世代の戦力のことだ。
空中で要塞化し、何層もの防御システムにより、核攻撃や空爆から基地や見方艦隊を守ることができる。
他にもその攻撃範囲から、敵艦隊や敵基地に甚大なダメージを与えることが可能である。
この戦略の幅の広さに目をつけた新国際連合軍は、独自に空中戦艦を開発することになる。
私はもっと細かい裏の事情があるのだと思うのだが、今は触れないでおく。
だが技術的な部分でどうしても不足があるため、民間企業に泣き付いたという訳である。
今回私は技術開発の協力をお願いした民間企業と会議をする為に、この東京にやってきたのである。
それにしても暑い。
民間企業のあるビルまでの距離がなかなか縮まらない。
足取りは重い。
仕方が無いので立ち止まって鞄から水筒を取り出す。
冷えた麦茶を音を立てて一気に飲む。
これが美味い。
生き返るという表現はあながち間違ってはいないと勝手に思う。
私は水筒を鞄にしまい再び歩き出すのだった。
やっと会議が終わった。
結局3時間も使ってしまった。
もっと早く会議を終わらせる予定だったのだが、細かい話をしていたら時間を食ってしまった。
特に相手の副社長が無駄な話をベラベラとするからである。
世間話が好き過ぎる副社長と無口な社長。
この謎のコラボレーションに3時間も耐えた私を褒めて欲しい。
これで私の仕事は終了である。
あとは明日の朝の飛行機に乗って基地に戻るだけである。
これで真夏の東京からもさよならだ。
ゆっくりホテルにでも向かって行こうかなと思っていたら、電話が鳴った。
上司からである。
「もしもし、長門です。」
「今お前は東京か?」
「はい。そうですが?」
「丁度いい俺も東京に居るんだ。飲みに行くぞ。」
まさかの飲みへの誘いだった。
冷えたビールを想像するだけで唾が出てくる。
「同行致します。」
私の上司は三笠という名前だ。
今年から三佐に昇格したばかりで、とにかく酒好きである。
私が慕う数少ない上司であり、誰からでも好かれる人であった。
酒を飲みに行くのに抵抗はない。
むしろ三笠三佐と行くと酒が美味くなるレベルである。
この1本の電話で私の気持ちはすぐに晴れてしまうのだから、私は自分自身のことを軽い奴だなと思う。
人生重くなり過ぎたら損であるという三笠三佐の言葉を思い出す。
今夜は楽しくなりそうだ。
そう思いながら私はビルから出て、日が暮れても少しも涼しくならない東京を歩いて行くのであった。