主砲発射
長門編
「大陸間弾道ミサイル迎撃まで残り30秒。」
「了解。航巡は?」
「敵航空巡洋艦、主砲射程距離内まで残り5000!!」
「了解。主砲発射用意!!」
船体は大きく傾き、敵を迎え撃つ準備を着々と進めている。
握る舵は手汗でじっとりと湿っており、時々拭く必要がある。
「舵戻せ!!」
「もどーせー!!」
霧島三佐の声を聞いて舵を戻す。
傾いていた船体が戻るのを体で感じる。
「主砲発射用意完了!!」
「了解。続いて熱線壁展開用意!!」
熱線壁とは空中戦艦に搭載されている大型防御システムの事である。
戦艦の周りに展開し、敵のミサイル兵器を熱で迎撃するのだ。
この兵器が能力を発揮すれば、兵器産業は大きく路線を変える必要があるかも知れない。
「ABM、弾道ミサイルに命中!!」
「迎撃を確認しました!!」
艦橋内が少しざわつく。
私も、舵を握る手から少し力が抜けた。
「さわぐなぁっ!!まだ終わってない!!」
再び艦橋に緊張が走る。
流石は霧島三佐だ。
「敵航空巡洋艦、主砲射程距離内に入りました。」
「了解。主砲標準合わせろ。面舵90!!」
「おもーかーじ!!」
腹から全力で叫ぶ。
そして重みのある舵を回す。
体が遠心力で、外側に引かれる。
「熱線壁展開準備完了。」
「システム異常無し。」
「標準合わせ良し。誤差修正範囲以内です。」
「了解。」
戦艦は既に臨戦体勢だ。
後は青葉二尉が引金を引くだけで攻撃が出来る。
艦橋の緊張がピークに達する瞬間、怒鳴り声が響いた。
「敵艦の砲撃を確認!!本艦に30秒後着弾。」
「弾頭は電磁気力ではありません。実弾です。」
「良し。熱線壁展開!!敵砲撃を迎撃後、反撃に出る。」
戦艦の前の空気が、熱で歪むのが分かった。
熱線壁は戦艦の周りを囲んだ。
流石は新国際連合軍の新型兵器だ。
これにより、長い実弾の歴史が終わる。
「軌道変わらず、実弾着弾まで残り15秒。」
カウントダウンが始まった。
「10、9、8、7」
「総員衝撃に備えよ!!」
「6、5、4、3、2、1、ぜろー!!」
戦艦の真横で大きな爆発が起こる。
爆発の影響で艦が揺れる。
「被害報告!!」
すぐさま霧島三佐が叫ぶ。
「左舷船体横の熱線壁にて、敵巡洋艦の砲撃が消滅。迎撃成功です。」
「船体へのダメージは?」
「船体に被害無し。無傷です。」
再び艦橋がざわめく。
熱線壁が実弾を、見事に迎撃した瞬間だった。
「反撃に出る。熱線壁解除。」
熱線壁の欠点は、自身が攻撃する時には解除する必要があるという事だ。
「熱線壁解除まで残り5秒。」
「主砲誤差修正完了。」
「熱線壁解除完了。いつでも行けます。」
「良し。目標、敵航空巡洋艦、主砲一番二番、撃てっ!!」
「撃ち方始め!!」
主砲が火を噴いた。
実際には火ではなく、電磁気力の力で撃ち出している。
舵を握っていると、正面にある主砲の様子がよく分かる。
冷却水が蒸発して、水蒸気を発生させている。
白い雲の様だ。
「主砲発射完了。着弾まで27秒。」
誰もがモニターを凝視する。
その為、艦橋内は静寂に包まれた。
夜真瀬が放った砲撃は、直線を描きながら飛ぶ。
そして、沈黙の27秒が幕を閉じた。
「敵艦に命中。損傷を確認。敵艦小破!!」
流石だ。
これが新国際連合軍の力だ。
「良し。敵の動向に注意。次弾装填。」
「了解。」
再び艦橋の時間が動き出す。
私も舵を握り直す。
「敵艦ミサイルの発射を確認!!3隻同時攻撃です!!30秒後、対艦ミサイル飛来!!」
ついに相手も本気を出して来た。
数で勝負に出た様だ。
「エンジン出力最大!!全速前進!!」
「了解!!」
「敵艦の一斉射撃です!!」
「総員回避行動に備えよ!!取り舵一杯!!」
「とーりかーじ!!」
舵を勢い良く回す。
艦は空中を横滑りしながら回頭する。
この遠心力は、何度経験しても慣れられない。
「熱線壁展開!!」
再び無敵時間の始まりだ。
敵の攻撃は先程と同じく、船体に当たる前に消滅した。
残念ながら、一斉射撃は呆気なく散った。
圧倒的な戦力を前に、敵は成す術が無いと思われる。
その時だった。
敵に動きがあった。
「敵艦回頭。3隻全て、現空域を離脱していきます。」
「何?」
「艦長、追撃しますか?」
「いや、深追いはしない。数でも劣る。ここは一時帰還する。」
「了解。」
「収容した戦闘機部隊から報告を聞き、敵の情報をまとめる。」
「了解。」
ここで本部から指令が入る。
タイミングが完璧で不気味だ。
「夜真瀬乗組員に告ぐ。報告を聞きたい。新国際連合軍本部へ向かえ。以上。」
「了解。」
ようやく肩の力が抜けた。
手の汗を拭き取る。
実戦とは恐ろしいものだ。
日が高く上る空に向けて、そう思う私であった。