戦闘配置
霧島編
セットしてあった時計のアラームが鳴り響く。
今も昔も、この原始的な起床方法はちっとも変わっていない。
私はベッドから体を起こし、机の上に置いてある赤縁の眼鏡を掛けた。
本日も視界良好。
軽く伸びをしてから洗面台に向かった。
昨日の待機命令が下ってから既に丸一日が経過していた。
何も起こっていないというのが不気味である。
新国際連合軍の噂話によると、敵対するテロリスト組織はある国家と手を組んでいるらしい。
その国家は長い間、独裁政治を行っていた。
近年、民主主義国に生まれ変わったと言われているが、その裏ではテロ組織との密接な関係が報告されている。
そしてつい先日の事である。
テロ組織と組んだ国は、大規模な軍事展開を行ったのである。
我々の最も大切な仕事は、世界秩序の維持である。
相手がその気になれば、先制攻撃を仕掛ける事も可能であり、夜真瀬はその為の出動だったと言える。
それにしてもネットワークの情報は広まるのが早い。
軍が動き出したことについての様々な憶測が飛び交い、第四次世界大戦を危惧する様な内容も発信されている。
今日の電子新聞でも一面を飾っており、それぞれの新聞社が大々的に報じている。
ここまで事が大きくなると、軍としても動きが鈍くなりそうだ。
情報というのは現在の戦争の軍配を分ける大きな要因であり、情報戦を制さない者に勝利はない。
新国際連合軍は各国にスパイを送り込んでいて、その国内情勢などの情報を常に得ているらしい。
つまり相手国が少しでも怪しい動きをすれば、行動を起こされる前に武力制圧も仕方が無いと考えているのだ。
私は電子新聞を読んで、そんな考えを巡らせながら、ずり落ちて来た眼鏡を押し上げた。
私達が考えている以上に事は深刻である。
人間という生き物の多くは、いざその場面に直面してみないと、どんな状況になっているかを把握できない。
経験が大切というのはその為である。
おそらく私を含めたこの艦の乗組員で、この状況を理解している者は殆ど居ないだろう。
戦争とは偶発した一発の弾からも起こりうるものだ。
少しでも気を許せば、何処かで大量の血が流れる事に繋がる。
私は急ぎ足で艦橋に向かった。
艦橋でシステムの点検を行っていた時の事だった。
非常ベルが鳴り、艦内アナウンスが流れた。
私の嫌な予感というのが的中してしまった。
「東シナ海上空に未確認ロケットが打ち上げられたことを確認。大陸間弾道ミサイルであると考えられる。至急待機中の戦艦は迎撃に向かえ。」
本部からの伝達だった。
警戒状況から一転、緊急事態と言える。
「総員第一種戦闘配置!!繰り返す、総員第一種戦闘配置!!」
艦内の空気が一気に変わるのが分かる。
緊張が艦橋を包む。
何人かの乗組員が艦橋に飛び込むようにやって来た。
そのまま滑り込むように座席に座る。
私は叫んでいた。
「ミサイルの正確な座標を計算。迎撃ミサイルの発射準備急いで!!」
「了解!!火気管制システム始動。」
「弾道ミサイル、位置特定開始。」
ここで少し間が空く。
「弾道ミサイル、位置特定。モニターに座標出します。」
モニターは赤い点滅でミサイルの位置を表していた。
夜真瀬は宝くじの一等を当てたかの様に、ミサイルを迎撃できるドンピシャの位置に居た。
「これより本艦は大陸間弾道ミサイルの迎撃を行う。至急ASOシステムを稼動させ、ミサイルの目標到達地点と目標到達時刻を計算せよ。」
私はその言葉を残し、CIC室へと急いだ。