発端
長門編
男だと思っていたが、それは大きな間違いであった。
私達は南極基地を出発した後、無事に東シナ海上空に到着した。
だがテロ組織は先にこちらの動きを察知したらしく、軍の出動は空振りに終わった。
戦艦は上空待機の指示を受け、高度12000mに留まっている。
そして本部からの援護部隊が到着したのが、つい1時間前の出来事である。
彼らは最新鋭の戦闘機であるF-67Aでやって来た。
F-67とは新国際連合軍が開発した多用途戦闘機のことで、高いステルス性と機動性を持ち合わせている。
我々の世界では「Killer Whale」日本語で鯱と呼ばれており、最前線で活躍している。
その中でも今回やって来た部隊は世界最強と謳われる4人組で、数々の修羅場を乗り越えて来たエースという訳だ。
私はが知っているのはその程度の情報だけで、詳しいことは周りの話を聞いて判断するしかない。
部隊が到着した直後の格納庫は、業界の有名人を一目見ようとする人で大騒ぎになった。
私も青葉二尉に連れられて4人を見に行くことになった。
4人のうち2人が日本人で残り2人は日本人ではないということだけ、見た目で判断できた。
ここで私は、エース部隊は全員男だと思い込んでいた。
そして先程の事である。
お祭り騒ぎが終わり、ようやく艦内が静かになった頃、私は霧島三佐に連れられて部隊に挨拶をしに行くことになった。
私はこの様な社交辞令の様な物の経験が少なかったので、かなり緊張していた。
4人が待つという部屋に到着し、霧島三佐がノックをする。
中に入ると、対Gスーツから着替えたエース4人が居た。
ここで私は驚いた。
体格の良い男が3人と、女が1人居たからである。
おそらく隊長である日本人の男、その横に居たのが日本人の女だった。
かなり短く切られた髪と私の先入観のせいで男だと思っていた女は、村雨という名前だった。
霧島三佐も私の中ではかなりインパクトの強い人である。
しかしそれ以上の気迫の様な物が彼女にはあった。
そのインパクトと驚きのせいで、霧島三佐と隊長のやり取りは殆ど記憶に無い。
気付けば挨拶は終わっており、部屋を出ていた。
そして今、廊下で偶然彼女に出会ってしまったのである。
「先程の挨拶に来られた方ですか?」
先制攻撃を仕掛けられて私は戸惑った。
「はい。この艦の操舵手を務める長門二尉と言います。」
私は殆ど反射的に答えていた。
男だと思っていた印象が、予想より遥かに脳に残っていた。
その為、頭の考えるスペースが少ない。
これでは反射的な言葉しか出て来ない。
「私は村雨二尉と申します。よろしくお願いします。」
よく通る声でそう言われた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
よく見てみると、かなり鍛えられているのが服の上からでも分かる。
年齢もかなり若く、おそらく私と大差無いだろう。
髪は耳の上で切られており、清潔感がある。
ここまでは普通のボーイッシュな女性だが、漂うエースの貫禄が一般人とは異なっていた。
そこから先はちょっとした連絡事項の話だった。
トイレや食堂など艦内の場所の説明が殆どで、あまり深い話はしなかった。
案内を終えると、軽くお礼をして何処かへ行ってしまった。
私は元々、会話が得意な人種ではない。
その為、会話が終わった後、ようやく脳が動き出した。
私と彼女の出会いは、この様な何の変哲もないものであった。