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戦空の翼  作者: 芝生侍
第一章 時代の背景
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握る舵は鉄の味

長門編

「起動用エンジン始動。」

「起動用エンジン始動、了解。」


 独特な響きを持つ命令が艦橋に広がる。

直後に船体が振動を始める。

エンジンが起動したようだ。

夜真瀬(やませ)は補助エンジンを土台にして、メインの電力飛行エンジンを点火させる仕組みになっている。


「補助エンジンの始動確認。機関良好。」

「現在、電力充電中。始動電力まで残り50%。」

「了解。」

「メインモニター接続。」

「了解。」


 目の前の灰黒色だったモニターに色彩が宿る。

モニターはドッグの内部を映し出す。

程無くして機関長が叫ぶ。


「始動用電力充電完了。」

「メインエンジン点火準備完了。いつでも行けます。」


 ここで霧島三佐が腕を組んで、モニターを睨みながら言う。


「了解。電力飛行エンジン点火。」


 機関長が復唱する。


「電力飛行エンジン点火。」


 先程までの微振動が止むのと同時に、電車が発進するような高い機械音が聞こえる。

この状態になるとメインエンジンが点火したという合図である。

ここまでは訓練と同様だ。


「電力飛行エンジン点火を確認。機関正常に運転。」

「発進要素入力完了。」

「ASOシステム正常に作動。」

「稼働率30%で安定。」


 船の脳は私の操舵の補助をする。

頼もしいバックアップであることは間違いない。


夜真瀬やませ各部署問題無し。」


 砲雷長が攻撃システムの確認報告をする。

青葉二尉は砲術長なので、砲雷長の部下である。

青葉二尉とは訓練生の時からの同期で、私の気が置ける数少ない友人である。

彼は棘が少なく、人との接し方をよく分かっている。

なんとも羨ましい限りだ。

彼の仲介が無ければ、私はここには居ないだろう。

彼の方をチラっと見る。

先程と変わらず、操作モニターとにらめっこを続けていた。

私は目の前の舵に向き直る。


「アンカー解除。固定具解除。」


 戦艦の周りを取り囲んでいた固定具が移動する。

それに合わせて戦艦が宙に浮く。

電力飛行エンジンが、正常に作動している何よりの証拠だ。

 

「最終安定装置解除。」

夜真瀬やませ発艦準備完了。」


 ここでワンテンポ、誰も何も言わなくなる。

次の指示を艦内全員が待つ為である。

私は出力操作レバーを握り直す。

いよいよ出陣だ。


「空中戦艦、夜真瀬やませ発進。」


 霧島三佐が切れよく言う。

その言葉を待っていた。

私は力を込めて出力レバーを一段階上げる。

レバーはゆっくりと滑らかに、微速へと切り替わる。


「微速前進。」


 同時に船体が動き出すのが分かる。

モニターでは、ドッグの門がゆっくりと開いていく様子が見える。

船体は少しずつ加速し、ドッグの門を通過する。

そして雪と氷の世界へと踏み出した。


「エンジン出力最大。全速前進。」

「全速前進、了解。」


 出力レバーを一気に全速へと切り替える。

体が引かれる感覚がある。

それと同時に高度が上がり、加速する。

夜真瀬やませは南極の灰色の雲へ向かって上昇していく。


「目標、東シナ海上空。総員第二種警戒態勢を維持。」

「了解。」


 船は進む。

南極の空はすぐそこまで迫っていた。

私は舵をもう一度強く握り締めた。

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