序章
カツン
カツン
カツン
人の気配のない暗い通路を一人の男が歩いている。
男はひどく憔悴している様子だが足取りはしっかりとしている。
「晴子、千絵、みんな、、、必ず助け出すからな!」
この奇妙な場所で大切な人達を見つけ出す為、男は憔悴しきった身体に鞭を打ち気持ちを奮い立たせている。
そんな男が通路を進んでいると重厚な扉が男の前に立ちふさがった。
分厚い鉄板のようなその扉を前に男は立ち止まり、周囲を見回し扉の取っ手に手をかける。
重厚な扉は重い音を立てながらゆっくりと扉は開かれた。
そして・・・
その先には・・・
最悪の結末が待っていた。。。
「はるこ・・・」
その部屋は明るい部屋だった。
床には赤の絨毯が敷かれ、その中央には縦長のテーブルが置かれていた。
そして晴子と呼ばれた少女は、中央のテーブルに上半身だけの状態で飾られていた。
彼女の身体は胸を縦に切り裂かれ、肉、皮、骨以外何も残されていなかった。
そう、内臓の類が一切ないのである。
そんな彼女は何かに固定されているのか、下半身のない彼女の身体がまるで立っているかのようにテーブルに置かれているのだ。
男は絶望の表情でふらふらと少女に歩み寄っていく。
そして、男は彼女に近づいて初めて気づく。
テーブルには彼女の上半身だけではなかった。
テーブルの前には数枚のプレートと皿が置いてあるのだ。
一番前に置かれているプレートにはこう書かれていた。
『本日のコース 夏野 晴子』
そう書かれたプレートの左側には一枚の皿と一枚のプレートが置かれている。
『前菜 夏野 晴子 舌の塩焼き』
男は周囲を見回す、プレートと皿は一つではないのだ。
『サラダ 夏野 晴子の指先 オリーブオイルとヨーグルトを添えて』
『スープ 夏野 晴子の血液 搾りたて100%』
『肉料理 夏野 晴子 ふくらはぎのソテー』
『肉料理 夏野 晴子 尻肉のロースト』
『肉料理 夏野 晴子 腸の網焼き』
『デザート 夏野 晴子 眼球のゼリー』
「うっ うえぇぇぇぇぇぇ」
この場所に来てから彼一度も食事をしていない。
胃の中は空っぽ、口からは胃液しか出てこない。
逆流した胃液が喉を焼く、この不快感をなんとかしたいがこの気持ち悪さと不快感が収まる気配はなく、彼は胃液を吐き続ける。
吐き続ける事数分、ただでさえ空っぽの胃の中に残っていた胃液もすべて吐き出し呼吸が落ち着いた頃、彼は顔を上げ再度亡き幼馴染を見る。
夏野晴子は物言わぬ状態でやはり飾られている。
血の気がないが顔の周りには血液が付着していない。
まるで眠っているかのような顔でそこに在る。
だが皿の上には眼球と舌があったのだ。
それは春香の眼球は抜き取られ、舌は切断されたということだろう。
それを確認する気はない、これ以上彼女を傷つけるような事はしたくない。
「はるこ…すまない…許してくれ…」
俺は彼女の前で膝をつき頭を垂れ、泣きながら彼女に謝り続ける。
いつまでそうしていただろうか、彼は顔を上げる。
泣き腫らした顔はひどいもので目元が真っ赤に腫れ上がっている。
彼はゆっくりと立ち上がり前を向く。
「はるこ、お前をこのままには絶対にしない」
「必ず連れて帰るから、少し待っていてくれ」
そう言って彼は周囲に目を向ける。
部屋全体は煌びやかな作りになっているが一つ違和感がある物がそこには存在していた。
子供が描かれた扉だ。
両手にナイフとフォークを持ち×印に重ねた笑顔の子供の絵だ。
子供が遊ぶようなテーマパークならアリかもしれないが、今この場所にはとても不釣り合いな扉だ。
一歩ずつその扉に近づいてゆき、扉の前に立った。
扉の上にはまたプレートが張り付けてあり、そこにはこう書かれている。
『単品料理のフードコート』
そこにはさらなる地獄と絶望が待っていた。