3話
今回はイシス視点でいきます。
少し短いですが楽しんでいってください。
彼女はこの魔王城の魔王と孝作が激しい戦いを繰り広げた大広間で魔王の召喚を試みていた。
基本的に魔王は魔族の中で最も強い者がなるもので召喚するものではない。
これが勇者と魔王の大きな違いとも言える。
そしてこのように考えられているので、勿論これ専用の召喚魔術も存在しない。
すべてがあいまいなものであり、不完全なものである。
普通ならこの召喚魔術が成功することはまず無い。
魔法は理論と術者の技術が複雑に組み合わさって初めて成功するものであり、思いつきだけでは成功しないのだ。
しかし彼女は成功を確信していた。
そう、あれを見てしまって成功を確信してしまったのである。
仲間である者にズタズタにされる孝作の姿。
最後の憤怒一色に染まった孝作の顔。
肉塊になっても未だにかもし出す憤怒と憎悪。
彼女の頭の中で全ての歯車が組み合わさった。
面白いことができる、自分が皆殺しにするのは簡単だ。
しかしもっと面白いことがあるではないか。
勇者であったはずの奴を魔王にし、その復讐劇を見るのはなんて最高なんだ。
こんなにも素晴らしい喜劇は今まで見たことも聞いたこともない。
そして私の人生にとって必ずや素晴らしい時間になるだろう。
このつまらない灰色の人生に。
そのことを考えるだけで心が躍り、自然と頬が吊上がって笑顔をつくっていた。
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やっと準備が整った。
あれから10年の月日がたってしまったが問題は無いだろう。
むしろ復讐する相手が順調に出世し叩き壊しがいがある今の方がいいかもしれない。
それにしても、10年という月日が経ったのに未だに憤怒と憎悪をかもしだす肉塊に期待せずにはいられない。
イシスは巨大な魔法陣の中心に孝作の肉塊を置きまわりにたくさんの生け贄を置いて行った。
始祖鳥,幻獣,マンドゴラなど伝説に近い希少なモンスターやドラゴン,鬼などの凶暴過ぎる災害と同等の生物まであらゆる生物が生け贄として捧げられた。
全ての準備が完了し、長い長い詠唱を唱え固唾を呑んで見守っていると、ゆっくりとであるが着実に魔法陣が輝き始めた。
「おおっ」
孝作と前魔王であるザンダクルスの死闘により朽ち果てた魔王城居間がどす黒い煙に包まれ始めた。
また、同時に普通の一般人なら即死を免れないほど穢れた魔力が辺りを包んだ。
「素晴らしい!この魔力!
魔力というよりまさに瘴気!」
この穢れた空間で奇奇怪怪と踊る一人の魔族の女は純粋無垢な少女のような笑顔を振りまいていた。
そしてその異様な光景に終止符が打たれようとしていた。
魔法陣から発生し、部屋全体を覆っていた煙と魔力がどんどん凝縮していく。
どんどん凝縮して凝縮して凝縮して凝縮して…。
どれぐらい時間が経ったのであろうか。
1分だったかもしれないし1時間かも1日かもしれない。
全ての煙と魔力が肉塊の一点に凝縮したとき、時がまるで止まったかのように辺りの音が無くなった。
いや音も一緒に吸収されたかのような静寂が訪れた。
彼女は見入っていた。
これほど美しいものがあるだろうか、これほど純粋な悪はあるのだろうか。
発狂しそうな気持ちを押し殺し、冷静なふりをして魔王となる者ができあがるのを待った。
私は今からこんなにすばらしいお方の下僕になれるのだ。
こんな楽しいことはあるのだろうか。
これからのことを考えるだけで空をも飛べてしまいそうだ。
顔では澄ましているが、肩がルンルンと揺れているイシスであった。
読んでいただいてありがとうございました。