第六章
「で―――――。いつまで僕らは、ここでじっとしていなきゃならないのかな?」
僕は休校舎一階にある教室の机に腰掛けて一息ついてそう言った。もう、彼此――十分程度このような態勢である。
しかし、こうしていても、ただ今僕らは戦闘中。教室は安全だが廊下は弾の嵐である。つまり、この教室から出られないのだ。
そんな状況にもお構い無くに―――――。
「さあね。私に聞かれても」
まるで興味の無いような仕草を見せながら、深雪は言った。
「他人事だね」
「うん?結構この身に思っているわ」といいつつも欠伸でもしてやる気の欠片がまったく見られない様子の深雪。
「はあ――――てか深雪は、あのクソ校長のことを良く言うけど何がいいのか僕にはさっぱりだよ」僕はの際なので、いくつか深雪に質問でもしてみることにした。
「えっ?何?そんなの決まってるじゃない。あのダメ具合が好きなのよ」と平然と言う深雪。
「―――――」
何がいいのか僕みたいな理解人には全く解らないのだが。まあ、解りたくもないのだけど。
「たくっ、何が楽しくてこんな変なイベントを開催しているだか。僕にはさっぱりだ」
僕ははき捨てるような口調で、そう言った。
「でも白沢、そんなイベントだから楽しめる人間もいるのよ。学校行事で人の殺し合い出来るなんて、そうそう無いよ」と楽しそうに深雪。
「はあ――――。これで本当に死人が出たら世間的にやばいぞ」
「まあ、そこら辺はミー君がどうにかしてくれるって」
「――――――」
僕的には、どうにもしてくれない気がするのだがな…………。
「はあ、確かに参加者も、また可笑しな奴らだし――――」
何で、またマシンガンを廊下で撃ちまくっている学生がいるか?普通いない。
こんな学園イベントなんて冗談半分で参加している奴らはまだいい。開催前に突っ掛かってきた、さっきの男二人組とかならまだいい。問題はこのように本気になってゲームを楽しんでいる奴ら。つまり本気で彼らは殺しを望んでいるのだ。校長はこんな奴らを求めているのだろう。このように人が人を殺すという動作を楽しんでいるのだ。
まったく――――どっちも、どっちだ。
殺しを楽しむ奴らと、殺させて楽しむ奴。まったく下らない。
こんな奴がいたから、このイベントが成り立ってしまったのだ。
はあ―――っとため息をついて、僕は机から腰をおろした。
「さてと、だからこそ、誰も死者を出さないで僕らが優勝しなきゃならないんだよな」
僕はそう誰にも聞こえない程度の声で呟いた。
「ん?なんか言った?」
と深雪が聞いてくる。
「何も」と僕は素っ気ないように返す。
「あれ?白沢どっか行くの?」
すると、教室から出ようとしている僕に再び深雪が話掛けてくる。
「うん、ちょっと害虫駆除でもしてくる」
「ふーん。弾に当たんないようにね」特に気を使っているような気もないが心配の声を掛けてくる深雪。一応、彼女なりに心配してくれているのだろう。
まあ、定かではないが。
「なら、ちょっと行ってくる」
「ほいほい」
深雪の間の抜けた声を聞いた後、僕は教室から廊下に飛び出した。
飛び出して尚も銃撃の雨は止んでいない。
いったい、どのくらいの弾があるのだろうか?
ずっと俺のターンのつもりか?
僕は首を傾げながら弾の軌道を見て捌く。
確かに量は数的に多い。
しかし、まばらに廊下全体に打ち込まれているために避けようと思えば避けれる。
おそらく、これは威嚇射撃にすぎない。
このように廊下全体に撃てば弾を捌いて、突き進もうとする輩はいないと判断したのだろう。
そして、僕らが教室内に待機している時に、もう一人が別ルートで教室まで近づいて僕らを戦滅する。
手に取るように解る戦略だ。
だが甘い。
僕は、こんな弾の雨なんか恐れはしない。
命なんか別に何とも思ってもいない。
ここで死んだとしても何も思わない。そもそも、死んでしまったら何も思えないわけだし――――。
それに、この程度の段幕なら見て避けることが可能である。どこぞのシュ―ティングゲームのエキストラモードの方が百倍難しい。
後は近づいて接近戦に持ち込んで勝てばいいのだ。楽勝である。
まあ、楽勝かどうかは定かではないわけだが。
あと、問題があるとすれば―――――あっ、そうだった。
僕の予想がただしかったら教室に向かっている敵が後一人いるはずなのだ。
そんでもって、教室には深雪がいて――――――――。
「―――――」
まあ、どうにかなるだろう。
「おっと!危ない、危ない」
今は、他人の心配している場合ではないな。
深雪なら、どうにかするだろう。てか、僕の知ったことじゃない。心配なんかしてやらん。そもそもアイツの所為で、こんな事になっているだ。少しは責任を持つべきだと僕は思う。優勝したいなら、自分の手で一人くらい倒してもらわないと割に合わない。
さてと、廊下も後少しで、終わりになるな。
僕は避けつつ走りながら、廊下を百メートル程度駆け抜けていた。
廊下全体に撃たれていた弾も、いつのまにか僕をターゲットに撃たれているようになっていた。
つまり向こうから、こちらを確認できる位置まで来たということだ。
「さてと、そろそろ対面の時間かな」
僕は独り言を笑みを作って呟いた。
「ふう、やっとこれでゴールかな」
僕は校舎の最端であるところまで着いたところでマシンガンによる発砲は止められた。
止めたんではなく、単に弾切れで止まったのかもしれない。
まあ、この際はどっちでもいい。避ける動作をする手間が省ける。
「やあ、初めましてかな。ずいぶんと派手に歓迎してくれた見たいだけど」
僕は重そうなマシンガンを抱えて持っている人物へ声を掛けた。
その人物はとんでもないようなものを見るような目で僕を見ていた。
どうやら、かなり動揺しているらしい。
うん―――わざわざ格好をつけて、弾を避けてみたかいがあったよ。命張ってみたかいがある。相手のこの驚きの表情が見たかった。――――なんか嫌な奴みたいだな、僕は――――。
まあ、しかし――――――。
逆に僕もやられたよ。予想外の顔をしてしまったよ。僕も少々驚きを顔に見せてしまった。
何故なら、この人物は女性であったから。それに加えて、僕には彼女が身に覚えがあったからだ。
「えっと――――確か永倉さんだよね。下の名前は――――ごめん忘れちゃったけど」と僕は彼女を見ていった。
彼女は少しばかり体を震わせながら顔だけを動かして相づちを打ってくれた。
どうやら永倉さんで合っているようだ。
よかった、よかった。違っていたら恥ずかしい。
僕は内心で身を落ち着かせた。
ちなみに僕が何故彼女の名を知っているのか。
それは簡単な理由。彼女は三年の女子で、この学校の生徒会副会長であるからだ。
故に僕は彼女の名前と顔を知っている。生徒集会などで、よく顔も見ている。
まあ、面と向かって話すのはこれが初めてである。よって、彼女からしてみれば僕の存在なんか知れたものではないだろうが。
「意外ですね。なんで貴女みたいな人がこんなくだらない遊びに参加しているんですか」と僕。
永倉副会長は、困った顔を一瞬浮かべたが、ふっと笑みを見せて口を開いた。
「何でと思います?白沢朝奈くん」
永倉副会長は微笑して言った。対して、こちらはまたも驚いてしまった。
「何で僕の名前を?」僕は不思議に思ったので、尋ねる。
それに対して、返答は
「副会長ですから」と解りそうで、解りずらい返事が返ってくる。
「まあ、僕の名前を知っていようがいまいが、別に大した問題ではありません。で、貴女の参加目的はなんですか?僕のような煩悩では全く解りかねませんので」
何で生徒会の彼女がこの馬鹿げたものに参加しているのか?理解がしがたい。
「自分の力を低く考えのようですね」と返す永倉さん。
「低いですから―――自身を持つことなんてしませんよ」
僕はそう答えると――――。
くすっ。っと笑い笑みを見せる永倉さん。
何だか、よく解らない人だ。やりにくい。
「まあ、私の参加理由なんてものは既に貴方の賢い頭を使えば解っているのではありませんか?」
「僕はエスパーでも何でもないので正解を当てきることなんかできませんよ。考えはできるけど、その考えが当たっているかどうかなんて解らない。考えるのは誰にだってできるでしょう?それに僕は煩悩ですから」
それを聞くなりに永倉さんは笑みを見せてニコッと笑う。
うわああ………なんだこの人?まじで相手にしにくい。
「なら私が答えましょうか」
自分の胸に手を添いて軽く会釈をして話をし始める永倉さん。まるで、どっかのお姫さまのような仕草である。深雪にも見習ってほしいものだ。そこで少し深雪がお淑やかで優しく、可憐であったらと考えてみよう。
―――――――。
ぐっ!ぐうぅ!ぐうれいとおおお!
うん、うん。最初は見慣れないかもしれないけど、これはこれで好いかも。
――――。まあ、妄想はこれくらいにして永倉さんの話を聞こうではないか。
僕は我に返り、耳を傾けることにした。
「私の参加の目的って言うものは、別に特別な意味合いなどないのですよ。校長先生さんが仰った通りです。気晴らしです、気晴らし。生徒会と言うのは少々肩に重荷がかかるのでたまには発散しようかと思っただけですよ」
笑顔である。永倉さんは笑顔でそう言った。
「そうですか――――」と僕。
「はい」笑顔の永倉さんが答える。
「もう、発散できましたか?」
「はい」永倉さんは尚も笑顔で頷く。
「でしょうね」
「――――」
「誰のだか知りませんけど、血を浴びすぎですよ」
「――――」
僕がそう言うと彼女の笑顔は亡くなっていた。とても荒い表情になる。
――――――。
どうやら―――既に遅かったらしい。僕が誰も死人を出させないように終わらせるつもりだったのに。
彼女は初めから、人を殺すつもりで参加していた。
「後ろに隠している生首は誰のですか」
僕は変わらない口調を維持したまま問う。
「―――――」
眉をぴくっと動かすだけで特に動きを見せない永倉さん。
「ああ、また問題ですか?なら当ててみましょうか?それは生徒会会長さんの首じゃないんですか」と僕は言う。
「―――――」
再び眉が動く。
しばらくは沈黙であった。沈黙。そして――――。
ふっ。と口元が緩む。
「明答ですね。正解ですよ。すばらしい」
笑みを作って、隠していた首を体の前に持ってきて、こちらへと見せた。
ここからではよく判断できないが、男の顔で首綺麗に切り取られている。傷口からは血はあまり流れていない。凝血している。死後およそ二時間程度はたっている。
つまり、ゲーム開始から間もない。
「最初から殺すつもりでしたね」
「ふふっ、煩悩なのにすごいですね」
永倉さんは不気味に口元だけの笑み。
「感ですよ。感が繋がれば真実に辿り着けるんですよ」
僕はどこかの探偵のような台詞をはいた。
「どこの探偵の真似ですか?」と普通につっこまれてしまった。
「この人は私の処女を奪った人なんですよ」
「―――――」
永倉さんはとんでもないことを口にして話始めた。
「私が副会長になった週でしたかね?この会長と書記の二人にやられちゃったの――――」
「―――――」
「それから一年近く、強姦の毎日よ。二人だけだったのが、いつのまにか生徒会男子全員。他にも女子の生徒会員はいたけど、あの娘たちは私を見てみぬふり。最初は明るく振る舞おうと思って、明るくしたわ。明るく、明るく――――。でも人は限界はくるものね。いつしか、私は壊れていた。あの人たちを殺そう、殺そうと計画して。―――――でも実行に移せなかった。だから、このゲームは好い機会と思ったの。ほら、私を犯した人たちを今度は私が犯した、侵した、冒した、殺した」
笑いながら、僕に見えるように死体を見せる。
死体の数は四つ。
「――――」僕は何も言わない。
「ふふっ、急に何も言わなくなるのね。まあ、いいわ。ごめんなさいね。知ったからには生かしてられないの」
くすっ。と笑いこちらに拳銃を向ける。
そして笑顔のまま。
「ばいばい」
そう言って永倉さんは引き金を引いた。
ばんっ!
「――――」
目の前、十メートル付近で弾は僕を目がけて発砲された。
普通ならば確実に当たる距離である。
しかし、どうやら今日は調子がいいようである。弾の軌道を完璧に見切って弾を避けることに成功。
倉原さんは驚きの表情を見せる。
しかし、一番驚いたのは意外に自分自身かもしれない。何故ならもともとの自分の身体能力は高い方ではあったが銃の軌道を見切れたり、避けたりできるほどは良くはなかった。
そう、普通なら見切れなかったはずなのだ。なのに今さっきのように、弾を避け続けながら何メートルもの廊下を走行し続けれたかというと―――――。
原因はおそらくアイツであろう。
僕の身体能力が著しく上がったのは入学して間もない日のある事件でアイツ―――紀村深雪に治癒を受けてからである。
なんで、そうなったのかという詳しい話までは、よく解らない。
だが、あの時以来から僕の体は異常体へと変化したのは間違いない。まあ、もともとから異常体ではあったのだが…………。
まあ、しかし別に大した問題ではない。むしろ逆である。後遺症が負ではなく、この場合は正に見ていいだろう。
「っ!」
永倉さんは構えたままの状態から2発、3発と発砲を行なう。
2連打となり銃声が響き渡る。
しかし、こんなもの当たってやれるほど僕は落ち着いていない。
軽々しく身をかわして見せる。
「っ!」永倉さんの歯を噛み締める姿がとってわかるように思わされる。
「この化け物!」
永倉さんは僕に向かって、乱暴にそう吐き捨てる。
「化け物?ふっ、そうかもしれませんね」と不敵な作り笑いを見せる僕。
「なんで避けれるのよ………絶対異常だわ!」
どうようを顔に見せる永倉さん。対して、僕はそんな彼女を見て鼻で笑う。
「ふっ、面白いことをいいますね。全てが思い通りにいくわけがないじゃないですか。異常かと思うかもしれない。ですが絶対なんて言葉なんて無いんですよ」と僕は言い放つ。
「っ――――」
すると永倉さんは歯を噛み締めて押し黙った。
「まあ、貴女は別に悪くはなかった。悪いのはどちらかといえば、そこの死体でしょうね」
「―――――。同情のつもりなの?」
「いいえ。まったく、全然そんな気はなってないです。こんなことを言うのはなんですが、犯されたからどうしました?僕にとっては何の同情もしませんよ。そして、同情できないからこそ僕は貴女をただの殺人者にしか見れませんね」
つまり彼女は僕にとって同情に値できない。同情なんてできやしない。
実につまらない。
嫌なことをされたから殺しました。
彼女がやっていることは、こんなことに代わりはない。
馬鹿げている。嫌なことをされたから殺す。訳が分からない。
世の中嫌なことなんか何万、何億とある。
僕は校長が嫌いだ。なら殺していいのか?いや――――違うだろ。
僕は橋場さんから殺されようと何度もされかけた。なら殺していいのか?
それも違う。
僕は―――――世界が死ぬほど嫌いです。
なら、この世を消し去ってしまうのか?
――――――。
「僕はね。このくだらないイベントでくだらない理由をつけてくだらない奴をくだらない殺し方をしたきみがくだらなく、うっとおしく感じてしまう」
実に―――――――。
くだらない。くだらない。くだらない。くだらない。くだらない。くだらない。くだらない。
実にくだらない。
「きみの理論からすれば嫌と思った奴は全員殺しちゃっていいんだろう?」
僕はそう言って永倉さんを見て笑ってみせた。
永倉さんはガタガタと震えている。
ああ、実にくだらない。死ぬのが恐いのか?人を何人か殺しておきながら…………。いまさら自分の命が惜しいのか?
「貴女は一度死んでみたほうがいいかもしれませんね」
「ち、ちょっと待ってよ!さっきから貴方の言っていることはおかしいわ!被害者は私なの!私!私はただやりかえしただけよ!」
自己主張を訴える永倉さん。
しかし。
「ふっ――――そんなだから貴女は死んだほうがいいんですよ。なンならあと一つ理由をつけとくとします。貴女は僕の計画のじゃまをしたんです。こんなイベントなんかで死者なんかだして―――まったく、くだらない」
僕はそう言って睨むように彼女を見た。
「な、何言っているの!このイベントは殺してもいいんでしょ!だから私は殺したのよ!それに、この男たちもそれが目当てで参加してたわ!殺して何が悪いのよ!」
「―――――」
僕は永倉さんの主張を聞いて一度だまりこんだ。
「ほらね。何も言えないでしょう?どうせ貴方も人を殺してみたかっただけでしょう?」
「――――――」
黙り込んだ。黙り込んで、黙り込んで………。耐えれずに笑った。
「ふっ、ふはははは、ははははははははっ」
ああ、本当に面白いなこの人は――――。
そのときの彼女の目は点となっていた。
「な、何がおかしいのよ!」
「何がおかしい?だって可笑しいじゃないか。殺してもいい?何を言っているんだ君は―――――」
「だって………」永倉さんは何か言おうとしたが僕が代わり口を開いた。
「校長が好いといったからかい?いいや、そうじゃないだろ。だって校長は人を殺していいなんてルールを一言も喋ってない」
「なっ―――――何を言っているの!だって、あの時に―――――!」言葉を発してしていた口が止まり、はっとした表情になる。
そして僕は丁寧にアクセントを付けて話す。
「そう曖昧だったけど、はっきりとは殺しなんか許可されていないんだよ。このゲームは――――」
そう本当の校長の目論みは殺し合いをさせることなんかじゃない。最初は僕もそう思ったが、どうやら思い違いだ。あの男は僕の予想異常に腹黒い。
どうやら、このゲームは人の殺し合いをさせるためではなく、人の欲望、人を殺したいと思う心や興味、人を殺してみたいと思う心を利用して人を殺させるというゲームだった。
これの真意に最初から気が付いているのは、深雪くらいである。アイツは思わせるようなことをよく言って惑わすが、彼女の認識能力は半端なく高い。
どうやら今回は僕としたことが認識が甘かった。まあ、やる気があまり無かったのもあるが――――。
「だったら貴方も私を殺してはならないはずでしょ!」
永倉さんはそう主張を述べる。
僕は溜め息をついた。
彼女の頭には自分のことしか既に入ってないようだ。殺してしまった人の償いよりも、自分の命。
まあ、社会的には利口と言えるかもしれない。が――――ときには立派過ぎる社会性は命とりということを彼女は知らないのであろうか?
「ねえ、知ってるかい?人には二種類あるんだよ。人に従い決まったルールの中で生きる人。まあ、それが大抵の人のありかたでもあるね。そして、もう一つはルールに捉われない生き方をする人だ。所謂、自由。でだ、僕は後者であるんだよ。ルール?そんなもの生まれてからあっても無かったようなもの。だからね―――――」
僕は永倉さんを見て笑った。
「人を殺しても自己責任。ルールなんてないからね。だからルールなんて効かない」
「なっ、なにを言っているの――――白沢くん」
「副会長なら頭いいはずだよね。自分で考えなよ」
そう言って、僕はポケットから愛用のナイフを取り出した。
「さようなら――――」
僕は永倉さんに駆け寄った。
「こっ、こないでぇぇぇ!」
絶頂。絶叫。
ばんっ!
銃声音。
しかし、僕の体と弾は交差する。
「―――――」
「―――――」
そして――――。
永倉副委員長の首と体は二分された。
つまらない。
そんな小言が流れたあと、静かな休校舎の廊下へと変わった。
「貴方は別に悪くないのかもしれない。でも――――僕の気が悪かった。僕を怒らせてしまった。残念ですね。折角、嫌いな人達と別れることができたのに、また一緒です。地獄という場所で――――。貴方みたいな人は一生犯されてたほうがいいのかもしれませんね」
僕は口元だけの笑みで笑った。
「はあー…………」
深雪は一人教室の机の上に乗っかり溜め息をついていた。
「はあー…………。ふうー……………。はあー…………。―――――暇」
ぽつりと言葉を漏らす。
そんなこんなをしていると今いる教室に接する廊下で、今まで嵐のように発砲されていた銃声音がなくなった。
「ああ、白沢がんばってるなぁ――――」ぼそっと独り言のように感想を述べる。
しかし、反応はない。ただ今、この教室には一人。
「ああ――――暇」またも同じ事を連呼した。それほど、深雪は暇であった。
「まあ、いいや。退屈しのぎに、そこの窓の向こうに隠れている君。出てきていいよ」
そして、やる気の無いような口調のまま、そう言った。
しかし、反応はない。
「ああ、もう判っているから。隠れていても意味無いよ。出て来なよ」
――――――。
一瞬、教室は静かになる。そして、深雪のいったように窓際から物音をたてて学生が一人姿を現した。
背の高い男性であった。
「何で隠れているとわかったんだ―――?」
曖昧に困ったような顔をして男は言った。
「いや、別になんとなく―――」
「なんとなく?」
「うん、なんとなく」
深雪は表情ひとつ変えずに出てきた男に対応する。
「うん、うん。こっちに敵一人で向こうにも一人か――――。なるほどね」
深雪は納得したように顔を頷いてみせる。
「貴方もイベント参加者でしょう?相方は?」
「今頃、ちょうど君の相方と交戦中だろう」
「そっか。なるほど。貴方は何でイベント参加してるの」と深雪。
対する男はめんどくさそうな顔をして―――。
「何ででもいいだろう。それに聞く必要の無い質問だ。何でって、そりゃあ決まっているだろう?人を殺してもいいゲームなんてそうそうないからな。大抵のやつはそういうスリルを楽しむために参加しているんだ。俺の相方もそうだ。まあ、アイツとは別に好きで組んでるわけじゃないが、二人一組だからな。都合上に合わせて手を組んでいるんだ。まあ、アイツのおかげで、もう四人も殺れたからな」
楽しそうに笑みを見せて語る男。
「ふーん――――」と深雪は尚も表情一つ変えないで男を見ていた。
「何が楽しいのか、さっぱり」
「そうか?普段はできないだろ?人を殺すっていうスリルや感触がいいんだ。おまえには判らないのか」
「判らないわ。私は別に人を殺したくて参加しているわけではないから。ただ一番という肩書きが欲しいだけよ」
深雪がそう言うのに対して男は笑う。
「ははっ、そうかい。だがこれは遊びじゃないんだよ。残念だが一番は俺のものだ」
男は既に勝ち誇りきった表情を浮かべる。
「はあ?何言っているのかしら?貴方の負けは決定してるのよ」
「誰だか知らないが、女、なかなか面白いな。だがこれが何か判るか?」
男はニタニタと笑いながら拳銃を取り出す。
何がそんなに面白いのか?深雪はそんな表情を浮かべている。しかし、動揺したり焦りの顔は少しも見せてはいない。
「ほう、顔色一つ変えないとはな――――最近の女は変わっている」
「そう?」
「ああ―――。女、よかったら命を助けてやろう。代わりに俺の女にならないか?」と、なんとも馬鹿みたいな言葉を吐く男。
「ふふっ―――。貴方、頭おかしいよ。笑わせないで。私が貴方なんかと?調子に乗るのもいい加減にしなさい。私は貴方のような雑魚にはようはないの。雑魚で三流にもなれない雑魚みたいな男にはね。私が愛するのは、ただ一人。白沢朝奈よ」と満足気に笑いながら述べる深雪。
「なっ、なんだと!」
「すぐ切れる。馬鹿みたい」
「くそっ!てめええ!」
ばんっ!
銃の引き金を引いて、弾が深雪に向かって発せられる。
しかし、深雪は顔をひょいと傾けて弾を見切る。
男はこれに対して驚きの表情を一瞬見せるが、後はもう自棄顔となる。
「死にやがれ!」
大声と共に二度目の射撃が行なわれようとする。
が―――――。
「まてぇぇい!」
間に割って入る声で男の動作がとまる。
深雪、男、両者共に声の発された方を見る。
そこには――――。
そうお待ちかね!愛と正義の学生!須原滝が立っていた。
ああ、俺最高。まじ、かっけえぇ!
と思わせる演出なのはずだが――――。
「―――――」
「―――――」
二人は唖然として、場は凍っている。
「紀村さん!もう安心!なぜなら俺が助けに来たからね!」と滝。
「―――――」
しかし、紀村さんは無言である。
あれ?場を出間違えたか?いや?あれ?おかしいな―――――。
そんな少々戸惑う俺に―――。
『えっと、滝くん』と後ろにいる女性、幽霊の唯ちゃんが話かけてくる。
『どうやら邪魔のようですよ』
「なっ!邪魔!」
そんなことが、そんなことが――――。
「あってたまるかぁぁぁ!」
そう言って特功する!
いかにも敵オーラを出している男にだ。
しかし。
ばしっ、どすっ、ずどっ!………………。
3秒でノックアウトされる俺。
「ぐわあああ!」
ばたんっ!
「―――――」
「―――――」
紀村さん、男はしばらく、また唖然としていた。
ああ、さすが敵。いままでで一番の強敵だよ!まっ、こいつ一人しか戦ってないがな。
ナイスファイトだ――――。
そして須原滝の意識は無くなった。
無くなる前に『滝くん、格好悪いです』と唯ちゃんの声が聞こえた。
滝が倒れた後、しばらく無言の態勢が二人の間で起こっていた。
「あーあ、こいつがお前の相棒か?」と男。
「見覚えすらありませんね。初対面です」と深雪。
「まあ、いい。少し拍子が抜けてしまったが、お前の命はもう最後だ」
と再び同じ状況となる。
「戯言はいいから、始めましょうか」
深雪がそう言うと男は銃の引き金を引いた。
ばんっ!ばんっ!
2発の弾が発射される。
が、深雪は発射と同時に身を動かし、教室から廊下へと走りだす。
「逃げるつもりか!」
そう言って、追うように男も教室から出る。
逃げるつもりは、まったくないんだけどね。っと深雪は呟く。
ばんっ!
深雪にとっては後方からの射撃。
しかし、後ろはいちいち見なおさない。左右に体を揺らしながら廊下を掛け抜ける。
弾は標的から逸れて壁に当たる。
そして深雪は、そのまま廊下から階段を駆け上がる。無論、男は後を追ってくる。
ばんっ!
走りながら男は尚も発砲する。
しかし、大きく的を外す。どうやら男の腕前は凡人並である。全くと言っていいほど腕が立ってない。
しかし、深雪はフロアを二階に変えても尚も逃げる。そして一番廊下端まで走りようやく足を止めた。
「はあ――――粘るのもはもう終わりか?」
少し息を切らした様子で男は言った。
「逃げる?」
深雪は何がと言わんばかりに顔を捻らせた。
「貴方の負けよ」
と蔓延の笑みを見せて言う。そしてポケットから銃を取り出した。これは先程拾った奴である。
「ほう、女。お前にそれが使えるのか?」と舐めたような口調で男は言った。
「まあ、貴方よりは使えるわ」と深雪はそう言って――――。
ばんっ!
引き金を引いて、弾を撃つ。
弾は男の顔スレスレを通っていく。男の顔からは薄らと血が流れる。
「―――――」
男の顔から血の気が引いた。
「どう?なかなかの腕でしょう?」
くすっと笑いを見せる。
「なっ――――」動揺を隠し切れずに声にした言葉もならない。
「だが―――しかし、お前に俺を殺せるか?」
「ふーん、以外と度胸はあるようね。私をためそうっていうの。まあ、いいわ――――」
深雪はそう言うと銃口を男に向ける。
「―――――」
辺りは静かになる。
男の顔は険しく、余裕の無い表情。額には汗が見られる。
「―――――」
そして――――。
深雪は銃口を――――――――――――――――――引かなかった。
「―――――」
弾を撃たず銃をおろす。
「はっ、ははっ!はははは!やっぱり人を殺すのは恐いか!」
男の顔は一変して笑顔に変わる。そして、今度は男が銃を構える。
「はははっ!何か言い残すことはあるか?」
「――――――。さようなら」と深雪はぼそっと言う。
「さようなら?ああ、ならさようならだ!」
男は嬉しそうに歓喜した口調で、そう言って――――引き金を引いた。
かちゃっ……………。
――――――。
しかし―――――。
弾は出てこなかった。
「なっ、なに!」
驚きを口にする男。
「ふふっ、ふふっ、ふははははは」今度は笑い返すように深雪が高々と声を上げた。
「まったく茶番よね。茶番。自分の銃の弾くらい把握しなさい。さてと、もう終わりにしようかな。さっさと白沢のところに行って誉めてもらわないと。白沢ももうおわっているころだろうしね」
深雪はそう言った。既に勝ちを認定したような顔をして。
「なっ、何を言っているんだ!俺はまだ――――」と言葉を発している途中だが。
かしゃん!
刀を抜く音が鳴り響く。
そして―――――。
「もう、終わりです。貴方の負けですよ」と声が男の背後で発せられて―――――。男が振り返ろうとしたが、その時には――。
がつん!
「うっ!―――………」
刀裏で腹部を強打されて、男は崩れ落ちた。
「――――――」
………………。
「はあ――――ありがとねリサ」深雪は刀を持った少女に話掛ける。
「あんな無茶な戦いまともに見てられませんから」と男の崩れた上に立つ、橋場リサはいう。
「たまたま通りかかったの運のつきですよ。怪我は無いですか」凛とした声で尋ねてくる。
「あっ、くっ――――」
すると、深雪は腹部を押さえて崩れるように丸くなった。
「大丈夫ですか!」
橋場リサはとっさに深雪へと駆け寄った。そして気を使うように顔を覗き込む。が―――――。
「なーんてね!食らえ!」と深雪は身を起こし、橋場リサのみぞおちにパンチをどすっとかました。
「えっ、なっ!ぐはっ――――――――」
そして橋場リサの意識も無くなった。
「はっはっはっ!敵も味方もないのよ!サバイバルだからね!リサごめんね、だけど私が一番なんだから!」
そして、しばらく笑い声があがった。
「さあーて、早く白沢に会いたいな」
そして、月に一度の学園イベント。戦え!サバイバルバトルは幕を閉じた。