表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/8

第二章

深雪から妙なイベントの話を聞いた、その後。

深雪と別れて教室へと向かった。

ちなみに深雪はというと『今日は私は授業でないから』と僕に伝えて保健室へと眠りに行った。

僕から言わせてもらえば『今日は』ではなく『今日も』だろっと、そう言ってやりたいところだ。

まあ、いつものことだし、さほど気にはしない。

それに、あいつには授業単位が足りなくても進学できる特権があるらしい。

詳しい話はよくわからないが。


僕はそんなことを考えていると、いつのまにか教室にと着いた。

教室の戸を開けて中に入る。

教室内は以外にも静かであった。

もっとこう、あの妙なイベントの所為で盛り上がっているのを想像していたのだが。

僕は期待を裏切った教室に入る。

すると。

「よっ、朝奈」

教室に入る僕に話し掛けてくる声が聞こえた。

声主の方を見ると、そこには須原滝がいた。

ちなみに紹介しとくが、こいつがファミレスの4分の1の品を一辺に頼んだ奴である(まあ、頼んだのは深雪であるが)。

一言で言えば、利用されやすい、可愛そうな友人である。

「おう」

僕は少し遅れてあいさつを返した。

「昼休みはまた紀村さんと屋上でイチャイチャしていたのか」

からかうような口調で滝は言ってくる。

ちなみに言うと僕と深雪が付き合っていると言う噂は今では学内中に響き渡っている。

何で広まったのだろう。

まあ、深雪は校内トップランカーの美少女であるから、それなりに恋人の把握はしてあるのだろう。

当たり前といえば当たり前であるが。

しかし、あれは決してイチャイチャするような仲ではないな。

どう見れば僕と深雪はイチャイチャしているような仲に見えるのだろうか。

まったく人の目と言うのは不思議である。

まあ、それに何より滝ごときにニヤニヤと笑われるのは不愉快だ。

非常に不愉快である。

この顔を殴り飛ばしたいね。

ま、冗談だけど。

「そんなに羨ましいなら代わろうか」

「本当かよ!」

喜びの反応を見せる滝。

「お前に深雪を説得できるなら喜んで代わろう」

「なんだと!―――。そんなの無理に決まっているじゃないか」

自信満々とそう述べる。

途中の間には、いったい何を想像したのであろう。

「ヘタレめ」

「なんとでも言え!だが最後に笑うのは俺だ!」

「そうか――」

可哀相な奴である。

いったい、どれだけ未来に期待しているだろうか。

現実をすべて捨てて、いつ来るか判らないような、遠い未来に夢を抱いてやがる。

なんだか、一緒にいるこちらまでも悲しくなってくるではないか。

「でも、実際に紀村さんとはどうなんだよ。仲良くやっているのか」

「お前は僕のおふくろか――。いったい、なんで、そんなことを話さないといけないんだ」

「まあ、そう言うなよ。だって紀村さんは間違っても校内トップクラスの美女だ。そんなのと付き合っているお前との仲を知りたくて何が悪い」

「全て悪い」

僕は坦々とした口調で言い返した。

「まあ、そう言うな。俺とお前の仲だろ」

「いったい、どんな仲だよ」

「親友だろ」

「在り来たりだな」

本当に在り来たりな言葉だ。

僕は滝を見て微笑してみせた。

「くっ。お前を一瞬たりと信用した俺が馬鹿だったぜ」

いったい、何時、どこで、何が、どうしたことによって僕は信用されたんだろうか。

「つまり紀村さんとの仲は誰にも話さないつもりなのか」

いや、お前以外には話してもいい。

と言ったら、こいつはどうするであろうか。

一瞬考えたが、さすがにそこまでおちょくるのは辞めておこう。

「まあ、ぼちぼちだ」

僕はそう答える。

すると――。

突然である。

しゃきんっ!

しゅっ!!

僕の真隣に刃物が振りぬかれた。

刃物は刀。

刃渡りは、長い。

刃渡りを辿って持ち主へと目をやった。

それは、よく知る人物、橋場リサ様であった。

えっ、なんで様付けなのかって――。

そんなの決まっている。

僕は彼女には勝てないからだ。


橋場リサ。

彼女は混血。

いわゆるところのハーフである。

父親は日本人で母親がフランス人らしい。

非常に頭が良くて、非常に運動ができる。

おまけに、顔のできがまた二まわりも、三まわりも優れており、絶大の美女。

赤色と黄色の混じったような髪の色は顔と一致して、かなりの見栄えである。

普段はじっと席に座っていて何も話さないので『幻の人形』(シークレット・ドール)と影で呼んでいる人もいる。

今僕の意見からすると『シークレット・ドール』よりも『ザ・ダークネス・ドール』である。

彼女には汚点なし、欠点なしなのだけど、あえて一点だけ指摘しよう。

汚点ではないが、彼女の服は黒と赤のヒラヒラしたロングドレスのような服なのだ。

いわゆるゴスロリ。

なぜかゴスロリ。

無論、学校でも平然と着ている。

しかし、うちの学校は私服制ではなく制服制。

深雪ももちろんのように制服を着ている。

私服なのは彼女一人だけである。

何故それが彼女だけOKなのかというと。

そんなの決まっている。

可愛いからだ。

可愛いからOK!!

それ以上でも、それ以下でもないはずだ。

これは暗黙の了解なのだろう。

だから誰も気にしない。

気にしているだろうが、指摘しない。


しかし、そんな橋場さんがどうやら今は怒っていらっしゃるようである。

「やあ、橋場さんじゃないか。こんにちは」

僕はとりあえず挨拶をした。

「橋場さん、こんちはっ――って!ぐはっ!!」

滝は僕同様に橋場さんに挨拶をしたが、挨拶をした直後に殴り飛ばされた。

「滝くんは黙っていてください。邪魔ですから」

橋場さんは教室のドアの前に倒れこんだ滝に鋭い口調で言い付けた。

「ひゃい――――」

滝は泣きながら返事をする。

ああ、滝。

可哀相な奴だ。

僕はそんな滝を目にして黙って哀れんでやった。

そして滝から目を離して、刀をお持ちの橋場さんに目をやった。

「えっと――。なんですかね。そんな恐い目をしないで下さいよ」

シークレット・ドールの名が泣きますよ。

僕は心のなかでそう続けた。

「白澤くん―――」

橋場さんは僕の名を呼んだ。

「はい」

僕はすかさずに返事をした。

「切ります!」

彼女は刀先を僕に向けて、そう言ったのだった。

「はい――?」

あれれ、聞き間違えだろうか。

彼女の口からおかしな言葉が発される。

しかし、それは聞き間違えでも、冗談でもない。

彼女は刀を再び振り切った。

「って!ちょっ!!うわああ!」

反射的にすかさずにかわした。

最初の一刀目は威嚇であったが、今のは本気で僕のからだを狙っていた。

僕が避けなかったら真っ二つであっただろう。

って――冗談じゃない!

「避けましたか。ちっ」

悔しそうに舌打ちをする橋場さん。

「って!まじで、ありえないですから」

僕は大声を出した。

教室内は既に、みんなこちらを見ていた。

そして、ちょうど良くナイスタイミングで次の授業の担任が教室内へと入ってくる。

「ほら、橋場さん。早く席に着かないと授業が!」

「問答無用です。先生、少々身内ごとがありますので先に授業を始めていてください」

橋場さんは先生に向いて、そう告げた。

先生はと言うと

「お、おう、わかった」と戸惑いながらも答えた。

わかったじゃない!!

みんな止めろよ!!

あれは真剣ですよ!

いや、真剣と本物の剣をかけていりわけではない。

偽物じゃなくて本物の刀ですよ。

僕は殺されようとしているのですよ。

「安心してください。腕と足を切り落とすだけですから」

ああ、なんだ腕と足を切り落とすだけか――。

って十分危ないですから!!

「嫌ですよ。理由を答えて下さいよ」

「問答無用です」


しゃきん!

刃の音が鳴る。

僕はとりあえず、もうダッシュで逃げ出した。

教室のドアの前にいる滝に目を向けずに踏み台にして廊下に飛び出した。

「ぐえっ!」

滝が声をあげる。

「待ちなさい!」

続けて橋場さんが滝を踏み付ける。

「ぐえっ!!」

滝はまたも情けない声をあげた。

滝よ――すまん。

僕はそう思いながら必死に廊下を駆け出した。


逃げ出して、到着した先は屋上であった。

何も考えなしに逃げ回りすぎた。

逃げ場はもう無かった。

しゃきん!しゃきん!

刀が鞘と擦れる音が下からやってくる。

橋場さん、あなたはターミネーターかなんかですか!!

そう、つっこんでやりたくなった。

「ふう、鬼ごっこは終わりです。おとなしく腕を切り落とされなさい」

「嫌ですよ。いくら、あなたの頼みでも」

「何でですか」

「てか、本気ですかって、こちらが聞きたくなりますよ」

「黙りなさい!あなたは私の深雪を奪ったんですから!」

そう――。

なんで、さっきから僕が追われているか。

その理由は深雪にあったのだ。

率直に言うと、橋場リサはレズビアンなのだ。

しかも、相手はあの紀村深雪。

つまり、現時点では僕の彼女。

「あなたが奪ったんだ」

まあ、そういうことになる。

いや、違うか――。

深雪は別にレズビアンでもなんでもないので奪ったとか、そいいう話はならない。

単に僕が先に深雪と付き合ってしまっただけ。

しかし。

僕は別に深雪と付き合いたいわけではない。

無効が半ば無理矢理に付き合うようにしてしまったのだ。

だから僕は無実である。

そう、橋場さんに言ってみた。

「ほう――」

橋場さんは何かわかったかのようにつぶやく。

「つまり、僕は深雪を好きなわけではないんだよ。信じてくれ」

「つまり、深雪とは遊びだったと」

「そう―――だ。ん――――――?」

嫌―――。

なんか違うぞ。

「この女の敵め!」

すると橋場さんは刀を突き付けてくる。

僕は避ける。

しかし、横髪を擦り、髪が少しだけ切り落ちる。

危ない。

非常に危ない。

今更に思うが、彼女は何者なのか。

なんで刀なんて手にしているのだろう。

一ヵ月前に出会った猫耳マントのロリ少女もまた刃物を所持していたが、この国は何時から刀の所持と使用が許可されたのだろう。

今は戦国の世ではない!

もうすぐ巨大ロボットでの戦いが主流に成らなければならない世の中のはずだ!!

少なくとも僕はそう思っている。

何故なら、ロボットに憧れているからだ。

なのに刀だ!

ありえないって―――。

色々と――。

って、そんなことを考えている場合ではなかった。

「ふん!はっ、とう!」

ゴスロリのひらひらした赤いスカートがなびく。

それと同時に刀の刄が襲い掛かってくる。

僕は避ける。

避ける。

避ける。

が――。

がつん!!

屋上のフェンスに背中が打ち当たった。

「―――」

僕は笑顔で笑う。

「ふっ」

橋場さんもまた、笑顔を作る。

あ、可愛いな。

って、今はそんなところではない。

橋場さんの笑顔は可愛く、国宝級だが、命には変えられない。

「もう辞めときましょうよ。その辺で―――」

この先は洒落になりませんよ。

「ふふっ」

しかし、橋場さんは変わらず刀を持ち続けている。

「――――」

うーん、困った。

もう、こうなったら仕方がない。

「判りました」

僕は低い声で呟いた。

「ようやく、やっと観念しましたか」

橋場さんは喜ぶ。

あなたは完璧なエスですね。

そう言ってやりたかったよ。

まあ、言わないけど。

「ええ、ですが。腕が無いくらいなら、死んだほうが増しです。なので僕はここで死にます」

僕はそう言った。

「はっ――」

橋場さんは驚きと困惑の表情。

「つまり僕は死ぬんです。安心してください。ここから落ちて死にますから。橋場さんがやったことにならないし、その手も、その刀も血で汚させません。僕一人で死にますから」

橋場さんは何を言っているんだ。

そういう目でこちらを見つめた。

僕は笑った。

そしてフェンスをよじ登ってフェンスの向こうに出た。

つまり、足場ほぼ無い状態。

滑らせれば、そのまま地上に落ちてジ・エンド。

「ちょっと!なにやってるの!!」

橋場さん慌てる。

本当に混乱したように慌てる。

まさかの僕の行動に慌てる。

しかし、そんな橋場さんを裏腹に笑った。

笑って――、笑顔で。

「それでは橋場さんお元気で。滝と深雪にはよろしく言っておいてください。後は―――。他に伝えてほしい人は残念ながら思いつきませんね。では」

僕はそう言って橋場さんを見た。

「白澤くん!やめっ――!」

彼女がそう言おうとした瞬間。

僕は足を少しずらして落ちる。

「白澤くん!!」

彼女は僕の名を呼んでフェンスへとぶつかった。

がしゃん!


場が静かになった。

「白澤くん―――」

橋場さんは力無く僕の名を読んだ。

「そんな――。そんな、つもりは無かったのに」

彼女は言う。

そしてポタリと涙が流れる。

「くすっ、くすん」

可愛らしい泣き音をあげる橋場さん。

「くすっ、白澤くん――ごめんなさい―――。だから―――戻ってきてよ」

彼女は屋上のコンクリートに跪いてそう言った。


「はい。わかりました」


僕はそう答えた。

「―――。そう、くすん―――よかった。―――――――。って、ん?」

橋場さんは首を捻った。

そして涙を拭いて立ち上がり、フェンスから下を見下ろしてくる。

「やっほー」

僕は手を振った。

「――――」

橋場さんは無言だった。


「よっこらしょ」

僕はゆっくりとフェンスをよじ登って橋場さんの目の前に立った。

橋場さんはと言うと、さきほどから、ずっと唖然とした顔を維持したままだ。

それも、そうだろう。

飛び降りて死んだと思っていた僕が生きているからだ。

しかし、死ぬわけにはいかないんだ。

僕としては死ぬつもりなんて、さらさらないのだから。

つまりだ――。

「あれは嘘だったんだよ。死ぬって言ったのは嘘。本当は死ぬ気なんてない」

「嘘―――死ぬ気なんてない」

橋場さんは繰り返して唱える。

まるで精神の無い人形状態のように。

「そう。屋上はよく来るからね。構造は知ってたんだ。フェンスの向こうには1メートルくらいの高さの段差があるんだよ。つまり最初から飛び降りと見せ掛けるつもりだったんだ。どうだった。びっくりした」

僕は笑ってそう言った。

「ぐすん――」

すると以外にも橋場さんは涙を再び流し始めた。

「橋場さん―――」

これには、さすがに僕も驚いた。

まさか、あの橋場さんが人前で涙するなんて信じられない光景を見てしまったからだ。

「しっ、心配したんですよ。ぐすん、死んじゃったと思ったじゃないですか!!」

怒られた。

しかも殴られた。

以外にもクリーンヒットしてしまった。

殴られたのがではない。

橋場さんの言葉にだ。

以外にもやさしい一面があるようだ。

しかし、やってはいけないことをやってしまった気がしてしまう。

「いや―――」

しかしだ。それ以上に困るのは――――。

中々、泣き止もうとしない橋場さん。

「あの橋場さん――?」

「ぐすん、くすん」

「橋場さん―――」

「くすん」

「すいません。ごめんなさい。だから泣き止んで下さい」

すると。

「誰が泣いているんですか」

いつもと顔色一つ変わっていない橋場さんが顔を起こした。

あれ―――。

「私が泣くとでも思いますか」

やられた。

僕は頭を抱えた。


どうやら、嘘泣きのようだ。

「そりゃ、人は生まれたときは泣いて生まれるらしいですから」

僕は言った。

「つまらない屁理屈ですね」

橋場さんが答える。

「理屈は好きじゃないですからね」

僕は答える。

「そうですか。確かに女は理屈臭い男は嫌いですよ。でも、屁理屈男も私は嫌いですね」

橋場さんは

「ふん」と顔をそっぽむける。

「なら何がお気に召されるんですか」

「そんなの決まってますよ」

当然と言わんばかりに言った。

「男は嫌いです。私が気に入るのは紀村深雪だけですから」

「――――」

予想どおりの答えが返ってきた。

「ふー。何がいいんですか深雪の」

僕はため息をついた。

「全てです」

速答であった。

「そうですか」

ああ――できるなら深雪をそのまま、この人をプレゼントしてあげたいくらいだ。

深雪は僕には手の内に大きすぎて収めきれないからな。


「白澤くんと深雪が付き合って一ヵ月です」

すると橋場さんが口を開いた。

「私は色々と考えましたよ」

色々とは何ですか。

まさか、僕を暗殺とか言うんじゃないでしょうね。

僕は言った。

「よく判りましたね」

なんか当たってしまったし――。

しかし、なるほど。

ここ一ヵ月、妙に殺気を感じるとは思ったよ。

それは橋場さんの殺気だったのか。

「だけど、あれですね。そんな細々した事では深雪は振り向いてくれませんしね」

はあ――と溜息をつく橋場さん。

「だから提案があります!」

「提案ですか」

「そう提案です」

「何ですかね。その提案とやらは」

できれば簡単かつ楽な提案にしてくださいね。

と、思いはしたが口にはせずに黙っておく。

言ったら、今度こそ切られそうだし。

「そうです。私が考えた提案は」

橋場さんは言った。

手を伸ばして僕を指差して―――。

「勝負です!!」

「―――――」

場が静まり返った。

しかし、それは一瞬だった。

「はあ――」

僕の間の抜けた声が口から出た。

「勝負――。ですか」

「そう勝負」

橋場さんはやる気たっぷりの笑み。

「今からですか」

僕は恐る恐る問う。

しかし、これには首を振ってくれた。

「勝負は今日ではないです。今日の勝負はさきほど終わりました。今日は私の負けでいいです」

「そうですか。なら、いつ勝負するですか」

「勝負は今月のイベントでです。知ってますよね」

橋場さんは問いてくる。

知ってるもなにも今さっき聞いた話だ。

それに、あの題名では嫌でも覚えてしまう。

「はい、一応知っていますよ」

いやいやながら頷いた。

「なら好都合です」

僕は不都合です。

「あのイベントで勝ったほうが勝ちで、深雪により相応しい者として認めることにしましょう。しかも、このイベントの優勝者は校内最高権力が与えられるらしいです。深雪の相方には相応しい称号だと思いませんか」

嬉しそう笑う橋場さん。

いや、どこが。

僕はそんな顔をしていただろう。

深雪に相応しいのは、そんな校内ナンバーワンみたいな奴よりも普通の変人の方がお似合いだ。

深雪も変人大好きだし。

その点では橋場さんも常識人から外れてあるし、それなりに評価高いんじゃないか。

僕はそう思った。

ちなみに僕は結構な常識人だと自分では自負している。

よって僕は深雪には向いてない。

深雪が僕に興味を持ったのは、きっと何かの手違いだったはずだ。

「ふうー。まあ、いいですよ。その勝負、乗りました」

僕は答えた。

どうせ深雪がうるさいから出なければいけないものだったし、ちょうどいい。

しかし、僕は勝つつもりはまったく、さらさらないが。

潔く負けて、深雪を橋場さんに譲ろうではないか。

うん、それがいい。

僕は一人で納得した。

「決まりです。なら覚悟を決めておいてくださいね。深雪が私の物になったときに喚いても返しませんから」

大丈夫です。

いりませんから。

と間違っていいそうになったが、橋場さんの目の前でそんなことを言ったら切り落とされる。

しかし、なんだ。

深雪には悪いが、なんか物みたいな扱いされているような気がして堪らない。

ま、あいつならそれくらい笑ってくれるはずだ。

おそらくね。

「じゃあ、話は終わりです。早く、その刀をしまって下さない」

僕は橋場さんの手に持つ凶器を指差した。

「――――」

橋場さんは名残惜しそうに刀を見た。

そんなに切りたかったんですか、あなたは。

あなたは血に飢えるハンターですか?

そう言ってあげたくなった。

橋場さんは刀の先から根元を確認するように見た後、鞘にしまい込んだ。

「ふー」

僕は息をついた。

安心の意味の息だ。

ゴスロリ少女はぷいと顔を背ける。

また、気を強がる仕草が愛らしく感じる。

「では失礼します」

そう言うと、くるりと半回転して屋上から出ていった。

ひらひらの服が風に舞うとかなりいい絵になる。

それを後ろから眺め終えた後に僕もその場を後にした。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ