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今回は少し長いです
まず最初に気付いたのはバスティーユだった。
それまで順調に歩いていたバスティーユが耳を伏せて急に立ち止まった。そして何か見つけたのか前方をじっと睨みつける。
「バスティーユ?どうしたの?」
心配になったリディアが声をかけるも全く反応を示さない。
それどころかますますバスティーユの雰囲気は剣呑になっていった。
同じようにバスティーユの気配が変わったことに気付いたヴァンハルト達も互いに目を走らせている。
一体何がおきたのか。
リディアンには理由がわからないま周りの空気だけがどんどん張り詰めていく。
まだ15歳のリディアンには分からない。この時、バスティーユやヴァンハルトといったリディアン以外の面々は自分達以外の気配を感じとっていた。
その気配はバスティーユが睨みつける先にある。
バスティーユが見つめるその先には鬱蒼とした茂みがあった。人が隠れるには丁度良く、周囲の目も届かないこの場所は、夜が更けてくると魔物が出現することが多い。
実際これまでの数日間、似たような場所で何度か魔物に出会うことがあった。
その多くは犬のような体に紅い瞳が3つもあるバケモノだったが、それ以外にもたくさん種類があるとヴァンハルトが教えてくれた。
リディアンはなけなしの知識の中から情報を引っ張りだした。
自分にも分からない緊張感を打破できるような気がして。
「まさか、魔物ですか?」
小声で尋ねるとヴァンハルトは無言て首を横に振った。
「この周辺の魔物達は夜行性なので、昼間に出てくることは稀です。おそらく魔物よりたちの悪い者共でしょう」
つまりならず者、盗賊ではないかとヴァンハルトはいう。クライフもその意見に賛成のようだった。
「周り道を行きたいところですが、時間が掛かり過ぎます。このまま進みましょう」
「でも、盗賊の前をわざわざ通るなんて危険です」
「姫のおっしゃることは最もです。ですが、彼方も金や物資が欲しいだけですから、それ等を差し出せば命までは取りませんよ」
金や物資は取られてもかまわない。
今は何よりリディアンを無事に城に連れて行くこと。それが一番大事なことなのだ。
そんな風に言われてしまうと、リディアンからはもう何も言えなくなる。
「ヴァンハルト、貴方は姫を御守りしてください」
「わかっている」
「頼みます。オルト君、メルベイン君、気を抜かないで下さいよ」
「了解してます」
「大丈夫だよ〜」
君達の大丈夫はなぜか安心できないのですが、とクライフは盛大にため息をはいた。
「ヴァンハルト、いざとなれば貴方だけで姫を城へお連れしてください」
重々しいクライフの言葉はリディアンの胸を刺した。
森を抜け、バスティーユが警戒していた場所にさしかかった時、
「おい、兄ちゃんたち。そこで止まりな」
林の中からガラの悪い男達が行く手を遮るよう道に踊り出た。十数人の盗賊の群は卑下た笑みをその顔に浮かべ、周囲を取り囲む。
リーダー格であろう男は大柄な男だった。身長だけならヴァンハルトと同じくらいはあるだろう。だが、胴の太さや腕の筋肉などはヴァンハルトよりも上をゆく。
『筋肉ぶたダルマ』とメルベインの呟きが聞こえたが、当の相手の耳には届かなかったようだ。
「俺の名はデオテオード」
歳は40ぐらいだろうか。無精髭を生やした馬上の大男は、ダミ声を張り上げ名乗りを上げた。
背中の大剣を抜き払い、その剣先をリディアン達の方へ向ける。
「ここを通して欲しければ、有り金全て差し出せ」
おおよそセオリー通りの盗賊達の言動にクライフたちはやっぱりという顔をしながらおとなしく従った。
敵の数は約10人、それに対してこちらの戦闘経験者は3人だ。数は圧倒的に不利である。
お金で済ませることが出来るなら安いものだろう。
「これで有り金は全てです。」
手のひらサイズの布袋を盗賊達へ放り投げる。布袋は弧を描きながら足元へ落下した。近くにいた下っ端が拾い上げて中を確認する。
「頭、大漁ですぜ」
「見ろよ、銀貨がこんなに!」
袋の中には銅貨や銀貨の他に宝石類なども詰め込まれていた。それ等を手にとったデオテオードは思っていたよりも多く収獲に満足気であった。
だか、人は強欲に出来ているものだ。十分な利益が出ても更に上を掴もうとする。デオテオードも正にそれであった。
彼は次にバスティーユに目をつけた。
引き締まった体に力強い瞳、圧倒的な存在感。
バスティーユは血統付きではないものの、人を惹きつける魅力がある。そこには野生の馬の輝きがあった。
そして、
「その鹿毛の馬とお嬢さんも一緒によこしな」
デオテオードはリディアンを目に留めた。