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「逃がしません」
リディアンの前にクライフ、そして出口にはヴァンハルトが扉を塞ぐように立ちふさがる。
前門のクライフ、後門のヴァンハルト。
奇しくも2人に挟まれる形になったリディアンは早々に逃亡を諦めた。
だってそうだろう。自分より体格のよい成人男性に阻まれては、逃げ出すことなど困難だ。
「もう逃げませんから、離してください。」
「もの分かりが良くて助かります」
嘘くさい笑顔のクライフはリディアンを椅子に座らせると眼鏡を掛け直す。最初の堅実そうな印象は薄れ、今ではその背にコウモリの羽と尻尾が見えるようだ。
真っ黒な眼鏡の悪魔がそこにいた。
「先ほどは失礼しました。改めてリディアン姫にはこのまま我らと共に城までおいで頂きます、よろしいですね?」
「だから、僕は男です!何度も言いましたよね⁈」
「おやおや、何の冗談でしょう?姫は冗談がお好きですね」
ニコニコニコ。
笑顔のクライフはリディアンの言葉を一切聞いていないかのように振る舞う。
誰かこの人を止めてくれる人はいないものかと、他の3人に助けを求めて視線を送るものの、彼らはリディアンから目を逸らして申し訳なさそうに俯いた。
誰もクライフに逆らうつもりはないらしい。
「……つまり、僕に女として振る舞えと?」
引きつった笑顔で確信に触れてみる。どうか間違いてありますように!
希望はものの見事に打ち砕かれた。
「さすがの聡明さ。感服しております。因みにもし姫の真実が他者にバレた場合、御自身が危うくなるので、お気を付け下さい。」
おまけに命の危険まであるなんて、泣けてきた。
「クライフ、姫…いや、王子にきちんと話してみてはどうだ?」
悲壮感漂うリディアンを哀れに思ったのか、先ほどから黙って見ているだけだったヴァンハルトがクライフに近づく。
「王子はもの分かりの悪い方ではなさそうだし、話せば分かってくださる。無理やり協力させてもボロは必ず出る。そうなって困るのは国だ。」
「だか…しかし」
「クライフさん、俺たちからもお願いします」
「バレないように俺たちが守ればいいんだし〜」
「君達…」
オルトとメルベインまでもがヴァンハルトに加勢すると、クライフは諦めてため息を吐いた。
「…分かりました、話しましょう。聞いて頂けますか?」
全員の目がリディアンへと向けらられる。
リディアンは深呼吸すると、コックリと頷いた。
「ご存知の通り我がローレル王国は精霊が司る王国です。歴代の国王は国の巫女がよんだ精霊によって、王家の人間の中から選ばれます。ところが…」
クライフはそこまで言うと一旦言葉をきった。疲れたようにコメカミ部分を抑え眉間にできた皺を揉む。
「今回呼び出した精霊が大変な曲者でして」
ローレル王国に今回降り立った精霊は城の人々が集まる中言い放った。
「見るもむさ苦しい男ばかり、よくここまで集まったものよ。右を見ても男、左を見ても男、あぁ嘆かわしい。愛らしさなどまるで無い。我は男は好かん。よって、此度の王は女じゃ。我が前に愛らしく、美しい姫を連れて参れ」
精霊の言葉は絶対だ。直ちに王家の中で条件に合う姫探しが始まった。
既に成人を迎えた姫(ローレル王国では成人は15歳)であり、国民が納得する血筋の人物。最初は簡単に思われた。そんな姫なら何人かいると。
「実際5人ほど条件に合う姫が見つかりまして、精霊に引き合わせたのですが…」
見事、全員失敗したのだと言う。