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「姫様、初めてお目にかかります。私はクライフ・ユーリスと申します。ローレル王国ユーリス地方の領主をしております。以後お見知りおき下さい。」


 侍女が部屋を立ち去ったあと、次に現れたのは眼鏡をかけた堅実そうな青年だった。切れ長の目が印象的な彼はリディアンの前に跪くと深く頭を下げた。その後ろに数人の騎士が同じく並ぶ。


「彼らはローレル王国第三騎士団の団長と部下たちでございます。」


 クライフの言葉に後ろの三人が顔を上げた。その内の一人、黒い瞳の青年が前に進み出る。

 

「第三騎士団団長ヴァンハルト・グラストロにございます。」


 ヴァンハルトは屈強と言う言葉が似合う、体格の良い青年だった。歳は二十代後半ぐらい。服の上からでも鍛えているのがよくわかる、リディアンにとって羨ましいほどの筋肉を携えていた。

 次に名乗り出たのはヴァンハルトの右隣にいた青年だ。


「同じく、第三騎士団のオルト・ダスティンです。よろしく姫様」


 オルトはヴァンハルトと違い細身の青年だった。しかし、騎士を名乗るだけあって、体格はしっかりしたものだ。そして彼は世の女性が騒ぎ出すほどの二枚目であった。柔らかそうな茶髪にグリーンの瞳。同じく左耳にも瞳の色に合わせたグリーンのピアスを嵌め、騎士団の団服も自分流に着こなしている。

 彼は自分を格好いいと分かっている人間のようだ。


「メルベイン・クラークです」


 最後に一番年下であろうメルベインがリディアンに頭を下げた。彼は騎士団の制服の上から大きなローブを羽織っていた。ローブの帽子を目深に被っていたため顔が見えない。

彼も挨拶を済ますと他の2人同様後ろへ下がった。

 一体何がどうなっているのか。分からないことだらけだ。


「とりあえず、貴方達のことは分かりました。でも、まだ僕には分からないことが多すぎます」


 リディアンの覚えている最後の記憶は15歳の誕生日の朝、中庭に続く通路を歩いていた時まで。その後の記憶はなく、起きたら見知らぬ部屋のベットに寝かされていて今に至る。


「ご心配なく。順を追って説明いたします」


 薄く微笑むクライフの眼鏡がキラリと光った。


「これは当時書かれた文献をもとにしておりますので、いくつか違う点もあるでしょうが、お許し下さい。当時の国王トスター王と王妃ナディア様のもと姫は御生まれになりました。しかし、何者かによって、姫には産まれてすぐ呪いがかけられました。かけられたのは15歳になると発動する『死』の呪いです。幸運にもその場に居た一人の精霊使いが呪いを『死』から、『100年の眠り』へと変更し、姫の命は助かりました。呪いを解くのではなく、変更するだけに留めたのは呪いがかなり強固なものだったからと推測されます。その後何も知らない姫は成長され、15歳を迎えたその日100年の眠りについたとされています。眠りについたあとはこの西銀の塔に移され、100年後の本日、お目覚めになった次第です。」

「つまり、僕は100年間ずっと眠っていたってこと?」

「そうなります。我がユーリス家は代々姫様が目覚める日まで、この地で見守ってきたのです」


 皆が皆リディアンを見て『姫』と呼ぶ。

 つまり姫とは自分のことらしいと、この時になってようやく気がついた。


「彼らがこれより姫の護衛をー」

「ちょっと待ってください、クライフさん。あの、さっきから呼んでいる姫とは…」

「?貴女のことです。リディアン姫。」


 ですよねー。

 つまり、皆リディアンを女の子と思っているらしい。これはきちんと訂正せねば。


「それは間違いです。僕は確かにリディアンですが、姫ではなく王子です」

「はい?」

「だから女ではなく男です!」


 数分、場の空気が固まった気がした。

 確かにリディアンは少女に間違えられるほど可愛らしい顔立ちをしていた。身長も同年代と比べて低く、筋肉も付きにくいのか線は細い。

 そんな外見のため、今までも何度か女の子に間違えられることはあった。リディアンとしてはもう慣れっこだ。(慣れたくはなかったが)


「ちょっとクライフさん、一体どういうことッスか?」

 絶句している一同の中、一番早く我に返ったのはオルトであった。


「男じゃ意味がない、今必要なのは姫ですよ!」

「男?いや、でも文献には確かに姫と…」

「100年以上も前のものですからね〜。翻訳間違えたんじゃない?」


 さらにクライフの横からメルベインが顔を出して手元の文献に目を走らせる。

 空気が危ない。このままだと何か大事に巻き込まれそうな気がする。


 ちょっとお手洗いに…と部屋を抜け出そうとした時だった。


「どこへ行かれるおつもりで?」

「ひぃっ…!」


 光る眼鏡に僕はガッチリ捕まってしまった。


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