六、え?陸軍の所へちょっと顔出して来いですと?
大馬鹿高級将校等の排除しても…世の中、そんなに上手くは行きません。
前話で出て来た発動機の開発は、何とか一ヵ月半で田麩発動機の試作品が完成して、上層部や陸海軍に見て貰って好評を得た。量産型は三年半は掛かるというのに、流石の上層部は難色を示したが、1500馬力級と2000馬力級の発動機を繋ぎ目として、その間に生産ラインやら工作機械やらの準備を確実にするということで承認された。
そして、舞台は移って…
1935年8月12日、陸軍省軍務局長室
夏の暑い日に、源三郎と静巴は陸軍省軍務局長:永田 鉄山少将の所を訪れていた。史実なら、皇道派の青年将校に対する抑制策:綱紀粛正の打ち合わせをしているのだが、満州事変後数ヶ月経過の時に源三郎と静巴が歴史を洗い三昧打ち明けていて、己の不徳を知った将校達が早々に指針変更等をしていた。永田もその一人である。
「御久し振りです、永田少将」
「おお、久し振りだな…確か、満州事変についての処理の会合以来だな」
「はい」
「今回の用件は何かな?」
「はい、実は永田少将が歩兵出身だということで、これを持って来まして…」
源三郎が持って来た箱から、AK74を取り出して永田に渡す。
「それなら兵器局の銃砲課へ持って行っておくれよ」
永田は苦笑しながらも、源三郎からAK74を受け取る。
「……おお、軽いな…これで連射機能付きとは…」
構えてみたり取り回してみたりと、電動ガンで楽しんでいるサバゲーの人のようだった。
「泥に浸かっても、水洗いで直ぐに使えますよ」
「うむ、かなり粘り強いな…」
「ですが、国情・国力を鑑みて…」
「ああ、配備は銃本体と弾薬の大量生産が可能となってからだな…」
源三郎の言い難い訳を永田は理解していた。
「まあ、これについては…」
その時、軍務局長室の戸が蹴飛ばされた。
「永田鉄山!覚悟!!」
軍刀を抜いて現れて来た相沢 三郎中佐が、永田目掛けて襲い掛かる。
だが、相沢の刀は何も切らなかった。いや、切れなかった。何故なら途中で止まっているからだ。
「話の途中なんですが…」
証拠に、源三郎の左手に握られているコンバットナイフで防がれていた。
「き、貴様!退けい!!」
「おめぇが退け!!」
源三郎は相沢を蹴り飛ばして部屋の外へ追い出す。
「うをっ!?」
相沢は派手に転がり部屋の外へ…
「そんじゃ」
そして、部屋の鍵を掛けられた。
その後、異変に気付いた憲兵が相沢を捕らえて相沢は御用となった。
後日、永田は帝國技術研究所に出向いて源三郎と静巴に御礼を言ったという。
「まあ、どうしても更迭しなければと思ってやってしまった」
と呟いたそうだが…
数日後・帝國技術研究所
「まあ、これで開発に…」
「班長!副班長!!海軍人事部より書類が…」
「ん?何だ?」
静巴は部下から書類を受け取る。
「……………あっはっはっはっはっはっ!源三郎君!見てみろ!!」
「はい?……………あ~…」
「どうしたんですか?」
「「海軍予備役決定、少佐昇進で」」
その時の二人は息がピタリで、開発者達の空気はヒヤリだった。
理由は、相沢事件で陸海軍の間でちょっとイザコザが有って、二人の予備役編入という決着だった。
まあ、今まで通り帝國技術研究所の開発責任者という立場と権限は揺ぎ無いが…
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