三五、日米開戦への序曲~対米作戦発令!~
いよいよ開戦…ただ、開戦直前の宣戦布告は流石に国際法違反なので、少し捻りを入れてみます。
1941年11月26日(現地時間)・アメリカ大統領府
「これが我国の貴国に対する最終要求です」
ハル国務長官は、史実の「日本側対米交渉要領乙案に対する回答」…通称:ハルノートに〝似た〟ハルノートを野村 吉三郎駐米大使に手交した。
「…これは、どういうことですか?」
「それが、我が国の回答です」
「…血の気が引くような内容ですな…」
内容は以下の通り。
・日英米中蘭泰蘇の多辺的不可侵条約提案
・日独協定&日英亜細亜協定の破棄及び亜細亜平和機構設立提案
・日本の支那大陸からの全面撤退
・満洲帝國駐在の関東軍の速やかなる撤兵
・内政不干渉
・新型艦艇破棄を含む日本軍の軍備縮小
・フィリピン東方海域雷撃事件の対米賠償要求
・潜水艦サーゴ及び乗組員の引渡。
であった。
内政不干渉と潜水艦サーゴ及び乗組員の引渡以外は到底受け入れることが出来ない。寧ろ、アメリカの方が内政不干渉の項目に反している感がある。
「しかも、よく読むと試案…よくこんなのを出せますね?大統領の気心が知りたい」
「……………」
野村大使の呆れに、ハル国務長官は返事すらもしなかった。いや、出来なかった。自分が作った案では無いからだ。
「分かりました…私は大使館に戻るとします」
「御気を付けて…」
ハル国務長官は野村大使を見送った。少々ショボーンとしていたが…
大統領府執務室
この時、ルーズベルトは少し笑っていた。
「流石のジャップもこの回答は出来まい…」
「よろしかったのでしょうか?これでは戦争になりかねませんよ?」
「やつらにはそれしかないよ…それにジャップの艦隊に動きがあった…」
不安に思うハル国務長官とは対照的に、ルーズベルトは自信有り気だった。
「まあ、奇襲でもしてくれれば良いのだが…」
「そんな良い話は無いと思いますが…」
ハル国務長官の不安の〝一部〟が的中したのは、翌日のことであった。
11月27日・日本大使館記者会見室
ここには、予め各国の記者達が昨日「翌朝に日本大使館で記者会見を開く」と伝えられたので、続々と集まっていた。
「え~只今より、現在日米で交渉している中で日米両国民に取って残念な内容が出て来ました。それはハルノートなるものです。
交渉はで我々日本側の要求は、アメリカ側の要求撤廃唯一つでありました。ですが、このハルノートは、破棄ところか逆に要求を増しました。
それも、今まで新型艦艇破棄と満洲撤兵以上のものであり、これは暴挙と言わざる内容でした。しかも、フィリピン東方海域雷撃事件の一件以来、日米両国の関係が悪化しつつある状況下で、であります。この会見に関する資料は記者諸君に配布しておりますが、ハルノートの主な項目をここで公表させて頂きます。
先ずは…」
報道担当員がハルノートの項目を読み上げている。
尚、これはラジオでも生中継されている為…
「ジャップ!!」
ホワイトハウスに居るルーズベルトの耳にも聞こえている。
「コンチクショウ!これでは支持率がガタ落ちではないか!!」
「(大統領閣下、だからそんな良い話は無いと思いますと言ったのに…)」
ハル国務長官は、怒りまくるルーズベルトをジト目で見ていた。
「こうなったら、ジャップ共を皆殺しだ!!」
だが、ルーズベルトには一つの希望があった。日本艦隊の米領主要地奇襲攻撃を…
しかし、現実はそんなに甘くは無い。
日米交渉は更なる平行線を辿った。日本側の要求は相変わらず米国側の要求撤廃だが、アメリカはそれ以上の要求受け入れに固執して来た。
一方、大日本帝國の方は…
12月1日・御前会議
「…して、アメリカがこちらの要求撤廃に応じることは有りませんでした。尚、ハワイに居る米太平洋艦隊が出撃準備中とのことです」
米国の最新状況を述べる望月局長は淡々としていた。落胆してはいるが、表には出していない。
御前会議では、陸海軍・政府・諜報局等の重要人物が集まっていた。
「うむ…外交での解決は無理か…」
表情を変えないところは、流石今上陛下と言ったところ…と言ったら不謹慎か?
「もし米国と開戦状態に入ったら、海軍は全力で米軍の西進を阻止するつもりです。既に、第一機動艦隊と第二機動艦隊が対米戦第一段階に入ろうとしています。勿論、中止の暗号符丁を打てば即座に引き返します」
山本総長は外交の後ろ楯を示す。
「出来れば、中止の符丁が打てれば良いのだが…」
「第二機動艦隊のことに関しては、あの三人なら大丈夫かと…」
「…そうだな…」
今上陛下はそれ以上の言葉を出さなかった。理由は分かる人には分かる。
さて、この後に帝國国防方針が最終決定された。
計画地域まで攻勢を掛けて、その後防衛線に徹するという基本的な考えである。だが、それは第一・第二段階までという注意書きがあった。これが後の戦局に影響をしていく。
12月3日(現地時間)・アメリカ大統領府
この日、ルーズベルトは頭から湯気が出るほどの怒り狂っていた。
「クソッ!ジャップめ!!要求撤廃をしないと、誠に残念ながら我々は悲惨な決断をしなければならないだろうだと!?ふざけるな!!」
実は、日本大使館からアメリカへ最後の要求撤廃の要望をした。だが、最終回答期限を日本時間の12月8日までするということと、もし回答無し及び回答に妥協無き場合は交渉打ち切りを通告し、同時に〝残念な通告〟をしなければならないという主旨だった。
しかも、これはラジオ・新聞のマスメディアに同時報道されたものだから、流石のアメリカ大統領府は隠すことも出来ずだった。
「こうなったら…米太平洋艦隊に出撃準備命令を出せ!!それとフィリピンの航空隊にもだ!!」
「だ、大統領…落ち着いてください。議会の承認が…」
ハル国務長官は、ルーズベルトの暴言を冷や汗かきながら抑える。
「これは大統領の緊急命令だ!!」
「大統領命令で、問題になったのをお忘れですか!?」
「うむ…分かった。議会に通そう…」
だが、共和党の猛攻なる猛反対により梃子摺るのは別の話。まあ、何とか12月5日に通って7日に出撃完了予定と報告があったが…
12月7日午前四時三十分(ハワイ沖時間)・第二機動艦隊旗艦天城艦橋
「「「…」」」
依子・静巴・源三郎は沈黙していた。
そこへ、通信兵が電報紙を持ってやってきた。
「司令長官!軍令部より入電!!〝富士一二〇八号作戦ヲ発動セヨ〟…以上です!」
「分かった。下がって良し」
「ハッ!」
通信兵は自分の配置へと戻った。
「…あのルーズベルトは、意地が悪いようですね?」
「今に始まったことではないぞ?」
「だが、これで戦争への道に入ってゆく…戦いは、夜明けか…」
三人の呟きは周りに聞こえなかった。
12月7日未明・アメリカ大統領府
「我々はアメリカ合衆国に対して宣戦布告を致します」
「分かりました…」
この部屋には野村大使とハル国務長官しか居ない。
「…こんな筈では…」
「…始まったことは仕方有りません。私はこれで…」
その後、野村大使は大使館に戻って、職員・荷物と共にイギリス行きの船に乗って米国を後にした。
そして、大日本帝國政府に宣戦布告の手交完了と電文を打った。
12月7日午前六時三十分(ハワイ沖時間)・第二機動艦隊旗艦天城艦橋
「これより、艦隊は第一種警戒配置に入る。全艦に発光信号で知らせ」
依子は報告を受けるやいなや、普通の警戒配置から厳重な警戒配置へと支持をした。
「ハッ!」
数分後、発光信号が艦隊の艦艇を駆け巡った。
「…いよいよか…」
源三郎は、発光信号を見ながら夜空を見て呟く。
二度と引き返せない、長く辛い道が待っているのを覚悟して…
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