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三四、日米開戦への序曲~開戦準備!~

 サーゴの艦長は、ジェシカ・D・ショー…何と、男性として偽って海軍少佐に上り詰めた男装の麗人であった。




 彼女は忠誠心はあるが、合衆国に対してであり大統領等の指導者ではなかった。特に、フランクリンは嫌いだと言っている始末だ。






 11月5日・横須賀海軍基地



 源三郎は、サーゴの艦長であるジェシカ・D・ショー(以降ジェシカ少佐)に会いに来ていた。



「やあ、気分はどうだい?」


 源三郎は流暢な英語でジェシカ少佐に声を掛ける。



「ええ、最高よ?捕虜とは思えない程の待遇のおかげで…」


「そりゃどうも…まだ戦争状態にはなってないがな…」


 源三郎は、苦笑しつつジェシカ少佐の向かいにある椅子に座る。



「さて…まあ、色々と質問されているだろうが、私個人の質問に答えてほしい…いや、軍事的質問じゃないから気楽に答えても構わないよ?」


 笑顔を見せる源三郎をジェシカ少佐は首を傾げた。



「…口調からして結構フレンドリーね?」


「海軍兵学校から数えてかれこれ9年かそこらだよ?俺…」


 源三郎はまた苦笑する。



「今気付いたけど…階級、大佐なんだ…」


「まあ、異例の出世速度と言っておこう…色々やってるから…それで質問なんだが…」


「答えられる範囲ならどうぞ…」


 源三郎は目を真剣にした。



「あなた個人のアメリカの事情を御教え願いたい」


「…分かったわ。先ず、ルーズベルトは嫌な奴ね…公開されて無い事実が多いけど、国民の受けは良くないわ。私が合衆国の軍港から出る前の支持率なんて50%を保つのにやっとよ?それに貴方達のことだと、少なくとも妥協点を見出せれば戦争沙汰にもならないだろうって楽天的な感じはあるわ…このことで、何処まで変わるか分からないけど…」


「う~ん…まあ、新型艦艇は旧式戦艦の更新として兎も角、満洲帝國内の関東軍の撤兵は少しずつ行う予定でしたが、満洲帝國から逆に派遣してもらいたいと言われましたよ…ソ連が領土を欲さんとしている様ですから…」


「あら?なら妥協案として、満洲へ米陸軍を派遣とか?」


 ジェシカ少佐の冗談に源三郎は少し驚いた顔をした。



「おお、それは私も考えていましたよ?」


「本当に?」


「ええ、本当です。アメリカ大統領府が、我々の外満洲侵攻の疑いがあるのなら、ソ連の脅威があるので関東軍が撤兵する代わりに、正義のアメリカの軍隊を満洲へ派遣したらどうだ?正義を掲げるのなら…とね」


 源三郎は、正義という言葉を強調した。



「負けたわ…露骨な嫌味だけど、あの大統領には打って付けだわ」


 ジェシカ少佐は源三郎の意見に苦笑した。アメリカは正義を掲げる国だが、今の大統領は本当の正義を掲げているのかと思う位に、日本との摩擦が激化している。



 戦争はしないに越したことではないが、不安定な平和は何処まで続くか分からない。現に、今年の1941年9月1日のポーランド侵攻がそれを示していた。



「それは失礼。だが、あの大統領には言ってやりたいね?あ、そうだ…少佐は本国へ帰るか?今なら潜水艦曳航付の客船を早急に手配するが…」


 源三郎は、鞄から書類を取り出す。



「私はこの日本に残りたいわ…日本と言う国がどういう国か、この目で見てみたいし…それに、日本ではアメリカ人女性として堂々と歩きたいわね…」


「それは意外ですね?」


 その後、ジェシカ少佐は海軍省捕虜課に配属された。






 11月11日、この日は世界が騒然とした。




「アメリカ大統領が戦争を仕掛けようとしている確たる証拠が出ました。今月1日に、フィリピン沖500kmの海域で米海軍潜水艦、サーゴが雷撃を敢行しました。魚雷は我海軍の重巡洋艦にて撃破し、軽巡洋艦から発艦した艦載機によって拿捕しました。臨検の後、押収した書類の中で大統領命令書を発見しました。内容は、〝日本海軍の艦艇と護衛している輸送船を攻撃せよ〟というものでした。これは日米関係に大いなる溝を生むことになりかねない命令であり、それが大統領直々の命令と有っては大いに遺憾であります。太平洋の平和を望んでいるのは誰でしょうか?少なくとも、米大統領にはないでしょう」


 大日本帝國政府・駐英大使館・駐独大使館・駐米大使館が〝フィリピン東方海域雷撃事件〟に対する声明を発表した。






 戦艦天城司令官私室




「これは傑作だな!相手をアメリカ国民では無く、アメリカ大統領に焦点を当てたのは!!」


 静巴はラジオから聴いている声明を賞賛した。



「まあ、これで引くに引けなくなりましたが…」


 対して源三郎は慎重だった。



「しかも、証拠がたんまりと有ってはルーズベルトも反論出来ぬぞ?」


 依子は苦笑していた。ルーズベルトには同情していないのは確かだが…



「さて…作戦準備と行きますか?旭日宮依子海軍少将殿?」


「静巴、貴様という奴は…」


 静巴が悪戯口調で、依子のフルネームと現在の官職をわざと言う。



 10月に緊急特例状が出されて、山口多萌少将は中将に昇進して、依子は大佐から少将へ昇進した。理由は、指揮能力とカリスマ性が基準に達したと、最近軍令部総長に就任した山本 五十六海軍大将が判断したからだ。因みに、堀長官は第一機動艦隊から連合艦隊司令長官として任命さて、第一機動艦隊の後任として堀長官は山口多萌を推薦して着任した。そして、依子は第一機動艦隊の後任として、山口中将と山本総長、堀長官からの推薦により第二機動艦隊司令長官として着任したのだ。



「だが、情勢は極めて不安定…いや、確実に戦争へと行くだろう…」


 依子の目は厳しい目になっていた。




 翌日、第二機動艦隊はトラック諸島へ移動する為に出港した。



 尚、第一機動艦隊は択捉島単冠湾に集結していた。



 だが、これは日米開戦の準備が半分完了したに過ぎなかった。






 11月24日・トラック諸島




「しかし、まさかの少将で機動艦隊を率いるとは…」


「バリバリのハンモックナンバー素通りですよ?」


「それは私達にも言えてるな!」


 依子・源三郎・静巴は三者三様の解釈の御様子だ。



「だが、源三郎?あの作戦は、貴様の発案立案者だぞ?」


「そうですね…約七ヶ月の訓練成果が鍵ですね…」


「まあ、源三郎君のことだ…上手くいくさ!!」


 三人共、不敵な笑みを浮かべる。






 第二次世界大戦中・戦後の世界はどう変わるのだろうか?






 もしかしたら、この三人に委ねられているかもしれない…

 御意見・御感想、御待ちしております。

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