三〇、とある料亭
1941年8月15日・某料亭
「さて、大和型戦艦三隻の慣熟訓練も残り二ヶ月を切ったか…」
話を切り出したのは水を飲む依子だ。
「そうだね…それと空母六隻の慣熟訓練も計画までには終わるよ」
静巴はそう言って冷奴を食べる。
「それに後方支援体制拡充と帝國強靭化は、翌年の末には完成します。まあ、支那大陸に大量の兵士を送らなかった所が大ですね…」
源三郎はご飯を頬張る。
「しかし、君達はあの時から変わらないね…」
「「「そうですか?」」」
「…息もピッタリだね…」
呆れているのは、「高松宮日記」を書いた高松宮 宣仁親王であった。
「叔父上…私達を呼んだのは他にあると思いますが…」
「うん、依子。私は…改めて、君達の見解や意見を聞きたい。まだ腹の中に策略があるのでは?と思っているからね…」
高松宮の質問に、三人は参ったと両手を挙げた。
「やはり…では言って欲しい…」
高松宮はそう言うと目を瞑る。
「はい。僭越ながらも、マトモに米国と戦えば一年から一年半以内に攻勢と守勢が逆転する兆候を見せると思います」
源三郎が口を開く。
「更に、アメリカは物量に物を言わせて進撃して来るでしょう」
静巴は珍しく落ち着いて見解を示す。
「最後に、本土へ本格的直接攻撃で降伏させる。それが道筋だと思います」
依子が見解を締め括る。
「そうか…だが、知っていながら対策が無い…は流石に無いとは思う。君達なら特に…」
高松宮は三人の見解を聞いて目を開く。
「はい。私は先ずアメリカに隙を作って誘う、という戦略を考えています。アメリカは情報収集等で、我々の出方を探ってそれに対策を講じるという、合理的作戦に出るでしょう。我々はそれを逆手に取ります。対策が講じる瞬間に、相手の意表を突きます」
源三郎が対米戦略の謀略を提示した。
「次に我々は敵情把握と、遊撃戦専門部隊に敵艦隊来航に備えて撃退する方針を徹します。攻勢は計画にある所以外、例外を除いて原則攻勢を掛けません」
今度は、静巴が対米戦の基本作戦を提示する。
「最後は、イギリス・スイス・カナダ等の米国とつながりがある国や中立国を経由して、和平工作を積極的に押し進めること…ですね…」
依子がそう言い包めて水を飲む。
「そうか…」
高松宮はそう聞いて溜め息を吐く。
「若手将校は悪くは無いんだが…最近、やいのやいのと言うからな…」
「仕方有りませんよ。しかし、アメリカは一歩も引き下がらないでしょうね…自分の正義を振り翳しましたから…」
高松宮の憂鬱に源三郎は同情をする。
「まあ、あの国は英雄好きですからね…正義に縋りたくなる気持ちも、分からなくも無いのですが…」
「だが、それでもルーズベルトの腹は黒中の黒…嫌な奴じゃな…」
静巴の仮説に依子は呆れてうなだれる。
「まあ、確かに…中国市場を狙っているとはいえ…寧ろ、こっちは厄介な中国共産党をやっつける為に派兵しているんですから、米国でも義勇兵位は出せ的な感じですけどね…」
「まあ、そればかりは…」
源三郎の戯れことに高松宮は苦笑する。
「ああ、そうだ…先日比叡へ行って、比叡と快談していた中で驚かされる真実を聞かされたよ…」
「何がですか?」
高松宮の話題に源三郎が食いつく。
「うむ。艦魂の会議で、艦魂の掟に女性士官を不老にすることを決定していたそうだ」
「…本当ですか?」
源三郎は明らかに疑問する顔を現す。因みに、静巴と依子は話しを聞いていない。
「ああ、比叡は艦魂会議の幹部だからね…」
「しかし何故…」
源三郎の疑問に高松宮は即座に答える。
「一種の呪いだそうだ…艦魂・船魂は女性だからな…軍人として、女性が入るのは…」
「…なるほど…その呪いが不老ですか…」
「そういうことだ」
源三郎の答えに高松宮が肯定する。
「…そうなると、幼馴染がそのままで私が老けて来る…か…」
源三郎は二人には聞こえないように呟く。
「辛いだろうね?」
「辛いのは私だけで十分ですよ…」
その後、高松宮との会話は夜遅くまで続いた。
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