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二五、あれ?ガサ入れですか?―いいえ、強襲です

 日独英陸軍の演習は全て終了した。だが、事態は急変することとなった。






 12月12日・ベルリン総統官邸




「日・英海軍には申し訳ないことをしたな…」


 そう口を開いたのは、独逸第三帝国をどん底から救い上げたゾフィーである。



「いえ、事態が重くなっては仕方有りません。それに、冬戦争介入は陸海軍の上層部から秘密の内諾を頂いておりますから…」


「手回しが良いな…」


 静巴の暗躍により、陸海軍の上層部の秘密内諾取り付けを完了していた。ゾフィーは、静巴の手回しの良さに苦笑した。



「だが、説得させるのに大変であっただろう?」


「はい。まあ、陸軍では永田・石原・東條トリオが、海軍では山本・米内・井上トリオが仕切っているようなものですから…」


「そうか…所で、山塚大佐の姿が見えないな?」


 ゾフィーが源三郎の姿が居ないと気付く。



「確か、ベルリンのホテルで今村陸軍中将の所へ野暮用と…」


「そうか…」


 心なしか、ゾフィーの顔がショボーンとなる。



「しかし、どうして山塚大佐を?」


 不審に思った依子がゾフィーに問う。






「いや、情熱的な…まあ、そんな所だ」


 依子と静巴がそれを聴いた瞬間、目をギラギラとさせた。



「なるほど…そういうことか…」


 ゾフィーも何かを悟ったのか、目をギラギラさせた。



「「「分かり合うまで、話し合う必要があるな…」」」




 一方、源三郎は今村中将と会談をしていた。




「だが、この最新鋭の装備は少数で心許ないよ?」


「まあ、今は派遣だけですけど何れこれらの装備は全軍に波及していきますよ…」


 源三郎は今村中将からの質問に答えた。




 最新鋭の装備とは、今年から試験的導入を始めた一新した歩兵装備のことである。



 小銃・拳銃・背嚢等々が対象であり、軍服まで変わる潔さがあった。



 簡単に標準装備を紹介する。




 九八式自動歩兵銃…単射・連射を可能にした自動歩兵銃。ボルトアクション式ライフルより部品点数は多いが、類似の機関拳銃よりは遥かに少ない。戦場での整備は可能とされている。装弾は弾倉式で30発までで、使用銃弾は三十年式実包と三八年式実包。



 九七式自動拳銃…史実の九四式拳銃を量産性・信頼性等を向上させた拳銃。史実では自殺拳銃と言われたが、軍規(平時は、弾倉を抜く&薬莢室から弾薬も抜く&撃鉄を降ろす)により暴発事故が無かった経緯がある。それでも、ちゃんとした安全装置が欲しいので静巴の協力により、より安全で簡素かつ整備性向上となった自動拳銃が誕生した。



 九七式野戦服…従来の軍服より迷彩色を加えて動きやすいようにした軍服。着心地が良い様に作られている。弐型・参型もあって、弐型は積雪地域での戦闘に適した戦闘白衣と言われるようなものであり、参型は市街地戦を意識した低視認性を考慮した灰色系の迷彩服である。



 九六式背嚢…背嚢と言っても背嚢だけでなく、背嚢の中身も一新した装備品。中は、衛生救護一式・乾燥口糧(一週間)一式・簡易天幕(寝袋付)一式等々である。



 九八式補水器…水筒の容量を1Lまでに大きくした装備。背中にペタリと張り付く感じに、平べったい。背中と背嚢の間に入れる。夏は温くなるが、冬は凍結せずにやや温かく飲める。



 九六式軍靴…従来の軍靴+ゲートル巻きを廃止して半長靴にした軍靴。天候に左右されずに履き心地が良い様に設計されている。他にも弐型があり、つま先部分に厚さ1.5mmの鋼板を入れた軍用安全靴のようなものもある。




 さらに、歩兵一個小隊には小隊附属の二名の狙撃兵を配属していた。




 九九式狙撃銃…史実の九九式長小銃に3~10倍のスコープを着けた狙撃銃。


 試製機関拳銃…一〇〇式機関拳銃の性能・量産・整備性向上の試作機関拳銃。作動不良は無いが、まだ制式化するにはまだまだ改良の余地ありとのこと。



 他にもあるが、一応ここまでが演習派遣の兵士の装備だ。






「そうだな…山塚君や山口君がやってきたことにより、我陸軍もかなり組織が改善してきた…そう言えば、砲戦車も持って来たとか?」


「まあ…超遠距離狙撃として、支援砲撃をやってもらいますよ…何せ、1974年の技術水準ですからね…」


「見た時は驚いた…行進射撃で可動目標に正確無比で射抜いたからね…」


 その後も会談が続いたが、両者共会話のネタが尽きて源三郎が「そろそろあの二人が何かやらかすのではないかと心配」と言って退室した。






 だが、源三郎が総統官邸に入った直後に事は動いた。




 総統官邸・応接室



「失礼しま…す…何が有った?」


 源三郎は三人の髪の乱れに気付いて、一歩も踏み入れることが出来ない。



「入りたまえ」


「は、はい…」


 ゾフィーに促されて、源三郎は応接室へと入って行く。



「え、え~っと…これは公開処刑ですか?」


 只ならぬ雰囲気で冷や汗が滴る。



「実はだな…」


 依子が話を切り出そうとしたその時…






  ドォォォオオオオオオオン!!






 総統官邸の正面玄関から爆発音が聞こえた。




「…こりゃ…緊急事態だな…」


 源三郎は脇から拳銃:USPを取り出す。



「源三郎君!これを持て!」


 静巴は源三郎に何かを渡した。



「九八式自動歩兵銃…良いですね…」


 源三郎は九八式自動歩兵銃を、射撃可能な状態にする。静巴・依子・ゾフィーもだ。



「さて…ガサ入れですか?」


 ドアを少し開けて覗き見をしていたら、執務室に入る暗殺者達の姿が有った。



「…こりゃ、今回はガチですな…」


「攻勢と出よう」


 ゾフィーは、ドアの前に立ってやる気満々の御様子である。



「マジっすか?」


 源三郎は冷や汗をかく。



「突撃!」


 ゾフィーの掛け声と共にドアを蹴飛ばされ、目の前に居た暗殺者達に銃弾を撃ち込む。




 暗殺者達は、いきなりの銃弾に倒れる。数分後には、粗方が片付いたという。






 その後、生き残りから情報を吐かせた所…



「ソ連の工作員だった…」


 ゾフィーは目を閉じて動じなかった。



「何が目的なんですかね?」


「知らない…ただ、これを口実にフィンランドに支援が出来そうだな…」






 ゾフィーの目は狩人の目をしていた。

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