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二四、北海合同演習~対潜演習後編~

 護衛空母天神山艦橋




「おお、UボートのXXI型か…こりゃ聴音じゃあ困難だな」


 報告を聞いた源三郎は苦笑した。



「ではどうしますか?」


 坂田副長が聞いてくる。



「なら受身になるか…我々を囮として?」


 源三郎は坂田に冗談口調で返す。



「正気ですか?」


 流石の坂田も冷や汗をかく。



「所詮、我慢比べの上に狸と狐の化かし合いさ…ならこっちは、賢い狐になってやろうじゃないか」


 源三郎の目が狩人の目になった。



「さて…本艦は単艦行動にて敵潜水艦を誘き寄せる!」


「了解!」


「神風・朝風は対潜攻撃準備を下命!春風・松風は高天神の護衛に当たれ!」


「宜候!」


 発光信号で各艦に伝達されて、与えられた指示の元に行動に移した。



 尚、神風・朝風・春風・松風の四隻は出撃前に改装工事が行われていた。裏では実験改装工事と囁かれていたが…



 改装後のスペックは以下の通り。




駆逐艦:神風・朝風・春風・松風

基準排水量1500屯・満載排水量2200屯

全長102.6m×全幅9.2m×吃水3m×全高30m×甲板高3m×艦橋高15m

機関ディーゼル四基二軸(60,000馬力・軽油350屯)

最大速力38ノット・航続距離18ノットで7200海里

武装:

65口径九八式7.6cm速射砲三基

仮零式連装魚雷発射管二基酸素魚雷一〇本

九八式連装軽対潜呂弾五基一五〇発

九八式40ミリ機銃連装二基単装四基

九六式25ミリ機銃連装二基単装二基

九九式爆雷20発

投射機一基

掃海具一式

12.7ミリ機銃八挺

陸戦装備他

電子装備:九九式対空電探

九八式水上電探

九七式小型水測

九九式小型射撃指揮装置

九九式多機能無線機(電話・電信・電送)

九八式小型電子計算機




 数分後…




「魚雷音探知!距離5500!二時方向!本数二!!本艦に向かって急速接近中!!」


 聴音室より報告が入る。



「面舵一杯!」


 源三郎は即答で面舵を命じる。



「艦長!?」


 流石の坂田副長は、自ら突っ込むコースになる面舵命令に驚く。



「魚雷は二時方向だがまだ距離がある!取舵を切ったら、土手っ腹に魚雷が突っ込んでくるぞ!!今からなら面舵でも間に合う!!」


「面舵一杯宜候!!」


 艦は面舵を切り始めた約三〇秒後に右に傾く。更に魚雷が迫ってくる。



「総員対衝撃姿勢!」


 艦内の全員が物に掴まって、衝撃に備える。



「魚雷接近!距離250…200…150…100…50…現在通過中…100…150…200…250…300…魚雷二本、通過しました」


 直後に魚雷が何も無い後方へ去ったと見張り員から報告が届いた。



「ふぅ…だが、油断するな…敵はウジャウジャ居るからな…」


『了解!』


 直後、駆逐艦神風から連絡が入った。



「神風より報告!雷撃を敢行した潜水艦を発見し撃破したとのことです!!」


「ちゃんと確認したか!」


「撃沈判定で浮上しました!間違い有りません!!」




 その後も潜水艦から魚雷を撃たれたり、回転翼機や駆逐艦が爆雷を落としたりという状況が続く。だが…




「高天神被雷!数三!!」


「バカヤロウ!?何やってんだ!!」


 士官の報告に源三郎は疑惑+呆れを覚えた。



「本艦にも魚雷六!六方からの全方位攻撃!!」


 だが、脅威は天神山にも迫って来た。



「見張りよりも確認!!…ん?前方の三線は距離8500で二時方向に集中しております!!」


「なら取り舵で間に合う!!」


 坂田副長は見張り員の報告で取舵を考えた。



「アホか、敵はそれ見越して10時から11時方向に別の潜水艦を張り付けているぞ」


「何ですと!?」


 流石の坂田副長でも、若手将校の源三郎にアホと言われては怒りを覚える。



「なら速度落として取舵するか?…速力18ノット!取舵1/4!!」


「速力18ノット!取舵1/4!宜候!!」


 艦の速度感が落ちて、ゆっくりと左へ傾ける。



「突発音!魚雷です!!距離3200!!数一二!!」


「何!?」


 聴音室からの報告に坂田副長の顔が蒼白になった。



「やっぱりか…よし!最大戦速!!面舵一杯!!」


「最大戦速!面舵一杯!宜候!!」


 だが、これで間に合うかが問題だった。だが、源三郎は無線機のチャンネルを変えた。



「砲術長!対魚雷戦は万全か!」


 何と繋げたのは砲術長であった。



「はい!何時でもいけますよ!!」


「よかろう…思う存分暴れて来い!!」


「了解!!」


 砲術長は張り切って無線を切る。



「さて…見ものだな…」


 源三郎はそう呟いて、艦橋から左舷から臨める海を眺める。




「良いか!訓練通りかつ冷静にだ!訓示以上!!」


『了解しました!!』


 その頃、砲術長は手短に訓示を示して配置に就かせていた。



「さて…速射砲で魚雷を迎撃とは…山塚大佐の考えることは、奇抜で実用的だな…訓練と経験有ってのことだと、口酸っぱく言われたが…」


 その間にも魚雷一二本が迫って来ていた。



「距離600!」


「400で迎え撃て!!」


「500…450…400!!」


「撃てっ!!」


 65口径九八式7.6cm速射砲三門が何回も火を吹く。そして、次々と水柱が立つ。



「…雷跡、確認出来ず…成功です」


 結果は全て撃破だった。






 演習は夕方まで続けられていた。結果は…引き分けに終わった。あの後に、潜水艦と天神山の一騎打ちで、同時に負け判定が出てしまったからだ。



「ふぅ…まあ、良い経験にはなったな…」


 日が沈む海を眺める源三郎は、何処か懐かしい雰囲気を醸し出していた。






 だが、事態は急を告げることとなった。

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