二一、北海合同演習~航空編~
09:00・北海海上・空母翔鶴艦橋
「いや~先に航空戦からですか…」
源三郎は、演習内容を確認して苦笑していた。
未だに日本海軍の航空戦術は、格闘技戦術が主流なのだ。
「まあ、カンフル剤にはなるかな?」
因みに、九六式艦戦・九七式艦攻には無線機が着いているが空戦向けではない手に取って話す形式である。まだインカム導入には、踏み切っていない。更に、九六式艦上警戒機からの空中管制による空戦もまだ発展途中だ。
艦戦・艦攻・警戒機が発艦してから十分後…
「全機!先ず敵戦闘機を狩れ!!いいな!!」
帝國海軍初の女性戦闘機中隊長、坂本 智子中尉が無線機で中隊機9機に指示を出す。
『おう!』
「掛かれ!!」
坂本中隊は、空母グラーフ・ツェッペリンの上空に居るBf109ET(Bf109Eの艦上戦闘機版)に目掛けて突進した。
そして、数十分後…
「…手酷くやられたな…」
源三郎は若干汗をかいていた。
「うむ…ロッテ陣形は聞いていたとは言え、ここまでとは…」
依子は情報を纏めた資料を見て、聞くと見るのとでは違うと実感していた。
飛行甲板には、ペイント液方式の演習弾のペイント液が所構わずにつきまくった九六式艦戦と九七式艦攻が各10機程仲良く並んでいた。
「まあ、九七式艦攻に関してはリミッターを掛けているからかもしれないが…それでも痛いな…だが、これで石頭の考えも変わるな!」
静巴は前向き思考が働いていた。尚、現在の天山は最高380km/h・巡航260km/hまでしか出せない様に、リミッターを掛けている。
「まあ、これで石頭が若干居る航空本部に風穴が開くね」
後ろから堀長官が出て来た。
「そうですね、同意見です…まあ、他にも三菱さんには苦労を掛けますが…」
「それは君達に任せているよ…楽しみでもあるけどね」
堀長官は悪戯っ子の様な笑顔を見せた。
「ですが、これでパイロットの自信が…まあ、半数以上が教官レベルなので、この経験を活かしてヒヨッ子達に教えたりとかして対処出来れば何とかなると思いますけど…」
「通信参謀がそこまで言うか?」
源三郎の思考に依子が少し笑ってつっこむ。
「私は翔鶴艦長も兼任しております。ですから、航空機に関しても研究や思考を重ねなければならないので…」
「冗談じゃ。堪忍してくれ」
源三郎の真面目な回答に依子は苦笑する。
一方、まだ残留している坂本中隊はというと…
「隊長!残機集結!隊長機含めで6機です!!」
「一個小隊はやられたか…まあ、ヒヨッ子だから仕方ないかもしれんが…全機!警戒しつつ聞いて欲しい!!」
僚機兼副隊長の小松 孟曹長から報告を受けて、坂本は無線を全通にする。
「私は出港前に艦長から英・独の空戦を聞いて来た。特にドイツはロッテ…私が今までの航海中訓練に指示した編隊なんだが、それを主としている。今回の戦闘で分かっただろう…格闘戦をしている間に、後方で待機している僚機が喰らい付く…これが、欧州の戦いだ。それに今回はまだ遅いBf109ETだ!最高速度は550km/h!!」
『40km/hも速い!?速いとは思っていたけど、予想以上に速い!!』
どうやら、まだ相手の速度を正確に読み取っては居ないようだ。
「だが欠点もある!我々の方が約三倍も長く飛び続けられることだ!Bf109ETは現在補給中だ!そこを叩け!!だが、その前に残っている山崎中尉率いる天山雷撃隊に、囮要請をしなければならないな…』
『(うわ~…天山雷撃隊の山崎中尉…乙や~)』
坂本の発言に、坂本中隊機5機全員が冷や汗をかいた。尚、天山雷撃隊率いる山崎 早志海軍中尉は坂本の一期後輩の中隊長で、何時も坂本のやや無茶のある要求を渋々聞いている…一回、断ったら後から来た鉄拳が痛かったそうで…
数分後、天山雷撃隊が超低空でグラーフ・ツェッペリンに肉薄攻撃を仕掛ける。
勿論、グラーフ・ツェッペリンからは歓迎の弾幕が直葬レベルで迫ってくる。
天山雷撃隊は数を減らしつつ、航空魚雷を投下する。そして、グラーフ・ツェッペリンに五本の水柱が立つ。勿論爆薬・信管は抜いており、衝撃による水柱だ。
「全機!飛行甲板に強襲せよ!!」
水柱が上がった瞬間、坂本は無線で強襲を指示して急降下を掛ける。
「マジか…」
小松も坂本の後を追うように急降下を掛ける。
尚、グラーフ・ツェッペリンは衝撃で一瞬ではあったが、対空砲や機銃の射撃が止まっていた。
「おりゃ~!」
坂本は射撃ボタンを押して、まだ飛行甲板に居るBf109ETに機銃弾を叩き込む。
結果、全部が修理不可能の判定が出て、Ju87の艦上爆撃機やその爆弾等が誘爆して、飛行甲板も使えない状況となった。
一方、帝國海軍の空母に損傷は無かった。だが、英国海軍の空母は日・独の航空隊への防空戦闘で手一杯な状況だったとか…
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