一八、会合
1939年9月16日・皇居会議室
ここに、満州事変についての処理の会合(通称:満洲事後処理会合)のメンバー+αが集まった。
「朕が皆を招集したのは他でもない…第二次世界大戦が勃発していないが、緊張状態に変わりは無い…もし開戦となって、対策はあるかという忌憚無き意見を聞きたい。それと、世界情勢も聞きたい」
今上陛下が今回の会合の開口を述べた。
「はい。先ずは情勢でありますが、現在は日中満の関係は良好であり、特に満洲帝國は国際的にも評価は高く外系資本も入ってきております。まあ、大連・新京を中心とした南部に集中しておりますが…」
1932年に発足した「皇室直属諜報局」の局長・望月 智夜が、満洲帝國の内情の一部を簡単に纏める。
「それは仕方ない。ノモンハンの一件からそうなるのは当然のことだ」
ノモンハン事件で勝利へ導き、現在は中央で陸軍次官に籍を置いている石原 莞爾中将が同情する。
「しかし、満洲は兎も角中華民国はどうなんだ?あそこは、我陸軍が一個師団を派遣して国民政府軍と共に共産党軍と戦っているが、まだ中国の安定には先が長い状況だ…」
史実より早く陸軍大臣に就任した東條英機陸軍大将が口を開く。
余談だが、東條大臣は評価が二つに割れていた人物であった。だが静巴が「陸軍大臣として籍を置いて、永田・石原・東條トリオで陸軍を抑えれば上手く行く!」と発言した。史実の好評の中には、「天皇陛下には絶対忠誠であり、昭和天皇陛下からも信任されていた」や部下思い等がある。だが、部下思い故か足元しか見えていなかったと言われ「村役場の戸籍係が一番適任」と評価される一面もある。そこで、適材適所で陸軍大臣に籍を置いて、情報等を流して陸軍を上手くコントロールさせるという策を静巴は編み出したのだ。
「それにつきましては、我海軍から陸軍と一緒に作戦を考えています」
連合艦隊司令長官の山本長官が口を開く。
「それはどんな作戦ですか?」
「それは諜報局と共にやる上にまだ準備段階です。これは後に詳しく話しをしますので…」
「…分かりました。今までの犬猿の仲では我帝國は生き残れますまい…」
尚、この山本長官の作戦は数日後に立案段階ではあるが、東條大臣と望月局長を大いに驚かせたのは別の話である。
「それと、仮想敵国である米国・ソ連の情勢ですが…」
「何か分かったのか?」
「はい。米国の大統領府なのですが…」
望月局長はそこまで言って口をモゴモゴとさせる。
「…苦しゅうない。言いたまえ」
「…はい…」
今上陛下に促されて、望月局長は渋々口を開く。
「実は、満洲帝國の領土を外満洲まで広げようと日本が画策している…という、事実無根な情報が出回っているという情報を入手しました」
望月局長の衝撃的な報告に、出席した全員が唖然とする。
「…米国はそんな噂を信じておるのかね?…いや、噂に失礼な情報であるな…」
流石の今上陛下も落胆の顔を隠せない。
「いやいやいやいやいや。ノモンハンに勝ったとは言え、そこまでの兵力なんて満洲帝國軍と合わせても無いぞ…」
満洲事変を成功裡に導いた石原次官でさえも冷や汗をかいている。
「とりあえず、もし抗議等が来たらそんなのは無いと突っぱねましょう…アメリカは、我帝國を戦争へ引きずり込む気満々のようですからね」
陸軍参謀総長に就任した永田 鉄山陸軍大将がその場を沈める。
「あと、ソ連に関しては証拠作りに励んでいる模様です」
ソ連側の動きを報告する時の望月局長の表情はうんざりしていた。
「ソ連もか…源三郎君、静巴君…君達の言う通りになってしまったね…」
今上陛下は、今まで会議に口を開かなかった源三郎と静巴に視線を送る。
「はい。この世界でも、戦争への道を歩んでおります」
「これこそアメリカ…いや、米大統領フランクリン・デラノ・ルーズベルトの願いであります。彼の狙いは中国の市場の獲得。その為に、我日本を潰すことにあります。だからソ連と手を組んだ。そこには、敵の敵は味方という単純かつ危険な論理を簡単に使ってのことです…結果は私達が言った通りになってしまうでしょう…」
源三郎と静巴は、持論を冷静かつ意志強く述べる。
その後、対米戦を主眼とした対策を述べたがまだ立案段階で、今回の会合では結論は出なかった。だが、結果的にはここで結論を出さなかった方が良かったのかもしれない。
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