一三、臨時英国駐在武官となりましたが、任務を終了して無事帰国しました…
独逸での一件は、日・独・英・米・露の新聞社が中心に、源三郎・静巴・依子の三人が写った写真と記事をトップ面にして世界各地を駆け巡った。
このことで、軍令部からの指令により約ニヶ月の英国臨時駐在武官をすることになった。
その間は、色々と欧米の情勢を主に情報収集をしていた。
尚、独逸製工作機械や追加のUボートXXI型の機関部品は天ノ川丸の貨物倉庫に押し入れて日本へ回航された。
1937年3月10日・駐英日本大使館駐在武官室
駐在武官室に一枚の電文が入って来た。
〝ジョージ六世ノ戴冠記念観艦式ニ長門ヲ派遣スル〟
「…あら~…大丈夫かな?」
受け取って読んだ源三郎の正直な心境であった。大和計画と並行して長門計画なるものを発動して、2月に戦艦長門の改装作業及び慣熟訓練完了と報告を受けているのだ。
因みに、大和計画は新造艦艇の大建造計画に対して、長門計画は既存艦艇の大改装計画である。
「まあ、流石にな…だが問題無いだろう!こんなこともあろうかと、偽装とかの指示をしたからな!!あっはっはっはっはっはっ!」
静巴は若干の心配をしたものの、大笑いをして気にしなかった。
「まあ、他にもそうですけどね…」
源三郎は業務に戻って、報告書の書き続ける。内容は東欧に関する情報だ。
5月20日・英国スピットヘッド沖
招待された戦艦長門に三人の姿が有った。
「総員!ジョージ六世に敬礼!!」
依子の合図で、甲板に居る将校が観閲艦のヴィクトリア・アンド・アルバートに敬礼をする。
戴冠観艦式も終わり、長門は他の戦艦の艦魂と雑談をしていた。
「こんにちは長門殿、私はアドミラル・グラーフ・シュペー…シュペーと呼んでくれ。よろしく」
「長門だ。よろしく…」
アドミラル・グラーフ・シュペー(以後シュペー)は独逸のドイッチュラント級装甲艦三番艦である。
「総統閣下の救護には感謝している」
「何、それは…あの三人に言ったらどうか?今、艦内で休憩している筈だ」
「良いのか?」
「勿論」
長門はシュペーを連れて三人の所へ案内をする。
戦艦長門・防空指揮所
源三郎・静巴・依子は、イギリス戦艦ネルソンの艦魂と雑談をしていた。
「なるほど…亜細亜は現地の駐留軍と共に貴国が揉め事を加担するか…」
ネルソンは、三人の話を聞いて日英亜細亜協定を理解する。
「そうですね…欧州の情勢は刻々と変化して、徐々に危ういものとなってしますからね…」
源三郎はネルソンの理解を肯定した。
「まあ、そちらのエンペラーの娘さん相手とあっては、チャーチル卿もイエスと言わざるおえまい…」
「それはどうも…しかし、嵐の前の静けさじゃな…欧州はこれからどうなってくるだろうか…」
「それは分からないが、ソ連が共産主義を広げようとしているのは違いないかもな」
そこへ、長門とシュペーが入って来た。
「おお、シュペーか」
「どうも、ネルソン…」
二人(?)はお互いを睨め合っている。
「…源三郎、未だにイギリスとドイツは仲が悪いのか?」
「若干の問題は有るには有りますが…そこまで酷くはないと思いますよ?」
二人が睨み合ってる間、源三郎と依子は推測を立てていた。
「まあ、反共としては良き仲間かな?」
最初に沈黙を破ったのはネルソンだった。
「そうだな…」
ネルソンの発言を肯定したシュペー。
「おお、こんな時間か…皆で、午後の御茶の時間としないか?」
ネルソンの腕時計の針は三時を指していた。
「賛成!」
静巴が嬉しそうに手を挙げる。
「私も!」
依子も静巴同様に手を挙げる。
「まさか誘われるとは…」
源三郎は苦笑してたが喜んでいた。
「交流には持って来いだな」
長門は少し笑っていた。
「…だな…」
シュペーも皆の後を追う。
その後は和やかな御茶会であった。
数日後、三人は英国駐在武官の任を解かれて、戦艦長門に同乗して日本へと向かった。
7月1日・横須賀鎮守府建造ドック群
「…暑いな…」
源三郎と静巴は依子と別れて、建造ドックの見学をしていた。
「浅間型巡洋艦の浅間の進捗状況は?」
「はっ!数日後には進水式を行って、艤装作業に入る予定です。尚、竣工日は年内を予定しております」
担当士官から報告を受けた静巴は、うんと頷く。
「よし、その予定で…それと空母の進捗状況は?」
「やや遅れている所もありますが、来年前半にはマル二計画の四隻が完成・マル三の六隻とマル四の六隻は来年内には何とか…」
「分かった…あとは、陸軍さんか…」
担当士官の報告を聞いて、静巴は空を見上げる。
「…何時になったら、この青空を存分に眺めることが出来るのだろうか…」
「さあ…」
源三郎と静巴の試練はまだまだ続く。
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