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九、極秘の指令書を受け取りました…

 1937年1月4日・帝國技術研究所



 戦車の量産も順調に行き、発動機も三菱と共同開発の1500馬力級の金星エンジンが生産開始された。2000馬力級発動機も、中島と共同開発で量産向けの試作発動機に取り掛かっている。



 だが、仕事始めの日に海軍省から手紙が届いていた。






「静巴さん…嫌な予感しかないのは気のせいですかね?」


「私も思うが…自ら突っ込むのも一興ではないか!!」


「…訂正、二重の意味で嫌な予感しかなくて、今的中した…」


 そして、源三郎と静巴は側車付自動二輪で海軍省へ向かう。



 海軍省



「え~っと…次官か…」


 源三郎は手紙に書かれていた部署を探していた。



「あったあった…」


 部署を見つけてノックをする。入れという返事が返って来た。



「失礼します!山塚 源三郎、ただいま出頭しました!!」


「山口 静巴、ただいま出頭しました!!」


「うむ…どうだったか?予備役入りで民間企業と技研の両立は?」


 この部屋の主、山本(ヤマモト) 五十六(イソロク)海軍中将(海軍次官)が二人を出迎えた。



「中々楽しいものですよ?次官は…カジノで生計が良いでしょうね」


「冗談がきついな…まあ、考えてはいたが…」


 噂通りの博打好きである。



「なら私がお相手になりましょうか?」


「う~ん…静巴君相手は遠慮するよ…全部持ってかれてしまう…」


 だが、博打でも静巴とはやらないのはこの世界の特徴(?)でもある。



「まあ、今思えば…満州事変についての処理の会合、人事制度改革に、五・一五事件阻止並びに二・二六事件即応鎮圧等からもう一年近くになるか…」


「ま、二・二六事件の時は流石に急を急ぎましたから、水冷式発動機とかに換装した74式戦車改に乗って、反乱軍に突っ込みかけましたが…」


 源三郎は、二・二六事件を思い出す。




 1936年2月25日未明・横須賀鎮守府



「米内中将…夜分に申し訳ございません」


「いや、別に良いよ…陸軍の青年将校がクーデターを画策しているからな…」


 源三郎の隣には米内(ヨナイ) 光政(ミツマサ)海軍中将が居た。



「だが良いのか?未来から来た戦車を引っ張り出して来て…」


「大丈夫ですよ…約八ヵ月後に納入予定の九六式砲戦車のモデル戦車ですからね…逆に陸軍は肝抜かしますよ」


 米内の懸念に源三郎は苦笑で答える。



「なら良いがな…」


 そして、陸軍青年将校が行動を起こした翌26日となった。






 2月26日・帝都東京




 この日は雪が積もっていた。だが構い無く、皇道派の影響を受けた陸軍青年将校が武器を手に取って、政治腐敗の撲滅と農村の困窮解決を狙って反乱を起こした。が…



「陸軍省に大量の土嚢が積み上げられた遮蔽物と警備を発見!占拠が出来ません!!」


「総理官邸はもぬけの殻!失敗の模様!!」


「国会議事堂に土嚢による遮蔽物発見!海軍陸戦隊が警備に当たっている模様!!」


 どれもこれも、占拠が出来ない状況に成っていた。そこへ…



「こちらに戦車接近!噂の新型試作戦車です!!」


「何!?」


 下士官の報告に、反乱軍のリーダーが顔を凍りつかせる。何故なら、砲の口径が105ミリとか訳の分からん大きさの大砲を積んだ戦車を開発していると知っているからだ。



「ど、どうしますか?」


「…陛下の御決断があれば、d」


 その時、別の下士官が紙を持って蒼褪めた様子で入って来た。



「報告します…これを…」


「…こ、これは…」


 反乱軍のリーダーが見たのは、反乱軍は敵と判断することと、即時に投降すれば罪に問わず原隊に復帰出来ると書いてある紙ビラであった。



 結局、事実を知った下士官・兵士は将校を取り押さえて投降した。



 その後、皇道派・統制派の対立は無くなって行った。というか、派閥が無くなった。






 そして話は現時点に戻る。




「早速ですが、用件は?」


「うむ、君達を現役復帰させて…連絡武官として、イギリスとドイツに行ってもらう」


「……………」


 山本の言葉に源三郎の思考は強制一時停止した。



「…え?え?」


「まあ、実はこれを頼みたくてな…」


 山本は、机から茶封筒に入った書類を渡す。



「…これは、イギリス・ドイツの工作機械購入の取り付けですね?」


「まだ陸軍は二・二六事件の影響がまだ有って、代わりに軍での購入取り付けは海軍が行うこととなった」


「ですが…博打好きの山本次官がそれだけで満足ですか?」


 静巴の指摘に山本はただただ苦笑する。



「あははは…こりゃポーカーでも負ける訳だな…そうだ、これだけじゃあわしは満足出来ん」


「では、茶封筒に入っている書類は…」


「調印書だ…もう二年前から話を始めで一ヶ月前で着けてあるから、あとはサインだけだ」


「なるほど…では、船はどれで行くのでありますか?」


 源三郎の質問に山本は口元をニヤリとさせた。



「確か欧州行きの天ノ川丸が有ったな?」


「ええ…倉庫完全に海軍が貸し切ってですね…薄々は気付いていましたけどね…」


 源三郎は悟るように山本の意を理解した。



 翌日、源三郎と静巴はもう一人を連れて欧州行きの天ノ川丸に乗船した。






 1月5日・貨客船:天ノ川丸甲板



 清水港を離れる天ノ川丸の甲板で、二人は一人の同行者と自己紹介を交わす。



「初めまして、山塚 源三郎です」


「山口 静巴です!」


「初めまして…旭日宮(キョクジツノミヤ) 依子(ヨリコ)じゃ」


 同行者が皇族であった。



「しかし…今上陛下も大胆というか何と言うか…」


「まあ、父上は…現場で経験を積ませるからの~」


 そして、今上陛下の娘でもあった。



「これは大いに楽しめそうだな!」


「私は波乱の毎日だと思いますけどね…」






 源三郎の試練(?)は続く。

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