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デモンブレイク

作者: 鈴雪

 今から十六年前、突然、魔界とのゲートが繋がり、魔族が地上の人間に戦争を仕掛けてきた。

 突然の侵略に最初は戸惑った人類だったが、共通の脅威の前にばらばらだった国々は手を組み、ゲート付近の領土を奪われてしまったものの、その周囲に人類連合が防衛線を張ったことにより、戦況は均衡、なんの進展もないまま仮初めの平和が過ぎた。

 だが、その平和も脆くも崩れ去る。最前線国家の一つ『ヤマト』の、前線にそこそこ近い場所に位置する街『フガク』。

 そこを突然表れた魔族の部隊が襲ったのだった。


 遠く、城壁の外から轟音が響く。相当激しい戦闘が繰り広げられているのが容易に想像できた。

「皆さん慌てないで、ゆっくり進んでください」

 駐屯兵の指示に従い一般市民は避難所へと急ぐ。俺、天野刹那もそれに従い避難をする一人だった。

が、突然背後からドン! という腹に響く轟音。 

 一瞬、誰もかれもが動きを止め、そして、ゆっくりと振り向く。

 そこにそいつはいた。

 大地を踏み砕く脚、全てを引き裂くであろう爪、如何なるものも砕くであろう牙、太く逞しい尻尾、全身を包むはうねる様な光沢を持つ赤い鱗、その強大な力を秘めてることを悟らせるそばの建物と比べても倍ほどの大きさを誇る巨体。

 そこに、ドラゴンがいた。魔族の軍の中でも群を抜いてやばい存在だ。それが前線を突破した?

 ドラゴンが大きく息を吸う。

 まずい。ブレスだ。それを理解し、周りから悲鳴が上がった。

 我先にその明確な『死』から逃げ出す人々。それを俺はどこか他人事のように感じていた。『緊急時こそ冷静たれ』という亡くなった母の教えの賜物だろう。

 死んだなこりゃ。短い人生だった。どこか冷静な自分がそんな分析を行う。だけど、

「うあーん!!」

 子供の泣き声にそんな自分がいなくなった。

 泣き声の方を見る。そこで、五歳くらいの女の子が倒れて泣いていた。気づけば俺はそっちに向かって走っていた。子供の泣き声は本当に苦手だ。なんでか放っとけない。

 見れば、ドラゴンの頭がちょうど地上から直角に立つように止まっていた。後は吐き出すだけだろう。

 ああ、畜生。もう少し待て。

 女の子を抱き起し、担ぐ。間に合うわけがない。黙れうるさい。覚えてる防御魔術を展開する。だから意味がないって。うっさいこのヘタレ。子供が泣いているのに冷静ぶるんじゃないこの馬鹿。

 ドラゴンに背を向けると同時にドラゴンの首が動く。こちらに向かって、その閉じた口の隙間から灼熱の炎が漏れ出ている。

 俺は女の子を庇うように抱きしめる。ああ、意味がないだろう。俺もこの子も一瞬で焼き尽くされる。ああ、でもだからってなにもせず、子供が泣いてるのを見ながら死ぬよりはずっといい死に方だろう。

 ドラゴンがブレスを吐き出す。俺は目をつむる。

 ドン! という二度目の腹に響くような衝撃がすぐそばで起きた。そして、灼熱の炎に俺は焼き尽くされ……なかった。

 え?

 安堵よりも疑念が強く、そっと目を開く。そこに……俺たちを庇うように鋼鉄の巨人が立っていた。

「GA?」

 『ギガンティックアーマー』略してGA、それは人間が英知を集めて作り出した、対巨人ドラゴン用人型兵器。

 現在は各国で量産され、配備されている。人類が魔族と対等に戦えているのも、この兵器の功績が大きい。

 でも、これは見たことのない型だ。ヤマト製じゃないし、他の連合のとも違う。

 それは片足に大型のアーマーがあった。なぜか、片方にはない。肩も左右でデザインが違う。

 そして、それは片手にトンファーを持っていた。ひゅんひゅんと風切り音を立てて振るわれるトンファー。もしかして、あれでブレスを弾いたのか?

 そんな疑問を抱いていたら、それは、アーマーのない方の足にそのトンファーを装着する。あ、だから片足にはアーマーがなかったのか。

 そこまで理解してやっと息を吐く。た、助かった。

 見ればドラゴンが遅れてやってきた駐屯部隊のギア二体と交戦状態に入っていた。安心はできないけど、俺たちが逃げるくらいの間はもってくれるか?

 遅いと思う反面、助かったと安堵して少女を下す。

「あ、あの、お兄ちゃんありがとう」

 おずおずとお礼を言ってくれた女の子の頭を撫でる。

 がしゃんと、いきなりギアが跪いた。恭しく、まるで王の御前の臣下のように。

「な、なんだよ?」

 俺の問いに、当然だが機械のそいつは答えない。ただ、代わりにがしゃっとその胸部が開く。

 そして、彼女が出てきた。女の子がわあっと場違いな感嘆の声を上げる。

 歳の頃は二十代だろうか? ふわふわと柔らかそうな長いピンクの髪、紫色の綺麗な瞳に通った鼻梁、それらが絶妙なバランスで配置された見事な顔立ち。

 すらっと伸びた長身に抜群のプロポーションを誇る体。その体をおおよそ戦闘向きに見えない漆黒のように黒い服に包み、その貫けるように白い肌と相まって彼女の存在感を引き立てる。

 忌憚のない感想を述べよと言われれば、女神という気恥ずかしい答えも返せそうなほどの美女だった。

 でも、なんでだろう、こんな美人、初めて見るはずなのに、俺は彼女のことを『懐かしい』と思っていた。

 対し彼女は俺を見て、目を丸くしていた。

「ドレッド、彼がなの?」

 鈴が鳴ったような透明で綺麗な声。でも、ドレッドってなんだ?

 彼女は一瞬躊躇いを見せてから、きっと俺を睨んだ。

「乗りなさい」

「え?」

 いきなりの要請になんなのか理解ができなかった。

「この子、ドレッドノートに乗るように言ったの」

 えええ?

 の、乗れって……こいつに?

「い、いきなりそんなこと言われても……俺、操縦の仕方なんてわからないですよ!」

 だが、彼女は腰に差していた拳銃を引き抜き、こっちに突き付けてきた。

「つべこべ言わずに乗りなさい!」

「い、イエスマム!」

 その迫力と拳銃に俺は屈したのだった。


 女の子を遅れて来た兵士に預け、俺は『彼女』がドレッドノートと呼ぶギアに乗り込んだ。

 コックピットに乗り込む。前後に二席の座席があり、俺は空いている前の席に座る。

「いい、細かいサポートは私がするから、あなたは思った通りに操縦しなさい」

 そ、そんなこと言われても、どうすればいいんだろう?

 戸惑いながら操縦桿に触れ、途端に頭の中に大量の情報が流れ込んできた。それに一瞬顔を顰める。

 こ、これって……その情報に従い、ドレッドノートを『立たせる』

 で、できる。動かせる。こいつをどう扱えばいいのかがわかる。

「私だけの時よりもパワーが高い。これなら!」

 彼女のどこか興奮気味の声。

 俺が前を睨むと、ドラゴンと戦っていたギアが倒される瞬間が映った。もう一度操縦桿を握り、息を吸う。なぜかはわからないけど、こいつならなんとかなるという確信があった。

ええい、こうなったらヤケクソだ!

 ドラゴンに向かって駆け出す。ぐんっと体が引っ張られ、景色が後ろへと流れていく。

 一気にドラゴンとの間合いを詰めて、肩からタックルする。城壁に向かって、弾き飛ばされるドラゴン。

 これ以上、人様の庭で暴れさせない!

 拳を握りしめて殴りつけようとして、ドラゴンがブレスを吐く。

 とっさに跳躍し、逃げる。一瞬でドラゴンの姿が小さくなる。普通の建物の数倍はあるはずの城壁の頂点にすら達しそうな高さ。なんだこの跳躍力?!

 そして、重力に引かれて地上に向かい、着地。想像よりも体に襲いかかる衝撃は小さかった。

 改めてドラゴンと向かい合うが、今ので頭が冷えた。興奮に突き動かされて無手で突っ込んだけど、落ち着いた以上、もう拳とかで肉弾戦をする気はない。

「な、なにか武器は!」

「これはどう?」

 俺の問いかけに彼女がそれを選択。

 左膝のアーマーが展開し、中から一丁の拳銃がせり出した。

「照準の補正はこっちでやるから」

 こんなもの効くのか? なんて疑問が浮かぶが、とにかく構え、撃つ。大砲のような銃声とともに、弾丸が飛翔する。

 しかし、ドラゴンはその巨体からは想像できない俊敏さで避ける。

「外れた!」

「大丈夫よ」

 なにが大丈夫なのかと問い返そうとして、ドラゴンに何かが命中した。

 え? なんで?!

 疑問を抱きながらもさらに撃つ。と、それが起きた。

 またも避けられるが、当たらなかった銃弾の軌道が曲がった。そして、ドラゴンに弾が突き刺さる。

「うそお?!」

 どうなってんだよこれ?! まるでインチキだ。

 だが、どうやらこれではダメージは与えられても、決定打は打てないらしい。そのままドラゴンが突っ込んでくる。

 さらに、その鋭い爪が振りかざされる。

「うお!」

 避ける。避けながら銃を撃つ。しかし、弾は確かにダメージを与えてるがそこまでだ。

 カチカチとトリガーを引く音だけが空しく響く。

「弾切れ!?」

「カートリッジ!」

 彼女がカートリッジを代えようとするが、遅かった。

 目の前に爪が迫る。

「っ!」

 咄嗟に左腕でそれをガードする。衝撃、ドレッドノートが後ろに弾かれる。

「きゃあ!」

 地面を転がるがすぐに起き上がる。だが、今ので持っていた銃がどっかにいってしまった。くそ。

「左腕、前腕部装甲にダメージ、戦闘行動に支障無し」

 見れは、装甲にくっきりと爪痕が残っている。腕が千切れたかもしれない、と思ってたがそこまではいかなかった。

 見た目以上に頑丈みたいだな。

「他には武器ないの?」

 正直、素手で戦える相手じゃないよな。

「なら、これは?」

 その言葉とともに、今度は右足からそれが表れる。右手にそれを執るドレッドノート。

 それは、刃のない柄だった。

「いや、冗談はちょっと」

 そこまで言って、それが起きた。

 柄の先から光が漏れだしたと思ったら、その光が噴き出し刃を作った。

「もう、なんでもありだな」

 二度目のびっくりどっきり機能に呆れながらそれを構える。

「しっ!」

 叩きこまれた動きに従って踏み込み刃を振るう。ドラゴンがそれを爪で受けて、爪を切り裂いた。

「っ!?」

 ドラゴンが大きく後退する。す、すごい切れ味。

 ドラゴンが大きく息を吸い込む。飛んでドラゴンブレスを回避。さらに、薙ぎ払うように首を振る。くそ、近づかせないつもりか!

 どうする?

 逃げながらどうすれば接近できるか考える。

「一気に近づければなんとかなる?」

 なんて彼女が聞いてくる。

「近づけたら今度は倒しますよ」

 てか、倒せないとヤバイ。

 そう、と彼女は返して、

「脚部シールドパージ、出力をルーンセイバーに集中」

 その言葉と共に両足のアーマーが外れる。え?

「機体は少しは軽くなったし、間合いも伸ばした。やっちゃいなさい」

 確かに、さっきよりも機体が軽い。これなら!

 逃げるのを止め、ドラゴンに向かい合う。

 じっと間合いを計り合い……先にドラゴンが動いた。

 ブレスを吐くために息を吸い込む。同時に俺は飛び出す。

 放たれるブレスをぎりぎりで回避。装甲の表面が焼ける。が、無視。間合いを詰めて、剣を振りかぶり、

「はあっ!!」

 降り下ろした。ドラゴンの動きが止まる。そして、一拍遅れて、ドラゴンが斜めにずれる。

 袈裟から両断されたドラゴンが、ドスンと重たい音を立てて地面に落ちる。それを見て、俺は体から力が抜けた。お、終わったあ。

 見れば戦闘音もない。どうやら戦闘そのものが終了したようだ。

 なんか疲れた。とても疲れた。このまま寝てもいいんじゃないかな? なんて誘惑に駈られて、とんとんと肩を叩かれる。振り向くと、彼女が笑っていた。

「ありがとう。なんとかなったわ、あ、自己紹介忘れてた。私は朱音。あなたは?」

 あまりにきれいな笑顔に見とれかけて、その問いにはっとする。

「刹那、天野刹那です」

 なんとか名乗ると、彼女が手を差し出してきた。

「そう、天野刹那くんね。これからよろしくね。天野くん」

 はて、おかしな単語が入っていた気がするけど、気のせいだよな気のせい。  俺は差し出された細くて柔らかくてすべすべした手に握手した。

 しかし、気のせいではなかった。この後、俺は彼女、朱音とこのドレッドノートとともに魔族との戦いに身を投じることとなるのだった。

 なんでだよ。


鈴:「先日、サークルでロボットを扱った題材の作品を作る企画がありましてそれで書いたものです」

遥:「兄さんと姉さんの出会いかあ。で、私は?」

鈴:「いんやあ、本編に出るのはもっと後だし、これ一応短編だから」

遥:「そう……」

鈴:「……えっと、遥さん? なんでいきなりあなたの神具『牙』をだすんですか?」

遥:「それは……あなたの頭を打ち貫くためよ!!」

鈴:「いやー!! 僕の頭をいじらないでええええええ!!」


それでは、感想、コメント、なんでもお待ちしております!

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