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CAPRICE -カプリース-  作者: 陽気な物書き
第一部 サリスティア王国編 ~第一章 胎動~
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聖堂会 シャルターニ支部へ

「案外普通だな……」


 こぢんまりとした聖堂の前に立ったアレスは、歯に衣着せぬ感想を漏らした。


 大陸に名を轟かす聖堂会である。支部とはいえ、もっと豪壮な建物を想像していただけに、どこか物足りなさを感じたのである。


「ここは宗教に寛容な国、サリスティアだからね。他宗教を過度に刺激しないように配慮し、外観は極力簡素にしているんだよ。まぁ、本国の大聖堂を見たら、きっと腰を抜かすだろうけどね」


 聖堂を見上げながら、アルジャーノは得意顔で説明した。その視線の先――聖堂入り口の上には、女神エルミラのレリーフが飾られている。赤子を胸に抱き、優しく微笑みかけているその姿は、まさに母親の象徴。通行人の中には、見上げて手を合わせる人もいる。


「たくさん人がいますね」


 ケフィの声に触発され、一同は聖堂内を覗き込んだ。五十人程度だろうか。子供からお年寄りまで、エルミラ像の前で真剣に祈りを捧げている。


「今日のような平日でも、千や二千は当たり前。これが十二月の女神降臨祭ともなると、こんな地方でも万を超える信者が押し寄せてくるんだよ」


「さすがは聖堂会といったところか」


「まぁね。さぁ、僕らはこっちだよ」


 上機嫌のアルジャーノは、聖堂側面の細い路地へと入っていく。アレスたちが黙って後に続くと、少し奥に入ったところで立ち止まった。


「どうした」


 アレスが声を掛けると、アルジャーノはゆっくり振り返った。


「ここだよ」


 入り口を示唆する返答だが、扉らしき物は見当たらない。


「どこから入るのですか……?」


 ケフィが尋ねると、アルジャーノは規則性のあるリズムで壁を叩いた。数秒後、外壁の一部がゆっくりと内側に開いた。十センチの厚みはある鉄製の扉だ。


「随分厳重だな」


「支部とはいえ、機密情報がたくさんあるからね。万が一にも侵入者を許すわけにはいかないんだよ」


 アルジャーノに続き、アレスは建物内に足を踏み入れた。中は小部屋になっており、二人の男性職員がいる。一人は操作パネルのある壁の前に立っており、もう一人はその護衛か、部屋の中央で剣を手にじっとこちらを見つめている。


「閉めてくれ」


 全員が中に入ったのを確認すると、剣を持つ職員が指示を出した。壁際の職員は、パネルを操作して速やかに扉を閉めた。


「おかえりなさいませ、アルジャーノ様」


 二人は背筋を伸ばして軽く頭を下げた。


「彼女はお客人だよ、アーノ。こっちの彼とペットはおまけだから、特に気にしないでいいからね」

〈こいつ、始末するか〉


 無礼な扱いを受けたことに対し、ロアは目敏く反応した。


 今回ばかりは、ロアの意見を全面的に受けいれたいとアレスは思った。いかに招かれざる客とはいえ、この扱いは非礼を極めており、敵意や殺意を覚えるのは、むしろ自然な感情の動きだと思ったからである。それでも無用な殺人を肯定するわけにはいかず、やはり思いとどまらせるしかなかった。


〈気持ちはわかるが、やめておけ。ここで殺しても何の意味もない。状況がややこしくなるだけだ〉


〈そうか……〉


 珍しく忠告を素直に聞き入れ、ロアはやり場のない怒りを押し殺した。


 アレスとロアがそんな思念会話をしていることなど知る由もなく、アーノと呼ばれた職員がケフィに手を差し出した。


「私は七級聖師のアーノと申します。そちらの扉の開閉担当の彼は、八級聖師のマレクです。以後お見知りおきを」


「ケフィ=アルカスターです。よろしくお願いします」


 アーノは軽く握手を交わすと、隣でふてくされているアレスに視線を移した。


「おまけの一人と一匹だ。よろしくな」


「は、はぁ……」


 アーノが困り果てているのを見て、アルジャーノは助け舟を出した。


「彼はアレス=フォウルバルトくん。そっちのペットは……」


「ロアだ。迂闊に触れるな。凶暴だから、噛みつかれるぞ」


「は、はい」


 頭を撫でようと手を出していたアーノは、慌てて手を引いた。ロアは何か言いたそうな目でアレスを見上げている。


〈余計だったか?〉


〈……〉


 アレスが思念伝達で尋ねると、ロアは何も言わずに顔を下ろした。


「そうだ。しばらくしたらイセリナ様が戻られるから、会議室へお越しになるよう伝言を頼むね」


「かしこまりました」


 上司の命を受け、アーノは軽く頭を下げた。


「じゃ、いこうか」


 アルジャーノがそう促すと、マレクが小部屋の奥の扉を開いた。その先に姿を現したのは、地下へと続く長い階段だった。

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