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CAPRICE -カプリース-  作者: 陽気な物書き
第一部 サリスティア王国編 ~第三章 急転~
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別離

 フォウルバルト親子は、ラドニスを会議室まで送り届けた。その際、アレスはラドニスに二つの頼み事をした。


 一つは、地下牢にいる五人の即時釈放。


 もう一つは、マルセン爆死事件の継続調査である。


 マルセンの事件については、軍事学校内という特殊な事件であるため、管轄である国家公安局が捜査に当たっている。そのため、アレスが直接事件の進捗状況を知ることはできないので、国王であるラドニスに真相を突き止るよう頼むほか手段がなかったのである。


 ラドニスは二つの願いを快く聞き入れ、リエリたち五人は程なく釈放された。


 リエリとヴィラートは、早速ラドニスからの召集を受けて会議に参加した。ルヴァロフの強い希望により、二人にはルヴァロフ処刑の真相は知らされていない。


 イセリナはフォルナー暴走の真実を本国に伝えるべく、アルジャーノをすぐに出発させ、自身は応接室へと足を運んだ。


 ルヴァロフに呼ばれたケフィは、彼の部屋で今後の行動についての話し合いを始めていた。


『これからどうするつもりだ、アレス』


「旅に出ようと思っている」


『奴を追うのか?』


「あぁ。あんな危険な奴を野放しにしておけないし、その旅の中で、より上位の悪魔召喚を会得する手掛かりを探すつもりだ」


『ほぉ……』


 ルヴァロフは静かに驚いた。


 二位や一位の悪魔ともなれば、その召喚方法すら謎が多く、解明されている数は圧倒的に少ない。


 稀代の悪魔召喚師と称されるルヴァロフでさえ、二位が五体、一位が二体、魔王級が一体しか契約に至っていないことから考えてみても、いかに困難であるかは容易に窺い知れる。それを承知しながらアレスが自ら求めて行動に出ることは、フォルセウスという強敵に精神的に追い詰められている状況でありながらも、十分評価に値することであった。


「それで一つ頼みがあるんだが……」


『頼みだと?』


「他でもない。ケフィのことだ。先の見えない危険な旅に彼女を連れて行くわけにはいかない。だから親父に身柄を預けたいんだ。頼まれてくれるか?」


『フッ、嫌だね』


 鼻で笑い、ルヴァロフは軽く一蹴した。


 アレスは呆気に取られ、自分の耳を疑った。


『なんだ、その顔は? 俺は嫌だから嫌だと言ったんだ。何か文句があるか?』


「駄々をこねた子供じゃあるまいし、嫌だはないだろう。それに護衛は元々親父がやっていたことじゃないか! 途中で放棄した責任を取ろうとは思わないのか!」


 アレスは語気を荒立て、父親の無責任な発言を糾弾した。


『放棄か……そう言われれば返す言葉もないが、見ての通り、借り物の体だ。ケフィの護衛どころか、直に消えてなくなる。こればっかりはどうしようもないのでな』


「そんな……」


『それに俺が死んだ時点で契約は無効だ。一部の悪魔契約のように、死後にまで効力が及ぶ性質の契約ではないからな』


「それぐらいわかっている」


『だったら、俺に頼らず自分の力で守ってみろ。それが今を生きているお前の責務だろうが!!』


「……」


 アレスは視線を落として黙り込んだ。ケフィを守り抜く自信がないことを見透かされた気がしたのである。


 互いに相手の反応を待つ二人に言葉はなく、沈黙が場を支配する。


「私も一緒にいきます、アレスさん」


不意に口を開いたケフィの一言に、アレスは驚いて顔を上げた。


「だめだ。君を連れていくわけにはいかない」


「どうしてですか? あの男は皆の仇です。私には同行する資格はあるはずですが」


「それはそうだが……」


 ケフィの言葉は筋が通っており、反論の余地はない。それでも今回の一連の事件を通して自身の無力さを知ったアレスは、同行を了承することに二の足を踏んでいた。


「大切な多くのものを失ったあの日、私と交わした話を覚えていますか?」


「もちろんだ。忘れるはずがない」


「でしたら、同行させてください。お願いします」


 ケフィは深々と頭を下げて懇願した。


 アレスが対応に困っていると、ルヴァロフが平手で力一杯背中を叩いた。


『まだ迷っておるのか、この甲斐性なしめ! 女一人守れなくてどうする!』


 発破を掛けられたアレスはまだ戸惑いながらも、ケフィの顔を見つめ、重々しく口を開く。


「きっと、辛く厳しい旅になる。その覚悟はできているか?」


「はい」


 決意と覇気に満ちた返事に対し、ただ一度、アレスは大きく頷いた。その意を汲み取ったケフィの顔は喜びに紅潮し、満面の笑みに包まれた。


『さて、馬鹿息子もようやく腹を括ったことだし、俺はそろそろ退散するか。こいつの肉体を借りているのもそろそろ限界のようだしな』


「親父……」


『情けない顔をするな。これを機にお前も独り立ちするのだ。その門出を見送るのが俺の父親としての最後の仕事だ』


 ルヴァロフはアレスの肩に手を回し、耳元で何か囁いた。その内容に驚いたアレスは何かを訊ねようとしたが、ルヴァロフは大きく一度頷いてそれを制した。


『では、さらばだ、アレス』


「あぁ、またな(・・・)、親父」


 二人は力強く握手を交わした。


 その数秒後――


「……いつまで握っているつもりだ。さっさと手を離せ」


「ロア、なのか……?」


「見てわからぬのか、愚か者め」


「いや、見た目は何も変わってないんだが……」


 アレスの指摘を当然のように無視し、ロアは振り払うように手を離した。


「なぁ、ロア。親父はどうして今回の一連の事件の経過や、フォルナーやフォルセウスのことまで知っていたんだ。まさか事件当初から体を貸していたわけじゃないだろう?」


「知れたこと。我と記憶の共有化をしたにすぎん」


「お前の記憶を親父が自分の物としたのか?」


「簡単に言えば、そういうことだ。無論、限定的な記憶しか与えておらんがな」


 普段人を見下してばかりのロアが自分の記憶を人間に分け与えることをよしとしたことに、アレスは驚きを禁じえなかった。


「で、お前はどうするんだ。リエリさんの所に戻るという選択肢も――」


「無論、貴様に同行する。貴様のほうが遥かに甚振り甲斐があるからな」


 アレスが提案を言い終わるより早く、ロアは自分の意思を示した。


 その内容に呆れ、アレスは大きなため息をつく。


「……相変わらず歪んでいるな、お前の思考は」


「悪魔に真っ直ぐな心根を求める方がどうかしておる。貴様がなんと言おうと、我の考えは変わらぬからな」


「好きにしろ」


 素っ気なくも、アレスはロアを受け入れた。


 事件当初は厄介者としか思えなかったロアも、今では頼れる相棒である。


 一連の事件を通して自分の未熟さを痛感したアレスが、彼の同行を拒否できる理由などなかった。 

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