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CAPRICE -カプリース-  作者: 陽気な物書き
第一部 サリスティア王国編 ~第三章 急転~
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親子

「一つだけ教えてくれ。フォルセウスは、奴は一体何者なんだ!」


 アレスは駆け寄って問いかけた。


「誰のことですか? 私はそのような人物を知りません」


 感情の篭らない声で、ノーラは明言した。


 アレスは思わず目を瞠る。


「本当に、知らないのか?」


「では逆に聞きますが、この期に及んで私が嘘をついて何になりますか?」


「……」


 アレスは愕然とし、言葉を失った。


 敵の壮大な計画においてはノーラも一つの駒に過ぎず、真の黒幕が他にいると確信せざるをえなかった。


「もういいか、アレス」


「あ、はい……」


 強制的に会話を終了させ、レイティスは主の前に彼女を突き出した。


「陛下……」


 ノーラは寂しげな目で見つめた。


 その視線を受け止めたラドニスの目には、深い失望の色が浮かぶ。


「残念だ……卿ならば、ルヴァロフ亡き後も余の信頼に応えてくれると期待しておったのに……」


「ご期待に沿えず、申し訳ありません……」


 ノーラが示した謝意に対し、ラドニスは何も応えず、ただ一言「連れていけ」とだけ命を下した。そして何を思ったのか、アレスに向けて頭を下げた。


「すまぬことをしたな、アレスよ」


「何のことだ」


「先日、余と面会した時に話した内容のことだ。ルヴァロフが契約に成功したとはっきりわかるまでは、処刑の真相を伏せておくという約束だったのでな」


「万が一、失敗した場合のことを考えてだろう。それなら仕方ない」


 真剣な顔でアレスが呟くと、ルヴァロフはふてぶてしく鼻で笑った。


『フッ、笑わせるな、馬鹿息子。俺が真相を伏せておくようにお願いしたのは、他国に情報が漏れないようにするためだ。お前のような未熟な小心者と一緒にされては困る』


「それが実の息子に言う言葉かよ……」


『実の息子なればこそ、自然と言葉がきつくなるのも道理だとは思わないか?』


「厳しい父性愛ってわけか……こんな時だけ親父面されても迷惑だけどな」


『俺はお前の親だ。文句でもあるのか?』


「親だからといって、子供を侮辱していい法はない。そんなことも知らないなんて、天下の悪魔召喚師も親としては三流以下ってわけだ」


『今の言葉、聞き捨てならんな』


「図星だろ? 三流親父」


『それが親に対して言う言葉か!』


「ええい、二人ともやめぬか!!」


 あまりの見苦しさに呆れ果て、ラドニスは大声で怒鳴った。


 ルヴァロフ親子は互いの口撃をやめ、驚いた顔でラドニスを見ている。


 どうやら、二人ともラドニスの存在を完全に忘れていたようだ。


「こんなところで親子喧嘩などしおって。余以外誰も見てないからいいものの、みっともないとは思わないのか!!」


『申し訳ありません、陛下……ほら、お前もだ!』


 ルヴァロフは頭を下げながら、アレスの頭を押さえつけた。当然、アレスは反発し、親子喧嘩の第二幕が上がる。


「いてぇな、なにすんだ!」


『おとなしく頭を下げろ!』


「なんで俺が!!」


 一向に収まる気配のない二人を見て、ラドニスは仲裁することが馬鹿馬鹿しく思えてきた。


「もう何も言わん。余はこれより今後のことについて会議を開くゆえ、そなたらはここで気の済むまでやるがよい」


 それだけ言い残し、王宮に戻ろうとすると、ルヴァロフが先回りして跪いた。


『お待ちください、陛下。私もその会議に列席させていただきたく存じます』


「無用だ」


 にべもなく拒絶されたことに驚き、ルヴァロフは顔を上げる。


「なぜでございますか? 見苦しいものをお見せしてしまった罰でございますか?」


「そうではない」


「ではどうして――」


「そなた、まさかその姿で会議にでるつもりではなかろうな?」


 食い下がるルヴァロフの言葉を遮り、ラドニスは問い返した。


 ルヴァロフは自分の手足を見て、それが自分のものでないことを認識した。


『……恥ずかしながら、熱くなってすっかり忘れておりました』


「呆れた奴だ……」


『面目次第もございません』


「それに、そなたは公式的には死んでおるのじゃ。国を思う気持ちは嬉しいが、死人になってまで会議に顔を並べる必要はあるまい」


 ラドニスが笑いながら指摘すると、ルヴァロフは恥ずかしそうに「御意に」と答えた。

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