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CAPRICE -カプリース-  作者: 陽気な物書き
第一部 サリスティア王国編 ~第三章 急転~
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復活

 三日後、アレスたちは処刑の日を迎えた。


 英雄であったルヴァロフほど関心はないのであろう。彼の時に比すると、処刑を見物しようと広場に集まった市民は圧倒的に少ない。そのせいか、ルヴァロフの処刑時はテラスから見下ろしていたラドニスが、今回はノーラとレイティスを伴って処刑台の正面に陣取っている。


 最初に処刑台にあげられたのは、アレスであった。


 この三日、ラドニスに期待していたが、処刑が予定通りに実行されるということは、結局ノーラの言いなりになってしまったのだと、アレスは判断した。


「それでは、公開処刑を行います」


 ノーラの澄んだ声が響くと、死刑執行官が両手斧を振り上げた。


 広場は静まり返り、群衆は処刑の瞬間を待っている。


 ルヴァロフが命を絶たれた処刑台の上で同じ運命を辿ろうとしているアレスは、断頭台に首を固定された状態で晴れ渡った空を見上げた。


(親父も、こんな風に空を見ていたのか……)


 その美しさを目に焼き付けたアレスは、視線を落として宰相を見詰めた。


 それに気付いたノーラは、勝ち誇った笑みを浮かべて腕を振り下ろした。


 処刑の合図を確認した処刑執行官が斧で縄を切断し、重力に引かれた巨大な刃がアレスの首に襲い掛かる。


 今まさにアレスの命が絶たれようとしたその時、旋風のように飛来した黒い物体により、多くの血を吸ってきた呪われた刃は破壊された。黒いそれは処刑台を蹴って反転し、処刑執行官をも跳ね飛ばすと、 アレスの首枷の後ろで動きを止めた。


『間一髪だったな、アレス』


 頭上から降り注いだ声の主は、ロアだった。


 アレスは彼が窮地を救ってくれたと認識すると同時に、妙な違和感を覚えた。その原因は、今まで一度たりとも名前で呼んだことがないロアが、アレスと呼んだことだった。


 ロアは首枷から飛び降りて人間の姿をとると、アレスの首枷を破壊し、猿轡を外した。


「すまない。助かった」


 前屈みの姿勢から解放されたアレスは、首を擦りながら礼を言った。


『あれからもう三週間か……もっと早くこうなるものだと踏んでいたんだが、案外遅かったな』


「お前、何を言っている……」


 意味不明な言葉に戸惑うアレス。雰囲気もどことなく普段のロアとは違う気がする。


『いくぞ』


 短く声を掛けると、ロアは軽やかに処刑台から飛び降りた。違和感の正体を掴めないまま、アレスもそれに続く。


 その動きに目敏く反応し、レイティスの指揮の下、控えていた兵士たちがすぐに二人を取り囲んだ。


「何者だ。陛下に危害を加えるつもりなら容赦はせぬぞ」


 剣を抜き放ち、レイティスが立ちはだる。


『お前と事を構える気はない。陛下と話がしたいだけだ。そこをどいてくれ』


「聞けぬ願いだ。得体の知れぬ輩を陛下に近づけさせるわけにはいかない」


 レイティスは剣を構え、鋭い視線で牽制する。


 激突は不可避のものと誰もが見る中、それを未然に防ぐべく声を掛けたのは、他ならぬラドニスだった。


「待て、レイティス。その者は余と話をしたがっておる。ここへ通せ」


「しかし、陛下……」


「よいと言っておる。道をあけるがよい」


「……了解しました」


 一抹の不安を残したまま、レイティスは二人の包囲を解き、自身はラドニスの傍らに控えた。


 ロアは確かな足取りで悠然とラドニスの前まで来ると、片膝を突いて頭を垂れた。


『お久しぶりです、陛下。臣がこの世を去ってから三週間近くが経ちましたが、ご壮健な様子に胸を撫で下ろしております』


 見覚えのない人物の言葉に一瞬黙り込んだラドニスであったが、その物言いには心当たりがあった。


「……まさか……そなた、ルヴァロフか?」


『さようでございます、陛下。今は一時この者の肉体を借りております』


「やはりそうであったか。姿は違えど、ここへ戻ってきたということは、例の件、成功したのだな?」


『はい。おかげさまでつつがなく』


 目の前の人物がルヴァロフであると確信したラドニスは、報告の内容に満足して大きく頷いた。

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