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CAPRICE -カプリース-  作者: 陽気な物書き
第一部 サリスティア王国編 ~第三章 急転~
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困惑

「さっさと歩け!」


 不意に獄卒の声が地下牢に響き渡った。


 全員の視線が声の方へ向く。


 見ると、連行されているのはアレスだった。


「入れ」


 ヴィラートたちと同じ牢にアレスを放り込むと、獄卒はさっさと帰っていった。


「無事なようだな、アレス」


「はい。陛下(・・)と話をしてきただけですから」


「そうか……ならよかった」


 ヴィラートは安堵して大きく息を吐いた。


「アレスくん、元気?」


 壁越しに、リエリが陽気な声をかけてきた。


「はい、元気です! リエリさんたちは大丈夫ですか?」


「私もみんなも元気だよ! あ、そういえば、アルテイラさんがどこにいるか知らない、ヴィラート」


「俺は知らん。師の下で長い付き合いになるが、未だに何を考えているのかよくわからない人だからな」


 素っ気なくというよりは不機嫌そうに、ヴィラートは答えた。


「そっか……こんな時にどこいったんだろ……」


 リエリが頭を悩ませていると、アレスが会話に入ってきた。


「アルテイラさんなら数日前、駅で見かけました。どこへ向かったのかまではわかりませんが……」


「今はあの人のことより、俺たちの身を案じるべきだ」


 冷淡にそう提案すると、ヴィラートは三日後に処刑されることをアレスに話し、いつでも脱獄できることも併せて話した。


「脱獄はだめです」


 口を開くなり、アレスは一喝した。


「どうしてだ? このままここで処刑を待つっていうのか?」


「よく考えてみてください。ヴィラートさんやリエリさんがいるのに、あの女がどうして投獄の場所をここにしたのかを」


「なぜここか、か……」


 ヴィラートはこの地下牢の特徴を考えてみた。


 王宮の外れに位置し、人目につきにくく、劣悪な環境。


 だが、特別堅牢なわけではなく、なぜか監視の人間はいない。


 その気になれば、悪魔召喚で簡単に脱獄できる状況だ。


「言われてみれば、まるで逃げてくれと言わんばかりだな。見張りもいないし……」


「ノーラの狙いはまさにそこです。俺たちが脱獄するのを待っているんです」


「なるほど、そういうことか……俺にも読めたぞ」


 二人が得心する傍で、アルジャーノだけは何のことだかさっぱりわからない。


「僕にもわかるように教えてくれないかい、アレスくん」


「この国の法では、脱獄は死罪なんだ。つまり、たとえ投獄された人間が無実だったとしても、脱獄すれば、その一事で死刑にできる」


「そんな……」


 ようやく状況を理解し、アルジャーノは愕然とした。自分とイセリナは死刑の対象外ではあるが、宰相の理不尽なやり方に強い憤りを感じずにはいられない。


「だが、このままここにいてもどのみち死刑だ。だったら脱獄に活路を見出すほうが賢明じゃないのか?」


 状況を把握した上で、ヴィラートは反論をぶつけた。座して死を待つのは性に合わないからだ。


「さっき話してきて確信しましたが、陛下は俺たちを処刑する気はありません。処刑といっているのは、ノーラの独断と考えて間違いないと思います」


「つまり、ここにいる限り、処刑はないというのか?」


「はい、今のところは……」


 アレスはそう答えたが、今までの自信に満ちた声は影を潜めている。


「なんだ、はっきりしない物言いだな」


「問題は、この三日でノーラが処刑の同意を得られるか、です。もし陛下が同意されれば、三日後の処刑は免れません。また、同意を拒まれた場合は処刑こそ免れますが、その後の処遇はどうなるかわかりません……」


 アレスの返答はヴィラートを満足させるものではなく、より混乱を深める結果となった。


「やれやれ……全ては陛下の御心次第か……どちらにしろ、明るい未来ではなさそうだな……」

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