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CAPRICE -カプリース-  作者: 陽気な物書き
第一部 サリスティア王国編 ~第三章 急転~
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面会

 両手を後ろ手に縛られたアレスは王の間に連行され、サリスティア現国王ラドニスの前に引き出された。万が一に備えて、アレスには二人の近衛騎士がついている。


 玉座の右には宰相ノーラ、左には近衛騎士団長レイティスが控えている。


「そなたがルヴァロフの息子、アレス=フォウルバルトか?」


 ラドニスは肘掛にのせた右腕に顎を預け、感慨深げに話し掛けた。だが、アレスは顔を背けたまま、無言を決め込んでいる。


 本当は真っ直ぐに顔を見つめて、煮えたぎる感情を叩きつけてやりたかった。だが、それを制御する自信がなく、話を聞きだす前にここから退席させられてしまうことを懸念し、アレスはあえて直視することを避けていた。


「返事をなさい、アレス=フォウルバルト。陛下がお声を掛けてくださっているのですよ」


「そんなことを頼んだ覚えはない」


「無礼な!!」


 ノーラはアレスの前まで来ると、細くしなやかな手で頬を思い切り叩いた。


 アレスは顔を正面に戻し、冷たく敵意に満ちた目で睨みつける。


「なんですか、その態度は!!」


「そのへんでよかろう、ノーラ」


 ノーラが再度手を挙げようとすると、不愉快そうにラドニスが制した。


「ですが、陛下……」


「控えておれ。余はその者と話がしたいのだ」


「……はい。出すぎた真似をして申し訳ありませんでした、陛下」


 ノーラは悔しそうにアレスに一瞥をくれると、ラドニスに一礼して玉座の傍らに戻った。


「さて、アレスよ。此度の一件、そなたの口から話を聞きたいのだが、話してくれるか?」


「断る」


「そう無碍にすることもあるまい。これはいわば弁明の機会だ。そなたが何も語らなければ、余はそなたらの罪を鳴らさねばならなくなる。それでもよいのか?」


 穏やかな口調に内包された悪辣な意図を察し、アレスは渋々顔を上げた。


「ノーラから報告は聞いておる。そなた、町中で悪魔を召喚したらしいな。今さら言うことでもあるまいが、悪魔の力は強大で危険だ。よもや町中での召喚を禁じているのを忘れたわけではあるまい」


「そうしなければ、より多くの犠牲者が出ていた」


「つまり、民を守るためのやむをえない行為だったというのか?」


「そうだ。あの場にいた全員はそれを認識していた。だから迷わずに召喚に踏み切り、結果最悪の事態を回避した。これを糾弾するのだとしたら、悪魔召喚師の存在意義そのものを否定するのも同じだ。あんたは市民の命より、つまらぬ法を遵守することに意味があるというのか?  それが一国の王の考えなのか?」


「一市民の分際で、よくもそのような口を!!」


「ノーラ様!!」


 ノーラがアレスに駆け寄らんとするのを、レイティスが鋭い声で制した。


 不機嫌さを隠しもせずに振り返ったノーラの視線の先に、冷たい視線を寄せるラドニスの姿があった。これ以上の不況を買うことを恐れる彼女は、二人の会話が終了するまでは感情的な言動を自重すると決め、おずおずと自分の居場所に戻った。


「水を差してすまぬな、アレス。今のそなたの話に対し、逆に余から訊くが、市民を苦しめる原因となった悪魔を召喚したのは、悪魔召喚師であった聖堂会支部長だと聞いている。つまり、悪魔召喚師の存在がなければ、そもそも今回の事件は起こらなかったということではないのか?」


「……」


 急所を突かれて、アレスはぐうの音も出ない。


 それを察し、ラドニスは言葉を続ける。


「余はこれまで悪魔崇拝、悪魔召喚師に対して寛容な姿勢で接してきた。だが、そなたの父の裏切りが余の心に不安の種を植え付け、今回の一件がそれを大きく育ててしまった。そなたには世の心中にある失望の芽を信頼の果実に育て上げる術があるか?」


「今の俺にその術はない。だが、真実がわかれば状況を変えられるかもしれない」


「真実とはなんだ?」


「とぼけるな! 親父が殺された理由だ!!」


 アレスは感情を剥き出しにして噛み付いた。


「それは公開処刑の時に布告した通りだ。そなたの父は我が国を他国に売り渡そうとした。その事実が発覚したので逮捕、処刑に至ったまでだ」


「本当にそれが事実なら、その具体的内容が知りたい。頼む、教えてくれ!」


 アレスが思わず身を乗り出すと、近衛兵が剣を突き出して制した。


「口を慎みなさい、アレス=フォウルバルト。それはいわば国家機密に等しい情報。易々と口の端に乗せてよい話ではありませんし、まして大逆犯の息子に語られるはずがないでしょう」


「お前こそ黙っていろ。俺はこの国の王に訊いている!」


 アレスが息巻くと、レイティスが歩み寄り、剣の切っ先を喉元に向けた。


「威勢がいいのは結構だが、いつまでも非礼が通ると思うな」


「あんたには関係のないことだ。口出ししないでくれ」


「そうはいかない。私は陛下や宰相の身を守ることが仕事なのでな」


 無礼討ちなりの名目でこのままむざむざと殺されるぐらいなら、ヘルマイオスを召喚してラドニスとノーラを道連れにする――


 その覚悟で、アレスはいつでも召喚する気構えでいた。


「剣を引け、レイティス。ここでの流血沙汰は許さん」


「はっ」


 レイティスは剣を収めて振り返り、ノーラ同様、所定の位置に戻った。


「アレスよ。そこまで望むならば教えてやろう」


「陛下!?」


 驚いたノーラが奇声を上げた。


「構わん。実子ならば欲して当然。アレス自身、事の是非を考えるよい機会になるだろう――」

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