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CAPRICE -カプリース-  作者: 陽気な物書き
第一部 サリスティア王国編 ~第三章 急転~
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拘束

 フォルナーの死によってヴァラクは消滅。爬虫類の駆逐もほぼ完了し、役目を終えたサルベリオンとティルティナは、それぞれの契約者の手によって送還された。寒冷地並みの過酷さだった気象環境も正常化し、この季節に相応しい気温に戻りつつある。


 後に残ったのは、爬虫類の死骸と犠牲になった市民。そして不測の死を遂げたフォルナーの遺体であった。彼を半円状に囲む形で、アレスたちは集結を果たしていた。


「一度ならず二度までも……自分の詰めの甘さに反吐が出る……」


「そう自分を責めるな、アレス。フォルセウスといったか。奴を取り逃がしたのは残念だが、当面の危機は脱した。まずは満足すべき結果を得たと考えていいんじゃないのか?」


 ヴィラートが私見を口にすると、アレスは首を横に振った。


「まだだ。まだあの女がいる……」


「あの女……? 誰のことだ?」


「もしかして、宰相のことですか?」


 ケフィが尋ねると、アレスは大きく頷いた。


「黒幕はあの女に違いない。放置しておいたら、また何をしでかすかわからない」


「私は元アルカスター家の当主として、彼女に聞きたいことがあります」


「だろうな……ところで、それはなんだ」


 アレスはイセリナの持つファイルに注目した。イセリナは戸惑いの瞳でファイルを見つめる。


「……わかりません。支部長が息を引き取る寸前、私に……」


「見せてもらってもいいか?」


「はい、どうぞ」


 イセリナからファイルを受け取り、アレスは内容に目を通す。


「これは……」


「いったい何が書いてあるのですか?」


「エルガ式悪魔召喚に関する調査報告書だ。まさか本当に存在していたとは……」


 ファイルの存在はフォルナーの作り話だと思っていたアレスは、驚きを隠しきれないまま、ゆっくりと頁を捲っていく。


 低級悪魔の紹介、召喚方法に始まり、エルガ七十二魔王に関する調査報告が詳細に書かれている。その最後には、魔王の召喚方法を知る者の身辺調査報告が挙げられており、特に注意深く丁寧に読み進めていく。


 一人目はマルセン、二人目はケフィ。一人に数頁が割かれ、聖堂会が調べ上げた情報が事細かに記されている。やはりフォルナー自身のことは書かれていないようだが、万が一このファイルが流出した時のことを考えれば、保身のための妥当な対応策だと言えよう。ケフィの頁を読み終え、これで終わりかと思いながら頁を捲ると、予期せぬ三人目――正確には四人目の人物の名が飛び込んできた。


「馬鹿な! ……こんなことが……」


 アレスは思わずフォルナーの亡骸を見つめた。彼がこの場にファイルを持参し、イセリナに託した理由。そして彼が成そうとしていた深遠な計画。その全貌が鮮明に浮かび上がり、一本の線として繋がったのだ。


「何が書かれていた。説明しろ、アレス」


 ヴィラートに催促され、アレスは説明を再開する。


「フォルナーは魔王召喚を知る者を洗い出し、その全てを排除しようとしていたようです。そしてここには調査の結果判明した三人の魔王召喚を知る者の名が書いてあります。ケフィ、マルセン、そして残る一人は――」


「全員、その場を動くな!」


 突如現れた兵士たちに、アレスたちは取り囲まれた。


 半円状に包囲した五十名は下らない兵士たちは、全て近衛兵――


 その事実が、アレスたちに事の重大性を知らしめた。


「宰相閣下の命により、全員逮捕する」


「チッ、噂をすれば……あの女、なかなかどうして行動が早い」


 ヴィラートは苦々しい表情で呟いた。


「タイミングがよすぎますね。遠巻きにでも見ていたのでしょうか?」


 ケフィの言葉に、リエリが続く。


「あったまくるわね。サルベリオンで一発おみまいしてやろうかしら」


「いや、それはまずいんじゃ……」


 リエリが今にも暴走しそうで、ケフィは気が気でない。


「どうする、蹴散らすか?」


 兵士の挙動に注意を払いながら、ヴィラートはアレスに意見を求めた。


「いえ、やめておきましょう。無用な血を流すのは本意ではないし、ここはおとなしく捕まった振りをするのが賢明だと思います」


「私はそれで構いませんが、聖堂会のお二人が逮捕されるのは合点がいかないですね」


 ケフィが疑問を呈すると、すかさずリエリが提案を持ちかけた。


「あなたたちを逃がすくらいわけないわよ。必要なら手を貸すけど、どうする?」


「お気持ちはありがたいですけども、結構です。あの人の不始末を放置したまま逃げるのは後味が悪いですし、この国の王や宰相と直に話をするまたとない機会かもしれません。ぜひ同行させてください」


「無事に戻れないかもよ?」


「覚悟の上です」


 イセリナは短くも力強く答えると、フォルナーの亡骸を一瞥し、より強い決意を固めた。


「お前はどうする、アルジャーノ」


「イセリナ様が行かれる先が僕の行き先。当然同行するよ、アレスくん」


「決まりだな」


 ヴィラートの声に、一同は大きく頷いた。


「そうと決まれば、これを頼む」


 アレスはファイルをロアに銜えさせた。


「今あの女にこの内容を知られるわけにはいかない。頼んだぞ」


 ファイルを託されたロアは、建物の影を縫うようにして場を離れた。


 間もなく、アレスをはじめとする、ケフィ、リエリ、ヴィラート、イセリナ、アルジャーノ――計六名は身柄を拘束され、王宮へと連行されていった。

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