真相
「……く、くそっ……三大貴族の財宝が……」
男が未練たらしく漏らした言葉は、思いがけずアレスを驚かせた。
「……財宝? お前、ケフィから魔王の召喚方法を聞き出すつもりじゃなかったのか?」
「冗談じゃない。魔王なんて恐ろしいものに手なんか出すかよ。俺が知りたかったのは、アルカスター家の財宝の在り処だ」
まったく予想していなかった回答を得て、アレスとロアは顔を見合わせた。
「その話、どこで知った?」
「教えてもらったんだ。黒尽くめの男から」
「もしかして、飄々とした口調で、死人のような冷たい目をした男か?」
「あぁ、とても不気味な男だったが、どうしてそれを……」
「間違いない……奴だ……」
アレスは確信した。男に情報を与えた人物は、フォルセウスであると。
「そいつは他に何か言わなかったか? どんなことでもいい、教えてくれ」
「んー……そういえば、変なことを言っていたな。名前を名乗るな、待ち合わせ時間は正午にしろ……他に情報料を無料にする代わりに、もし若い男が来たら、できるだけ時間を稼いでくれとも……今思い返しても、何のことだかさっぱりわからないんだが……うっ、うう……」
突然、男が喉を押さえて苦しみだした。
「どうした! おい!」
「……う……うう……う……ぐわあああぁぁぁぁっ……!!!」
男は絶叫して地面に突っ伏し、間もなくぴくりとも動かなくなった。
アレスは呼吸と脈を確かめ、男の死亡を確認した。一度は見放した命だが、こうも容易く奪われてしまっては憤りを感じずにはいられない。
「お前の仕業だな」
アレスはバルドラを睨みつけた。契約者を失い、その姿は消えかかっている。
「そいつは、代償になんでもやると言った。俺はその言葉に従い、残る寿命を全て貰い受けただけ……ただそれだけのことだ……」
この世界での活動限界を迎え、バルドラは音もなく消滅した。
「間の抜けた奴だったが、命を奪われるほどではなかった……」
アレスは合掌し、静かに男の冥福を祈った。
「小心者の小悪党が悪魔召喚に手を出すからこういうことになるのだ。それよりも、あの男の目的が気になる。こんな小悪党を用いて、一体何がしたかったのだ?」
「問題はそこだ。待ち合わせ時間を指定し、若い男――つまり、俺が来たら時間稼ぎをしろというのは……しまった、そういうことか!」
アレスは大声を上げ、落ち着きのない様子で周囲を見回した。
「急にどうした」
「はめられた! 奴はこの墓地に来ていたんだ!」
「お前が来ることは想定内だったというわけか?」
「あぁ。奴は間違いなくここで俺の姿を確認している。そして本当の目的を果たすべくある場所へ向かった。向かう先は当然――」
「小娘の屋敷か!」
「そういうことだ。急ぐぞ!」
アレスは墓石の裏に隠れているフレイの手を取ると、脱兎の如く駆け出した。
駅へと急ぐ中、アレスの脳内では、様々な疑問が一つに繋がっていた。
場所を国立墓地に指定させたのは、人目につかないからではない。スルトバーグに発着する列車の本数が少ないからである。そして待ち合わせ時間を正午と指示したのは、列車の本数が最も少ない時間帯であるからで、たとえアレスが思惑に気付いても、陸の孤島に閉じ込めて時間稼ぎができる――
フォルセウスはそこまで見越していたのだ。
「くそっ、頼む、間に合ってくれ!!」