表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
CAPRICE -カプリース-  作者: 陽気な物書き
第一部 サリスティア王国編 ~第二章 一つの終焉~
37/64

行方不明

 日が西に傾きかけた頃、屋敷に戻ってきたアレスを待っていたのは、血相を変えて屋敷内を駆け回る住人たちだった。


「君、ちょっといいか?」


 アレスは目の前を通過しようとしたメイドを捕まえた。


「あ、アレス様。お帰りなさいませ」


 息を切らせながら、メイドは律儀に一礼した。


 右目の変化に驚くかとアレスは思ったが、どうやら彼女は変化を認識していないらしく、普段と変わった反応を見せなかった。不思議に思って思念通話でロアに尋ねると、右目が色を変えるのは、ヘルマイオスが右目を通じてこの世界を見ている時――つまり、アレスが一時的に視力を失っている時だけらしい。


 明快な返答にアレスは得心し、会話の対象をメイドに戻した。


「いったい何の騒ぎだ」


「家の者総出でフレイを捜しているのです」


「いないのか?」


「はい。気付いたのは執事のムントさんなのですが――」


 メイドが説明しようとすると、奥から姿を現したケフィが小走りで駆け寄ってきた。


「見つかりましたか?」


「いえ、それが、まだ……」


「そうですか……一体どこへいったのでしょう……」


 アレスの目には、二人の表情が一層沈んだように見えた。


「私は、もう少し二階を捜してみます」


「お願いします」


 メイドがこの場を離れるのを見計らい、アレスは声を掛けた。


「俺も手伝おう。人手は多いほうがいいだろう」


「あ、アレスさん。お帰りなさい」


 ケフィは驚いたような顔でアレスを見つめた。おそらくフレイのことで頭が一杯で、その存在に気付かなかったのだろう。


「フレイは見つからないのか?」


「はい……これだけ捜してもいないとなると、あとは外に出たと考えるしか……」


「まずいな、もうすぐ日が暮れるぞ」


 この時期、日没と同時に気温もぐっと下がる。このまま夜を迎えれば、フレイの生命にも係わる恐れがある。


「どうしましょう……」


「あんな小さい子だ。そう遠くへ行ったとは思えない。俺が外を捜そう」


「お願いしてもいいですか?」


「あぁ、任せてくれ」


 進んで捜索を引き受けたアレスは、ロアを引き連れて屋敷を出た。太陽は西に傾き、あと一時間もしないうちに完全に沈んでしまうだろう。時間的制約もさることながら、ここシャルターニは、数日前に初めてきた不慣れな町である。女の子が行きそうな場所など見当がつくはずもなく、アレスは早速頭を抱える羽目になった。


「さて、どこから捜せばいいものか……」


「クックックッ……安請け合いするからこういうことになる。相変わらず学習能力のない奴め」


 ロアはお決まりの口調で毒を吐いたが、この時ばかりはアレスの怒りを喚起することはなかった。彼の頭の中は、行方不明の少女のことで一杯だったからだ。


 ケフィの屋敷に来てから、ケフィ以外で最も気さくに接してくれたのは彼女だった。子供特有の無遠慮さと言ってしまえばそれまでかもしれないが、初めて他人の家で生活するアレスにとっては、多少鬱陶しいと感じながらも、とてもありがたかったのも事実である。だからなのだろうか。フレイに対しては特別な親近感を覚えていた。


「ここで突っ立っていても仕方がない。二手に別れて手近なところから捜してみよう」


「我にも捜せというのか!」


「つべこべ言わずに手伝え!!」


 いつにない大声でロアの反論を封じると、アレスはすぐ傍にある路地へと入っていく。


 その後姿を見送りながら、ロアはひとりごちる。


「無能者め。リュバールでも召喚できれば、たちどころに居所がわかるものを……」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ