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CAPRICE -カプリース-  作者: 陽気な物書き
第一部 サリスティア王国編 ~第一章 胎動~
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手紙

「さて、どうしたものかな……」


 机に頬杖を突き、アレスは途方に暮れていた。


 公開処刑の後、真相を究明すべく、早速情報収集を始めたが、王都には厳しい情報統制が敷かれ、町の人間から何の情報を得ることもできなかった。それでもめげずに奔走していると、ついには王都治安維持部隊である国家公安局が出張ってきて、これ以上の情報収集活動は王都の治安を乱す行為とみなし、身柄の拘束も辞さないと圧力をかけてきた。脅しなど恐れはしないが、行動の自由を奪われるわけにはいかず、やむなく活動を断念し、自宅に篭って今後の対策を思案していたのである。


「無能者め。無為に時間を潰すぐらいならば、あやつの弟子たちを頼ればよかろうに」


 机の上に寝そべっているロアは、首をもたげていささか面倒臭そうに言った。すると、アレスは深いため息をつき、小さく首を横に振った。


「それは無理だ」


「なぜだ。あやつらなら口を閉ざしたりはすまい」


「考えてもみろ。リエリさんたちは親父の最も身近にいた人物だ。そう簡単に会えるはずがないだろう」


「ではどうするのだ」


「それがわからないから、こうやって考えているんじゃないか……」


 アレスは視線を宙に飛ばし、再び思考の迷宮に迷い込んだ。


 しばらくした頃、一通の手紙が届いた。封筒には、差出人の名は書かれていない。


「貴様宛てか?」


「あぁ、誰からかはわからないけどな」


 封筒を弄びながら、アレスは訝しげに答えた。


「我にはわかるぞ。差出人は男だ」


「何を根拠に……」


「簡単なことだ。貴様に手紙を出すような奇特な女などおるはずがあるまい」


 アレスは沈黙した。あまりにくだらない発想に腹を立てる気すら起こらなかったのであるが、その内容が覆しがたい事実であり、反論の言葉を完全に封じられていたという側面もあった。


 それでも、中を見るまでは断定はできない。もし手紙の主が女性だったら声を大にして文句を言うつもりで、アレスは封筒の封を切った。




 拝啓、アレス=フォウルバルト様。


 突然お手紙を差し上げることをお許しください。私はルヴァロフ様に大変お世話になったものです。つきましては、ぜひ直接にお伝えしたいことがありますので、お会いしていただけないでしょうか。日時と場所は――




「なんと書いてあったのだ?」


 少し時間をおいて、ロアが声をかけた。


「親父の知人が会って話をしたいらしい」


「ほぉ、情報源のないこの状況で、願ったり叶ったりではないか」


「さぁ、どうかな……」


 アレスは机の上に無造作に手紙を放り投げると、椅子の背もたれに体を預け、ぼんやり天井を眺めた。


「相手の名は書いてなかったのか?」


「ケフィ=ハルファス。それが差出人の名前だ」


 特に関心もない様子で、アレスはその名を口にした。すると、ロアは四肢を伸ばしてさっと立ち上がり、とことこと目の前までやってきた。


「尋ねるまでもないが、当然会うのだろうな?」


「いや、会わない」


「なぜだ」


 言葉少なにロアが問い詰めると、アレスは体を起こし、不機嫌そうな顔を近づけた。


「俺がまだ幼い頃、知人を装って近付いてきた女に誘拐されそうになったことがある。そんなことを経験していれば、誰だって警戒するのは当然だろう。違うか?」


「貴様の過去など知ったことではない。会いたいというのであれば、会ってやればよかろう」


「そうは言うが、手紙の内容は漠然としていて、面会の理由が不明瞭だ。どう考えても怪しい」


「我はそうは思わぬ。万が一手紙がお前に届かなかった時のことを考えれば、内容を不明瞭にしておくのはむしろ当然の対策だ。相手はなかなかに頭の切れる人物なのではないのか?」


 延々と続くかに思われた主張の応酬の最中、予想だにしない言葉を耳にして、アレスは目を丸くした。


「お前が他人を褒めるなんておかしいぞ。まさか心当たりがあるのか?」


「そんなものはない」


「だったらどうして――」


「うだうだ言わずにとにかく会え。よいな」


 アレスの言葉を遮り、ロアはついに面会を強要した。


 これほど強く望むからには、ロアが何か知っていると考えるのが妥当であり、それならば無視するのは得策ではない。そう考える一方で、面会への抵抗を完全には払拭できず、アレスは顎に手を当てて考え込んだ。


 その様子をしばらく無言で見つめていたロアであったが、いっこうに結論を口にしないことに苛立ち、辛抱できずに声をかけた。


「どうなのだ。会うのか? 会わないのか?」


「んー……お前の考えに完全に納得したわけじゃないが、会うだけは会ってやる」


「二言はないな?」


「あぁ、お前の熱意を買ってやるよ」


 アレスは根負けし、ついにロアの要望を受け入れた。これに満足したのか、ロアは自分の指定席に戻り、体を丸めて蹲った。


 無意味に熱を帯びた口論が終わり、アレスはほっと息をついた。だが、一見落ち着いたかに見えるロアの心中は、嵐に荒れ狂う大海のようにひどく掻き乱されていた。


(ケフィ=ハルファス。まさかとは思うがな……)


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