フレイの過去
「それにしても驚いたな。しっかり者の印象が強い君が、あんな小さな子に子供扱いされているなんて」
率直な感想を述べ、アレスはコーヒーを一口すすった。
「私なんかより、彼女の方がよほどしっかりしていますよ。炊事、洗濯、掃除、なんでもできますから」
「あんな小さいのにか?」
「はい。当家のメイドの中でも手本とすべき働き者なんですよ、彼女は」
ケフィは満面の笑みで称賛した。本人がここにいれば、照れながらも誇らしげに喜んだに違いない。
「彼女がメイドとして有能だということはわかったが、さっきの意味不明な点数はなんだったんだ?」
素朴な疑問をぶつけると、ケフィは少し困ったような表情を見せ、ぼそぼそと話し始めた。
「あれは……その……癖と言うか、習慣というか……フレイちゃんは、男性のお客様が来ると、点数をつけたがるんです。アレスさんは久しぶりのお客様だった上にルヴァロフさん縁の方なので、きっと嬉しかったんだと思います。もし気分を悪くされたのでしたら、彼女に代わって謝ります」
「いや、別にそういうわけじゃない。あんなことをされたのは初めてだったんで、ちょっと戸惑っただけだ」
「そうですか……それならよかったです。あの子の母親は早くに亡くなり、男手一つで育てられたそうです。その父親はフレイちゃんとのコミュニケーションの一貫として、いつも彼女に聞いていたそうです。今日のお父さんは何点だ? と。毎日一人で留守番をする彼女にとっては、その一時はとても楽しいものだったに違いありません。だから父親を事故で亡くしてこの家に引き取られてきてからもその習慣が抜けず、男性の方を採点したがるのだと思います」
「なるほどな……」
「そんな彼女の太陽のような眩しい笑顔には、私自身何度も救われてきました。だから私は、何を犠牲にしてでもあの子を守ってあげたいと思っています」
フレイを想う彼女の横顔には、イセリナの面影がある。母親のようにアルジャーノを見守る姿が、アレスの目にはだぶって見えたのだ。
「気持ちはわかるが、自分自身を犠牲にすることだけはしてくれるな。親父に後を託された俺の立場がなくなってしまうからな」
「そうならないように、ちゃんと守ってくださいね」
笑顔でしっかりと釘を刺されたアレスは、咳払いを一つして話題を変えた。
「それで今後のことだが――」
「私に一つ提案があるのですが、よろしいですか?」