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CAPRICE -カプリース-  作者: 陽気な物書き
第一部 サリスティア王国編 ~第一章 胎動~
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審問

「――つまり、あなたがたがマルセン氏に会うために軍事学校を訪れた直後、彼は何者かに殺害されたということか……」


 聴取で得たメモを見ながら、ミゲロは事実確認した。


 アレスたちはマルセン殺害事件の重要参考人として、校長室の隣にある応接室で、国家公安局員であるミゲロから事情聴取を受けていた。


 聖堂での一件は、フォルナーが矢面に立ってくれたおかげでアレスたちは煩わしい事情聴取をされずに済んだが、今回はそうはいかなった。特に追究されたのは、事前にマルセンが命を狙われていることを知っていたことだった。校長や生徒たちの証言で被疑者のリストに名を連ねることはなかったが、犯人を特定する重要な手掛かりになると期待され、根掘り葉掘り聞かれる羽目になっていた。


「こんなことを言うのは不謹慎かもしれんが、殺害されたのがあなたでなくて、正直ほっとしている。アルケスター家といえば、ここシャルターニの経済を動かす三大貴族の一つ。その当主が殺害されたとなれば、町が大打撃を受けるのは必至。下手をすれば、シャルターニだけでなく、この国の経済に影響を与えかねない一大事だ」


 手振りを加え、ミゲロは熱っぽく語った。


 アレスたちは特に反応を示すこともなく、黙って話を聞いている。その傍らで大きな欠伸をしたロアは、退屈な話をする役人を一瞥し、もううんざりだといわんばかりに尻を向けた。


「とにかく、次に狙われるのがあなただとわかった以上、我々が責任をもって保護する。よろしいな」


「……」


 無言のケフィは、大きく一つ息を吐いた。これは彼女が予想していた展開で、自分が言葉を発するまでもなく、彼女の信じる人物が必ず拒否すると確信していた。


 はたして、その人物は口を開いた。


「やめておけ。死人が増えるだけだ」


「どういう意味だ」


 ミゲロは眉を顰め、不愉快な発言者であるアレスを睨んだ。


「公安の手に負える相手じゃない。係わらないほうが身のためだ」


「我々は市民の安全を守り、それを脅かす者を逮捕することが仕事だ。見て見ぬふりなどできるはずがない」


「だったら今すぐ職を辞めろ。それで数十年は寿命が延びる」


「生憎だが、君に寿命を心配される謂れはない。職務遂行中の殉職ならば、むしろ本望というものだ」


「その美徳観念が多くの人間を不幸にする。政府の犬とはいえ、哀れだな……」


「なんだと! もう一度言ってみろ!!」


 ミゲロは激昂して跳ねるように立ち上がり、掴み掛かって拳を振り上げた。アレスは恐れる素振りも見せず、冷めた目で言葉を続ける。


「あんたの妄信的な正義は、間違いなく死期を早め、周囲の人間に悲しみをもたらす。それを理解できないことが哀れだと言っているのがわからないのか?」


「知ったような口を利くな! お前に何がわかる!!」


「二人とも、やめてください!!」


 見兼ねたケフィが、顔を紅潮させて叫んだ。ミゲロは拳を振り下ろす寸前で、顔だけをケフィに向けた。アレスは胸倉を掴む手を払い、済ました顔で着衣の乱れを直した。


「私は、アレスさん以外、誰の保護も受けるつもりはありません。ですから、不毛な口論はやめてください」


「しかし、あなたに万が一のことがあれば――」


「大丈夫です。こちらには二人も悪魔召喚師がいるんですよ。一人は魔王を召喚でき、もう一人は稀代の悪魔召喚師の息子。これで勝てないようなら、あなたがたが何十人いても結果は同じだと思いますが、違いますか?」


「……」


 柔らかな物言いの中に隠された辛辣な皮肉は、ミゲロに反論の機会を与えなかった。その表情は怒りと悔しさに満ちている。


「まぁ、そういうことだ。直接襲ってくる奴は、俺たち自身が処理する。それ以外はあんたら公安に任せる」


「……いいだろう、好きにするがいい。だがこれだけは言っておく。我々は国家機関だ。やろうと思えば、いつでも君たちの身柄を拘束できる。そのことをよく覚えておくんだな」


 ミゲロは権力を傘に着た恫喝を加えて己の矜持をかろうじて保つと、書類を小脇に挟んで立ち上がり、そそくさと退室した。


「さて、俺たちも帰るか。今日はいろんなことがあって疲れた」


 ミゲロの言葉など意に介さず、アレスは大きな伸びをして、ゆっくりと腰を上げた。


「では、今夜は当家へお泊りください。ここからならそう遠くはありませんし」


「そうだな……腹も減ったし、家に帰るのも正直めんどうだ。君の言葉に甘えて、そうさせてもらうかな」


「はい」


 二人は早々に軍事学校を後にするつもりでいたが、じっと一点を見つめたまま押し黙っているイセリナを放ってはおけなかった。

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